文:宮﨑健太郎(ロレンス編集部)
※この記事はウェブサイト「ロレンス」で2025年5月15日に公開されたものを一部編集し転載しています。
5月23日までに、約6億ユーロ≒980億4,450万円を調達しないといけません・・・
4月28日、ピーラー モビリティは同月22日のリリースで発表済みの前年度年次財務報告書の公表延期を、改めてリリースに書き記しました。そして報告書は遅くとも5月30日までに提出できるように努力している、28日のリリースには書かれていました。
とどのつまり報告書が出せない状況が示すのは、現状ピーラー モビリティは資金調達、および再建計画の遂行に苦労している・・・ということです。なお2月末の債権者との合意に基づき、5月23日までにピーラー モビリティは債権者への支払いのため約6億ユーロを調達しなければなりません。
またパーツ調達の問題から、ピーラー モビリティは4月28日から7月27日の間は再び生産を中断し、5月1日から7月31日までは従業員の労働時間を週30時間に短縮し、比例して賃金カットすることを明らかにしています。
この計画は更なる人員削減を避ける措置とピーラー モビリティは説明していますが、従業員たちにとってこの措置は家計的には非常に厳しい話でしょう。なお夏休みは生産中断に合わせ、8月から7月に前倒しすることになっています。

5月のフランスGP、決勝4位のペドロ アコスタ(レッドブル KTMファクトリー レーシング )と同5位のマーベリック ビニャーレス(レッドブル KTM テック3)。ドルナ スポーツとKTMの参戦契約は2026年まで有効ですが、KTMが新たな5年間の契約延長に同意するかどうか・・・も気になります。
www.ktm.com銀行や投資会社をとおしてピーラー モビリティは新たな投資家を探していますが、まだ救世主となる個人・企業を見つけられずにいます。昨年から、BMW、CFモト、バジャジなど様々な救世主候補の名前が各メディアにあげられてきましたが、4月末ころから有力候補としてカナダのBRP(ボンバルディア レクリエーショナル プロタクツ)の名が盛んに、オーストリアの新聞や海外2輪メディアに登場するようになったのです・・・。
買収に興味といっても、そのビジネス的視線はかなりシビアなもの・・・?
ピーラー モビリティ・・・KTMグループの救世主候補としては、以前からパートナー関係にあったインドのバジャジが有力視されていました。事実バジャジは総額1億5,000万ユーロの資金支援を行っており、3月からの生産再開を助けています。
しかしピーラー モビリティが抱える債権者からの請求総額は、約20億ユーロ≒3,272億6,530万円!と報じられています。KTM、バスクバーナ、ガスガスなどの2024年販売台数は29万2,497台で、前年の2023年の37万2,511台から大幅に減少しました。生産停止の影響もあり、2025年の数字はもっと厳しくなると予想されます。
最近救世主候補としてメディアが名あげるBRPはエンジンブランドのロータックスを傘下に持ち、ロータックスエンジンの供給先としてKTMとは長年の付き合いがあります。ロータックスエンジンが生産されるのはオーストリア北部のグンスキルヒェンであり、同じオーストリアのマッティクホーフェンにあるKTMとは人事的な融合も比較的容易に進められそうなイメージがあります。

日本では3輪のスパイダーや、PWCのSea-Doo、スノーモビルのSki-Dooなどが有名ですが、ボンバルディア(BRP)は1972年から1980年代の時代、オフロードモーターサイクルブランドとして北米で活躍していました。そして電動時代の到来に合わせ、ネイキッドの「パルス」(左)とデュアルパーパスの「オリジン」で、再び2輪の分野にカムバックを予定しています。
can-am.brp.comただ、BRPはKTMグループの買収に関心があることをメディアの取材に対し否定はしませんでしたが、不確実なことは公表できないとその本心を明かすこともありませんでした。ピーラー モビリティが擁する各ブランドのバリューや商品力には関心あるものの、BRPとしてはで買収するにしてもできるだけ少ない資金で済ませたい、というのが企業としての本音でしょう。ピーラー モビリティがもっと苦境に追い詰められるのがBRPにとっては理想のシナリオ?・・・資本主義の弱肉強食ぶりの恐ろしさですね。
KTM、ハスクバーナ、ガスガスいずれも斯界の名ブランドであり、長年モータースポーツの発展に貢献してきたブランドですから、従業員、株主、そして消費者すべてにとって最もハッピーな結末になることを期待したいです・・・。ともあれ5月末までには、資金調達および年次財務報告書の件が明らかになるでしょうから、その発表内容が明らかになり次第注視したいです。
文:宮﨑健太郎(ロレンス編集部)