GSX-Rディメンションに好きな形と油冷エンジンをドッキング

「今回はいくつかの変更を行いました。フレームは作り替えて外装も変わったし、操作系も換えていますね。でも、それぞれがうまく機能した上に噛み合ってくれて、3位という結果と58秒台(58秒972)というラップタイムも達成できました」

こう言うのは、カスタムファクトリー刀鍛冶の石井さん。ツクバサーキットで行われるテイスト・オブ・ツクバ。そのハーキュリーズクラス用に油冷エンジンをオリジナルフレームに積み、GSX1100Sルックをドッキングさせたエントリー名「刀」を製作。これに行方知基選手を乗せて2014年から参戦してきた。3位と58秒台ラップは、2023年5月14日のTOT SATSUKI STAGEでの結果で、過去最高だった。いったい、どんな変更だったのか。改めて車両の内容とともに見ていこう。

「フレームは元々GSX-R1000K5のディメンションを参考に作ったものです。これがリヤから押されるような感触があるとライダー(行方さん)からも言われてました。剛性や曲がり方は十分だけど、大きな力がかかった時に、力の逃げ場がない感じ。それでモノサスにしているリヤショックのアッパーマウント部剛性を落とすように、ボックス構造だったものをパイプ+プレートに変えました。

構造上ここだけでは済まないので、リヤエンジンマウントやシートレールも作り替えましたけど(笑)。いちかばちかですけど、やってみて分かった方がいいですし」

画像1: GSX-Rディメンションに好きな形と油冷エンジンをドッキング

元々は前回(’22年11月)のレースで、このリヤの押し出し感がなく好感触だったことがあり、調べたところショックマウント部にクラックがあった。このことがヒントになったとも石井さん。まずはこれが功を奏した。

1277cc化し、160psの出力、13kgf-mのトルクを安定して引き出している油冷エンジンはどうだろう。

「ヘッド用のオイルクーラーを追加しました。今までもヘッド用のオイルラインは独立(註:シリンダーの熱ひずみを防ぐために、通常はヘッドへのオイル送路でもあるシリンダースタッドとスタッドホール間の空間を埋めるなどしているため、別ラインでオイルを回している)していましたが、この独立ラインにオイルクーラーを挟んだ形です。冷えます。冷えるのは確信してましたが、100℃行きませんでしたよ」

オイルポンプからのオイルはエンジン前に置かれるメインオイルクーラーで冷やされた上で各部に送られるが、ヘッドに行く分をカウル内に置いた追加オイルクーラーに通し、さらに冷やした上でヘッド内へ送り、本来のオイル回収路でオイルパンに戻していく。このエンジンで170psは出せるが、その高出力を安定して出すためにはより熱対策をしたいという石井さんの考えが背景。じつは追加オイルクーラーの周辺にも工夫がされていた。

「クーラーは一番風の当たるフロントカウル内に置いてます。カウル下のフィンも今回から加えたものですけど、フロントダクトに風が来るような形で、後ろからも風が抜けるようにしました。ファッション要素もありますけど(笑)」

画像2: GSX-Rディメンションに好きな形と油冷エンジンをドッキング

外装ではシートを変更し、実質的なサイドカバーレス状態にした。ステップ位置も下げられ、ライダー自由度も高めた。さらにクラッチが油冷標準の油圧からワイヤ式に変わっている。

「’21年、’22年と、レースだと微振動でクラッチレリーズのピストン部に泡が出て、急にクラッチが切れなくなるということが多発したんです。ちょうど、スーパースポーツ車の市販車がワイヤ式になったのもそのあたりが理由のひとつだと聞いて、ライダーから操作のダイレクト感を高めたいという要求もあって作りました。でも操作自体は重くなりますし、街乗りならば泡立ちもないでしょうから、軽く操作できる油圧でいいと思いますよ」

高めたパワーが最後まで安定し、車体の不用意な動きがなくなり、操作自由度が高まる。これらの相乗効果で、冒頭の結果が得られた。

「これは通過点です。いい結果が得られたことで、ネガ潰しややり直しをせず、積み上げ=次の発展策が考えられます。車体も良くなって、そちらに向けた力をほかの部分に回してテストできる。次回11月はマフラー変更ほか、ステップアップメニューも考えています」

石井さんには既に、次の油冷スープアップメニューも視野に入っているようだ。油冷にも、そしてカタナという形にも、大きな期待を与えてくれる1台、次の姿/内容も楽しみになる。

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フレーム前端のアルミ製カウルステーの形状を変更した上で、フロントカウル内にシリンダーヘッド冷却用オイルクーラーを新設。

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フロントカウル下部に新たにダクトが、カウル両端下にカタナイメージのカーボン製フィンが追加された。ゼッケンプレートもとくに下端側の形を変えて追加フィンとともにダクトへとエアを効率的に導き、フィンにはクーラーを通過した熱気を抜く役目も持たせた。

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フロントマスターはブレンボでハンドルとレバーガードはベビーフェイス。メーターは刀鍛冶で扱うスキッシュ(scitsu)製の回転計にヨシムラ・プログレスメーターを配置する。

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フロントカウルやタンクカバー、シートカウルなどの外装品はマジカルレーシング製で、シートは今回形状を変更しサイドカバーレス化した。

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フレームはスチールパイプ製(一部プレート併用)。シートレールはアルミ製で、こちらはリヤカウル変更に合わせて刀鍛冶で新作している。

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ステップはベビーフェイス製で、今回シート変更によってステップバー位置が下げられ、コントロール性が上がったという。

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エンジンは当初の1156ccから、'18年に1277cc化した仕様を基本的に継続。シリンダーはGSF1200で2バルブ1ロッカーアームのヘッドとクランクケース/クランクシャフトが'89GSX-R1100(K)。ピストンはJEφ83mm鍛造でコンロッドはキャリロ、カムはヨシムラST-2。熱ひずみ対策で内側スタッドカラーやスタッド周囲を埋める加工も行いつつ、後軸160ps以上を安定して出せる仕様としている。ミッションは刀鍛冶製6速を使っていたが換装用がなく、今回TG-RUNの5速クロスを使っている。これもツクバに合ったレシオで良かったと石井さん。

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キャブレターはTMRφ40mmを継続使用し、マフラーはJ-CUSTOM製チタン4-1。シリンダーヘッドカバーは今回赤仕上げとなり、追加オイルクーラーへのラインも増設されている。このラインはオイルフィルターからのオイルを追加クーラーに送り、ヘッドに送るようにしている。

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フレームは刀鍛冶製。今回、写真のようにショックアッパーマウント部を変更。元々ボックス構造としていたが、リヤの不用意な動きを抑えるべくパイプ+プレートで作り直し、車体の動きを安定させた。ここだけでなく、結果的にリヤエンジンマウントなど関係する多くのパートも作り替えられた。

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右横から新しいショックアッパーマウント部まわりを見た状態。ショック全長等のセットアップも可能な作りとしている。

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フロントフォークはGSX-R1000用のオーリンズFG R倒立でステムもGSX-R1000対応品、フロントブレーキはブレンボ CNCレーシングキャリパー+サンスター・ワークスエキスパンドディスクで、マジカルレーシング製キャリパーダクトも追加し効力の安定化を図った。

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スイングアームはGSX-R1000でリヤショックはオーリンズTTX。リヤブレーキもブレンボ CNCレーシングキャリパー+サンスター・ワークスエキスパンドディスク。排気系はJ-CUSTOM製チタン4-1。ホイールはマジカルレーシング扱いのBSTカーボン“ダイヤモンドテック”3.50-17/6.00-17サイズを履く。ドライブチェーンはD.I.Dのレース用520 ERV7、リヤスプロケットはX.A.Mだ。

取材協力:カスタムファクトリー 刀鍛冶 

レポート:ヘリテイジ&レジェンズ編集部

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