※本企画はHeritage&Legends 2025年3月号に掲載された記事を再編集したものです。
水圧検査での水漏れが 増えるシリンダーを対策
後継モデルで行われた対策がパーツとして以前のモデルに使える。そんな系列間エンジンの互換性も、スープアップや長寿化、ひいては可能性や人気に影響したと思えるニンジャ系。純正以外でもピストンやカム等のパーツフォローがあることが、大きな助けになっている。ただGPZ900R誕生40年超、生産終了22年という時間には抗えない部分が顕著になった。

▲DiNxでプレス台上に置かれ、左端気筒(#1)のスリーブを抜く途中のGPZ900Rシリンダー。スリーブを抜くこと自体は他のスリーブ式シリンダー同様に行えるが、抜いたスリーブに1気筒あたり計3本の水漏れ予防用Oリングが入るのはGPZ900R~ZZR1100(含むGPz750R)、GPZ1100/ZRX1100のみの特徴。Oリング交換はこれからオーバーホール時に必須の作業となる。
「純正シリンダーのスリーブに入るOリング、その上側が純正廃番になったんです。下側や上側用でもZX-10/11やZRX1100は出ますけど、GPZ900R/GPZ1000RXの上用がない。
ご存じの通り、GPZ900Rでは鋳鉄のスリーブがシリンダーの上と下で圧入されて、その間では冷却水が直接スリーブ外側に触れています。その上と下で水が漏れないようにOリングが入っているんですが、経年で劣化している。丸い断面が押しつぶされて四角くなったり潰れたり縮んだりしているんです。そこで内燃機加工部門のDiNx(ディンクス)で代替となる『シリンダーライナートップOリング』を作りました」

▲DiNxのシリンダーライナートップOリング(4本1組1980円)。素材に耐環境性や耐熱性も高いフッ素系ゴム最高質のバイトンを使う。純正サイズ再現のために製造誤差も考慮した金型から製作している。
ノーブレスト代表、中村さんは、こう切り出してくれた。アイキャッチの写真はGPZ900Rのシリンダーと、その新作Oリング。今まであまり話題に上らなかったパートのような気もするのだが。
「ニンジャのRCM(Radical Construction Manufacture。サンクチュアリーによるコンプリートカスタム)を作る際にはエンジンオーバーホールメニューが入ります。ボーリング、ホーニングも行うのですが、それらの作業前に必須となるシリンダーの水圧検査があります。ここで水漏れする個体がかなり増えてきました。それらはスリーブを抜いてOリングを入れ替えた上で再組み込みして作業する。当然新品Oリングは不可欠ですから、なくなると車両製作に影響する。それで新作に至ったんです」
この水圧検査は以前の取材でも紹介しているが、作業を担当するDiNx側でも、こう話してくれた。
「確かに水漏れするシリンダーは増えています。シリンダー上下をプレートで密封した上で冷却水を入れて水圧をかけるのですが、不良だとプレートに水がにじみ出てきます。エンジンで考えると燃焼室やクランクケースに水が回るので影響は大きいんです。そんなものは以前より多くなりました。
それでOリングを交換するんですけど、劣化したものの形や状態を見ると、これはもう、エンジンを開ける機会があればその時に一緒に新品交換していただいた方がいいと思います。もし水圧検査がOKで、そのままボーリング、ホーニングして組み立てても、その後に漏れる可能性が考えられます。せっかく組んだのにすべて再作業となる手間やコストも考えれば、開ける機会に交換を勧めます」

▲水圧検査は、シリンダーブロックを上下からゴム板で挟みアルミプレートで留め冷却水を満たした上で、ハンドポンプで圧力をかけて検査する。
ちょっとしたパーツだが、受け持つ役割は大。その上でRCM製作に不可欠なパーツだから作る。このところのサンクチュアリーでは半ば定番化したようなスタイルだが、そこだけに終わらない。
「純正代替ですけどせっかく換えるものですから、専門メーカーと分析・検討して純正のNBR(ニトリルゴム)と異なり、フッ素系最高材のバイトンを選びました。
耐熱性が高くて温度変化などの耐環境性が高い。宇宙でも使えるくらいです。形も単純なようですが、材料を流して製品になるまでの寸法や形状の変化も織り込んだ金型から作って、線径も±2/100mmにしました。純正はきちんとした質を維持しつつコストも量産車のために抑えていますから、チューニングや時間、年数で対応できない部分も出てきます。当社で作る分はコストは少しかかりますけど、そんな耐久性やチューニング適合幅まで含めています」
組みバラしとチューニングを担うサンクチュアリー、内燃機加工を担うDiNx。双方から出てきた情報を共有し、新しい製品に反映させる。もちろんノーマル車両にも使えるものだから、これを機にオーバーホール、合わせてOリング交換を考えるのも良さそうだ。

▲新作のDiNx 鍛造ピストンKIT(GPz900R NINJA)。純正から1mmオーバーサイズのφ73.5mmと少し上のパワーを求めるφ74.5mmの2タイプで各14万8500円。
あわせてDiNxからは、オリジナルスペックのGPZ900R用鍛造ピストン2タイプも登場している。これもオーバーサイズ品の純正廃番に適合し、少し上のパワーを狙うものという設定だ。Oリングやピストン、エンジン作業についてはDiNxに問い合わせを。
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純正代替/対策パーツを増やしその先のニンジャも
さて、DiNxによるOリングとピストンの内燃機パーツ2種に加え、サンクチュアリーでもSMB=サンクチュアリーメカニックブランドに新たな純正代替/対策パーツが用意される。
「ジェネレーターチェーンのカップリングギヤと、フロント側カムチェーンガイドです。どちらも純正廃番品で、これもやっぱりRCMを作るのに要る。つまり、普通にニンジャエンジンをオーバーホールしたりするのに要るんです。 前者はRCMニンジャ・スポーツパッケージNewTYPE-Rを作る際に、ギヤ/チェーンが幅広になったA8以降の対策品を使っていたところで、図面から起こして製作。カムチェーンガイドは素材の検討後テストも済んで、リリースできるようになりました」
どちらも前述のOリング同様に純正より上のスペックを持つように検討され、送り出される。今後もこうした純正代替プラスαのパーツ群は続いていきそうだ。
ところでそれらを使うコンプリートカスタムはどうなるのだろう。

▲AC SANCTUARYのGPZ900R。製作から7年・1万3000km走行し 良好な状態を保つ委託販売車両だ。各部の詳細はこちらのザ・グッドルッキンバイクページをチェック!
「GPZ900Rエンジンを使う17インチのNew TYPE-Rは継続してオーダー製作します。ルックスも性能も安定したニンジャと捉えてもらうといいですね。 もうひとつ、『フォーミュラパッケージ』もNew TYPE-R化するべく進めています。今まではZRXやGPZ1100という後継機エンジン搭載仕様でしたが、現代のZX-10Rエンジン+FIでのパッケージ。ZをA16というオリジナルフレームで作った時に、ニンジャ用フレームもL21と命名して構想していたんです。その考えが元で、新フォーミュラではフレームはニンジャを加工します。 17インチ最適ディメンション、エンジンが小さくなるのでその自由度を生かして重心やスイングアームマウント部の構成は変える。でもニンジャらしいルックスはきちんと持たせた、最新ニンジャ。ZX-10RのエンジンをTスロットテーブル(フレーム治具)でGPZ900Rに合わせるのももう始められる段階ですよ」

▲後継モデル用エンジンを17インチシャシーに積んだRCMニンジャ・フォーミュラパッケージの例となるRCM-606。ここではGPZ1100エンジンを1108㏄化して積み、ツーリング等での余裕としている。内燃機加工はDiNxが行い、サンクチュアリーではこうした車両も製作する。各部の詳細はこちらのザ・グッドルッキンバイクページをチェック!
GPZ900RエンジンのNew TYPE-R、後継エンジンのフォーミュラパッケージ、その先の現代エンジンによるフォーミュラパッケージNew TYPE-R。小さなパーツからこうした車両まで。今ならばこのコンプリートが、良質な車両がほしいという向きにも合うはずだ。パーツ/車両の動きとも、サンクチュアリーの今後の展開からは目が離せない。
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20~40年を経て変形・劣化しているシリンダーのOリング

シリンダーブロックを140℃あたりに熱する。アルミブロックのほうがより膨張してスリーブを抜きやすくなる。

プレス機にセットし、アダプターを介してスリーブをつばのない下から押して抜く。DiNxの作業場は冬も夏も均一の20℃に保たれている。


シリンダーブロックを上向きにする。冷却水通路に触れるあたりに赤さびが見える。下の写真では4気筒分ともシリンダーを抜いているが、どの気筒もスリーブの外側の錆が分かる。奥のシリンダーブロックを見るとスリーブ上部分の圧入部の長さがそう多くないこと、少し覗いている下側も同様、そして冷却水通路が大きく抜けていることが分かる。

スリーブを抜く途中で上側のOリングが見える。外側が円でなくつぶれて四角くなり、リング溝よりも収縮して小さくなっている。硬く、弾力もない。

こちらは外したスリーブ。右が上でリング溝が分かる。

GPZ900Rシリンダーのイメージイラスト。Oリングの位置や構造が理解できるだろう。
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長く乗るために 必須のシリンダー 水圧検査&加工


GPZ900Rシリンダーの加工前にしておきたい確認作業が水圧検査。まずは、シリンダーブロック上下面のウォーターホールを塞ぐようにゴム板を挟んだ上で上下からアルミプレートで留める。



冷却水を満たした上でハンドポンプで0.2MPa(2kgf・m/㎠近く)程度の圧力をかける。Oリング劣化などがあればでボルトを留めているようなあたり、シリンダーブロックとスリーブの境目に冷却水がにじみ出てくる。

まず水圧検査をし、OKならばスリーブ内径測定(横方向/縦方向を上/中/下で計る)を行ってボーリング等に続く。
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Oリングに加えて2スペックのピストンも注目の新作だ


DiNx 鍛造ピストンKIT(GPz900R NINJA)は、純正から1㎜オーバーサイズ(φ73.5㎜)で920㏄、少し上のパワーを求めるφ74.5㎜は958㏄と2つのタイプが新作された。。靱性に優れるA4032-T6材による鍛造/切削品で国内製造。首振りの少ないショートスカート等、現代的な作りだ。価格は各14万8500円だ。
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不可欠な純正廃番パーツも用意する

エンジン右側でクランクエンドとシリンダー背面にあるジェネレーターをつなぐジェネレーターチェーンがかかるカップリングギヤ。A8でギヤ部とチェーンが幅広くなって対策され、それへの交換を推奨するが、ここが純正廃番。サンクチュアリーメカニックブランド(SMB)で新作(写真は試作品)している。

フロント側カムチェーンガイド(写真はGPZ1000RX用で3面を見せている)も同様で当たり面の素材を純正プラスαとしてテストを重ねて製作。
取材協力
ACサンクチュアリー(SANCTUARY本店)
株式会社DiNx(ディンクス)