「ドゥカティ」ではなく、「バニャイア」の強さが光った開幕戦
2022年を除き、2008年から開幕戦の舞台のカタール。1068mにも及ぶロングストレートに、テクニカルセクションが連続するロサイル・インターナショナル・サーキットは、ストレートスピードと加速性能、そしてタイヤマネジメント能力が要求される。
ストレート区間が長いレイアウトということもあり、近年は加速性能が武器のドゥカティマシンが優勝を飾っている。加速性能が良いドゥカティ、ロングストレートが特徴のサーキット、この組み合わせを見ればドゥカティ、そしてバニャイアが優勝を飾ったことに驚く人も少ないだろう。しかし、開幕戦後にレース中の記録を確認すると興味深いデータがあった。
開幕戦を制したバニャイアのレース中の最高速がなんと最下位だったのだ。各ライダーのレース中の最高速は以下のとおり。
1.エネア・バスティアニーニ 357.6km/h
2.ペドロ・アコスタ 357.6km/h
3.マーベリック・ビニャーレス 356.4km/h
4.ブラッド・ビンダー 356.4km/h
5.アレイシ・エスパルガロ 356.4km/h
6.マルコ・ベッツェッキ 356.4km/h
7.マルク・マルケス 356.4km/h
8.ルカ・マリーニ 355.2km/h
9.ファビオ・クアルタラロ 355.2km/h
10.ラウル・フェルナンデス 355.2km/h
11.ジョアン・ミル 355.2km/h
12.ファビオ・ディ・ジャナントニオ 355.2km/h
13.フランコ・モルビデリ 354km/h
14.アウグスト・フェルナンデス 354km/h
15.アレックス・リンス 354km/h
16.ミゲル・オリベイラ 354km/h
17.ホルヘ・マルティン 354km/h
18.ヨハン・ザルコ 352.9km/h
19.ジャック・ミラー 351.7km/h
20.中上貴晶 350.6km/h
21.アレックス・マルケス 349.5km/h
22.フランチェスコ・バニャイア 347.2km/h
このようにバニャイアは、ドゥカティ陣営や他のヨーロッパ勢、さらには苦戦を強いられている日本勢に比べても最高速が遅い。さらに、レース中のセクターベストも記録していないのだ。
このことからも、バニャイアはマシン特性に助けられ、ライバルに対しアドバンテージがあるという見方は間違っていることがわかる。バニャイアの勝因は、ストレートスピードが速いマシンに乗っているのではなく、タイヤへの負担を減らすセッティングを施し、ライディングもそこにあわせ込んだことだ。
鮮烈なデビューを果たしたペドロ・アコスタをはじめ、ライバル勢は中盤から終盤にタイムを大幅に落としている。一方、バニャイアはタイヤが摩耗した状態でも安定したラップタイムを刻み続け、優勝を勝ち取ったのだ。
以前は、誰にも負けないスピードを持ちながらも、転倒が多かったバニャイア。初の栄冠に輝いた2022年ですら取りこぼしの多いライダーだったが、今では必要以上にスピードを求めず、着実にセッティングをあわせ込んでいる。王者の風格、余裕、強さを強烈に印象付けた優勝だった。
1年という長いスパンで戦っている王者を打ち崩すのは至難の業。しかし、これまでの歴史を振り返ってみても、世代交代は若さと圧倒的なスピードによって行われている。今年も強さと速さの戦いがエキサイティングなレースを見せてくれることを期待したい。
ビニャーレスがスプリント、そしてアプリリアで初のトップチェッカー!
土曜日の予選後に行われるスプリントレース。予選ではバニャイアの僚友エネア・バスティアニーニが2022年以来2度目のポールポジションを獲得。2番グリッドにはドゥカティ勢に割ってはいたマーベリック・ビニャーレス、3番グリッドにはマルティンが入った。
開幕戦ウイナーのバニャイアは4番グリッド、以下、ジャック・ミラー、マルコ・ベッツェッキ、アコスタ、マルク・マルケス、ファビオ・クアルタラロ、ブラッド・ビンダーと続く。ホンダ勢はヨハン・ザルコの19位が最高位で、以下、ミル、中上、マリーニと苦しい結果となった。
気温23度、路面温度37度のドライコンディションで行われた12周のスプリントレース。ポールポジションスタートのバスティアニーニが出遅れる中、ホールショットを奪ったのはミラーだった。
しかし、2周目の最終コーナーで2番手に浮上していたバニャイアがトップに浮上。開幕戦とは違い、スプリントでは積極的な走りを見せる。
リンス、ザルコ、ビンダー、ディ・ジャナントニオなど転倒が相次ぐ激しいレースになる中、トップに立ったバニャイアは2位のビニャーレスに対し1秒差をつけ逃げにかかる。しかし、ビニャーレスのペースも良くバニャイアに食らいついていく。
トップを走るバニャイアだったが、9周目のターン1のブレーキングで姿勢を乱しオーバーラン。痛恨のミスで4位までポジションを落としてしまった。
これでトップに立ったビニャーレスは2位のマルティン、そして3位のマルク・マルケスを従えトップをひた走る。マルティンがビニャーレスの背後に迫るも、大きく回り込む最終コーナーの加速で離されてしまい、オーバーテイクには至らない。
マルティンに隙を見せなかったビニャーレスはトップのままファイナルラップに突入。一方、ビニャーレスを捕えることができなかったマルティンの背後にマルケスが急接近。勢いそのままにマルケスがマルティンをオーバーテイクし土壇場に2位に浮上した。
ビニャーレスはトップのままチェッカーを受け、スプリントレースで初優勝。そしてアプリリア加入後、初のトップチェッカーを受けた。2位にはドゥカティで3戦目となるマルケス、マルティンは3位でレースを終えた。
レース終盤でまさかの後退を喫したバニャイアは4位でフィニッシュ。ランキングトップの座は守ったものの、2位のマルティンに2ポイント差まで接近を許している。
マルティンが今季初優勝! 驚異の新人アコスタがデビュー2戦目で表彰台獲得
25周で争われる決勝レース。前日のスプリントではホールショットデバイスの誤作動によりスタートで出遅れてしまったバスティアニーニだったが、決勝では上場のスタートを切る。しかし、ターン1をトップで通過したのは予選3位のマルティンだった。
先頭に立ったマルティンは序盤から快調に飛ばし、2位以下に早くもギャップを作っていく。トップ集団はマルティン、ビニャーレス、バスティアニーニ、バニャイア、マルケスの5台で形成。
その後方では、開幕戦で印象的な走りを見せた新人のアコスタがポルトガルでも躍動。KTMファクトリーのミラーとビンダーを攻略すると、トップ集団に迫っていく。
5位のマルケスに追いついたアコスタは、8周目のターン1でマルケスをパス。勢いそのままに4位のバニャイアにもプレッシャーをかけていった。
その後こう着状態になるも、残り5周でアコスタが再びバニャイアに仕掛ける。ターン3で見事にオーバーテイクを決め4位に浮上。バニャイアは抜き返すことができず、5位マルケスの接近を許してしまう。
そして残り3周、ターン5でマルケスがバニャイアのインに飛び込み前に出るも、クロスラインで立ちあがろうとしたバニャイアとまさかの接触。2台とも転倒を喫し、バニャイアはリタイア、マルケスは16位でこちらもノーポイントに終わってしまった。
先頭を走るマルティンは、ビニャーレスとバスティアニーニを従えながら逃げ切り優勝。今季初優勝を飾ったマルティンは、バニャイアが転倒ノーポイントに終わったため、ランキングトップに立っている。
ビニャーレスとバスティアニーニの2番手争いはファイナルラップまで続いたが、ビニャーレスはトラブルに見舞われホームストレートで失速、ターン1で不可解な転倒もありバスティアニーニが2位を獲得した。
ビニャーレスの転倒で3位に入ったのはアコスタ。これは最高峰クラスで3番目の若さで表彰台、MotoGPクラスになってからは最年少での表彰台獲得となった。
2024 MotoGP 第2戦ポルトガルGP 決勝結果
レポート:河村大志