スーパースポーツ、ネイキッドにアドベンチャーとオートバイをカテゴライズする言葉はたくさんある。けれど、ゴールドウイングだけは唯一無二だ。コンチネンタルツアー、グランドツーリング、フルドレスツアラー……。いや、やはりこのオートバイはゴールドウイングだ。
文:中村浩史/写真:松川 忍

フルモデルチェンジで激変、現行モデル、ジェネレーション6

ゴールドウイングの走りが大きく変わったのは、2018年4月にフルモデルチェンジされた現行モデル――SC79と呼ばれるモデルからだ。ちなみにこの世代はホンダで「第6世代」と呼ばれ、ファンの間でもジェネレーション6=Gen6と区別されることがある。

それまでの通称F6世代、型式で言うとSC68と呼ばれるモデル、さらにそれ以前の2001年型SC47からのフルモデルチェンジで、エンジンと車体を新設計。巨大なフルドレスツアラーから脱却を始めた世代といえるものだ。

まずは車体を大幅に変更して軽量化、それも39kgも! Gen6の初期は6速ミッション車とDCTの2タイプが併売されていたが、2021年モデル以降ではDCTに一本化されている。

画像5: ホンダ「ゴールドウイング ツアー」インプレ(中村浩史)

F6世代のGen5から大きく変わったのは、そのハンドリングだった。車体全体での39kgの軽量化はもちろん、エンジンは6kg強減量、サイズもエンジン全長を29mm短縮した。車体サイズも、トランクサイズの変更などで、55mm短縮。mmではなくcmでいえばエンジンは3cmほど、全長が5cmほど短くなっただけなのに、ゴールドウイングは本当にひと回りコンパクトに、身軽になっていたのだ。

走行フィーリングも大きく変化。これは、従来のテレスコ式フロントフォークに替わって採用されたダブルウィッシュボーンサスペンションの働きが大きく、ゴールドウイングの動きから「ユサッ」としたビッグバイク的なタイムラグがきちんと消えていた。

車両重量390kg、タンデムすると優に500kgを超えようかというゴールドウイングでは、特にこの重量を受け止める強度と剛性が必要であり、そのためのフロントサスペンションが、このダブルウィッシュボーンだった。

バイク用サスペンションの仕事である「衝撃吸収」と「操舵」を分けるメカニズムで、この方式を採用した初期の2018年型モデルより、現行モデルの方が、ゴールドウイングははるかに軽快に、自然に操舵できるようになった。スーパーヘビー級の重量は、当然しっかりタイヤを地面に押し付けるが、押し付けすぎるとハンドルを左右に切るのも重くなるもので、それを防止するためにも「衝撃吸収」と「操舵」の分離が必要、ということで採用されたメカニズムだ。

390kgのオートバイをダブルウィッシュボーンで操ると、200kgの重量と通常のテレスコ式だと思い込む、と言ったら少しだけ大げさかもしれないが、それに近い感覚だっだ。

画像6: ホンダ「ゴールドウイング ツアー」インプレ(中村浩史)

ダブルウィッシュボーンサスとアルミフレームの必要性

強大なパワー、スーパーヘビーウェイトのボディをコントロールするのは、イメージほど難しい作業ではない。

サスペンションは快適さ優先。シャキッとスポーティに動くというよりは、発進も停止も、コーナリングと呼べない曲がり角をクリアする時も、フワッと柔らかく、それでいて腰砕けにならないように節度のある動きだ。

重いものを長い距離の操作で動かすという、ヘビー級モデルのハンドリングの命題を、ゴールドウイングは水平対向エンジンの重心の低さと、ダブルウィッシュボーンフロントサスペンションの強度、そしてまったく目に触れることのないアルミツインチューブフレームの剛性で解決している。スーパースポーツモデルのそれだとは言わないまでも、ビッグネイキッドに近い。

このホイールベース、この重量を考えれば、なんと自然でダイレクトなハンドリングか――と驚く。もちろん、10km/h近辺の、いわゆる極低速では、このスーパーヘビーウェイトに緊張を強いられることは覚悟してほしい。

水平対向エンジンの重心の低さは、バンクのしやすさ、切り返しのしやすさにもつながっている。近年のスーパースポーツモデルでは、あまり重心を低く設定せずに、重いものを高い位置から振り下ろすことでハンドリングのシャープさを出すことがあるけれど、ゴールドウイングの「重さ」はケタ違いの質量があるため、重心は低く設定する必要があったのだろう。

そのため、ゴールドウイングのハンドリングは、バンクや切り返しの移動スピードこそなくとも、だから手応えがすばらしく軽い。これが動いたあとの安定につながり、高速運動中のスタビリティにもつながっているのだ。

画像7: ホンダ「ゴールドウイング ツアー」インプレ(中村浩史)

ゴールドウイングだからこそ、クルマで当たり前の装備を

ゴールドウイングが他のオートバイの追随を許さないものに、数々の快適装備がある。ホンダがバイクメーカーであるのと同時に、自動車メーカーであることも役に立っているのだ。

前述のとおり、パワーモードはハンドルスイッチで4段階に変更でき、クルーズコントロールもある。サスペンションではプリロードをリモート調整するのもハンドルスイッチひとつ。クルージング中の走行風をコントロールすべく、ウィンドシールドもボタンひとつで高さを変えられる。

さらにグリップヒーターはもう珍しくなくても、シートヒーターは、ライダー側とタンデム側に別々に備わっている。これはもう、クルマのハンドル周辺に備わっているボタンでドライバーの好みに合わせられるのと同じ親切装備で、走行中に音楽を聴くオーディオは4スピーカー仕様だし、スマートフォンとのリンク機能で地図をディスプレイできる機能すら備わっている。

もちろん、快適装備とともに安全装備も備わっていて、ブレーキは前後連動でABSを標準装備し、世界で初めてエアバッグ搭載車を仕様設定したのもゴールドウイングなのだ。

画像8: ホンダ「ゴールドウイング ツアー」インプレ(中村浩史)

きっと人生が変わる大陸弾道ツーリングバイク

ゴールドウイングが不得手なはずの一般道も走り回ってみた。さすがに渋滞路をすり抜け、とまではいかないが、それでもまったく普通に、重量が原因の少しだけのストレスだけで街乗りもこなすことができるのだ。

その一因は、やはりDCTの採用だ。Gen6で採用され、2021年モデル以降にはマニュアル6速ミッションも廃止されて一本化されたDCTは、理論上エンストの心配がなく、たとえば低速走行でふらつきながら、クラッチレバーを操作しながら左足がシフトペダルを操作する、という行程が省かれるため、エンストや失速の心配なく 街中を走ることができるのだ。まさにDCTは、ゴールドウイングに最適なミッション形式だと思う。

さらに現行モデルでは、ちょっとだけ押し引きしたい車庫入れなどで使用できる微速前進後退スイッチも装備されている。いま風に言えば「神」装備。パーキングブレーキが装備されているのもゴールドウイングらしい。

たとえば長期間の長距離ツーリング、さらにそれをタンデムでこなす、荷物を満載して走る、雨が降り始める、夜になって暗くなる、寒くなる――など、使う環境がハードになればなるほど、ゴールドウイングは真価を発揮するオートバイなのだと思う。

1台で何もかもまかないたいという人向きのオートバイではないけれど、高速道路を使ったツーリングが少なくないオーナーだったら、ゴールドウイングの異次元の快適性を味わってほしいと思う。きっと、人生は変わるのだ。

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