3月下旬に開催された東京モーターサイクルショーの会場には、ホンダが開発中の電動モトクロッサー「CR Electric プロトタイプ」が展示されていましたが、このマシンの実戦版が戦う姿を私たちは、近い将来に見ることができるのでしょうか・・・?
文:宮﨑健太郎(ロレンス編集部)
※この記事は「ロレンス」で2023年4月24日に公開されたものを一部編集し転載しています。

2019年の世界初公開から4年・・・着々と、計画は進んでいるみたいです?

ホンダCR Electric プロトタイプは、2019年春の東京モーターサイクルショーで発表。同年4月の全日本モトクロス選手権では早くもデモ走行する姿が披露され、多くの話題を集めました。

画像: HONDAの電動モトクロッサーが走った! そのサウンドは…!? www.youtube.com

HONDAの電動モトクロッサーが走った! そのサウンドは…!?

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画像: M-TEC(無限)と共同開発した電動パワートレインを搭載するホンダCR Electric プロトタイプ。変速機がないため、当然? 左ステップ周囲にはシフトレバーはありません。また、ハンドル左側にはクラッチレバーは存在しません。 www.autoby.jp

M-TEC(無限)と共同開発した電動パワートレインを搭載するホンダCR Electric プロトタイプ。変速機がないため、当然? 左ステップ周囲にはシフトレバーはありません。また、ハンドル左側にはクラッチレバーは存在しません。

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今年春に開催された東京モーターサイクルショーにも、CR Electric プロトタイプは今年発売されるであろう原付一種クラスの電動スクーター「EM1 e:」の近くに展示されていましたが、なんでもウワサによるとCR Electric プロトタイプは、"欧州"のコンペティションに投入することが検討されているらしいです・・・?

画像: 今年の東京モーターサイクルショーに展示されていた、CR Electric プロトタイプ。

今年の東京モーターサイクルショーに展示されていた、CR Electric プロトタイプ。

なぜ、欧州なのか? その背景には環境問題に対する"意識の差"があります?

創業してからの黎明期の一部を除き、1950年代後半から1960年代の間は4ストローク専業だったホンダは、1972年から2ストロークのCR/MTのエルシノアで本格オフロード業界に参入しました。その背景には1960年代当時ドル箱市場だった北米で、2ストローク単気筒のオフロード車が飛ぶように売れていたという事情がありました。

その当時から半世紀以上が過ぎた今も北米のオフロード人気は相変わらずですが、CR Electric プロトタイプがまず最初に「活躍の場」として目指すことになるのが北米ではなく欧州になるのは、欧州と北米の間の「環境問題に対する意識の差」ゆえといえるでしょう。

スウェーデンの2輪EV専業メーカー「CAKE」創業者兼CEOのステファン・イッターボーンの、2019年配布のプレスリリース内の言葉によると、欧州では環境問題の見地からICE(内燃機関)を搭載するバイクレースの70%が、過去15年の間に禁止に追い込まれている・・・とのことです。

排ガスや騒音の問題で、モータースポーツの場が閉鎖に追い込まれるのは欧州の専売特許(?)ではありませんが、2050カーボンニュートラルに関しても主導的な座にいる欧州は、比較的に他の地域より環境問題に対する目が厳しいといえるでしょう。

画像: CAKEは自社の電動オフロードバイク「カルク」を使ったワンメイクレース、「ワールズ レース」を開催しています。騒音がICE搭載モデルよりはるかに低いメリットを活かし、交通の便に優れる都市部に近い環境で開催できるのが、2輪EVによるモータースポーツのメリットのひとつです。 ridecake.com

CAKEは自社の電動オフロードバイク「カルク」を使ったワンメイクレース、「ワールズ レース」を開催しています。騒音がICE搭載モデルよりはるかに低いメリットを活かし、交通の便に優れる都市部に近い環境で開催できるのが、2輪EVによるモータースポーツのメリットのひとつです。

ridecake.com

「環境コンシャス」なエリアのひとつといえる北米でも、ICEの排出するCO2や騒音はもちろん問題視されています。しかし、欧州は現実問題としてオフロードバイクが走れる場所が環境問題によってどんどん減っていっているという事実があり、その解決策を早急に求められているという「緊急性」があります。まずは環境問題をシビアな目で見つめている欧州から・・・というCR Electricの参戦の検討は、とても妥当かつ自然な考え方であるといえるのでしょう。

ところで、参戦が実現するとしたらどのカテゴリー・・・?

実戦仕様のCR Electricが欧州のモトクロスに挑戦するとして・・・ひとつ気になるのはどのカテゴリーに参戦するのか? ということです。なお今まで公開されてきたCR Electric プロトタイプは、モーターやバッテリーなどのパワートレインに関する諸元は明らかにされておりません。

CR Electric プロトタイプは車格的にはFIM(国際モーターサイクリズム連盟)のMX2(2ストローク100〜125cc、4ストローク175〜250cc)に該当しますが、だからといってMX2のカテゴリーでICE搭載車と一緒にすんなりエントリーできるわけではなさそうです。2023年度のFIMモトクロス競技規則を読んでみると、電動車は「グループJ」に分類されていることくらいしか記述がありません。

あくまでICE搭載車の話がメインということですが、今のところモトクロスの世界で電動車が普及しつつあるのはキッズクラスくらいという現実があり、現状の競技規則はその実情を反映したものになっています。

画像: 2021年からFIMは、キッズ用電動モトクロッサーへの急速な注目の高まりを受け、プロモーションを担当するインフロント モト レーシング社(旧ユースストリーム社)と組んで「FIM欧州ジュニアeモトクロス選手権」を開催しています。使用される電動モトクロッサーは、KTMグループのキッズ用モデルです。 www.junioremotocross.com

2021年からFIMは、キッズ用電動モトクロッサーへの急速な注目の高まりを受け、プロモーションを担当するインフロント モト レーシング社(旧ユースストリーム社)と組んで「FIM欧州ジュニアeモトクロス選手権」を開催しています。使用される電動モトクロッサーは、KTMグループのキッズ用モデルです。

www.junioremotocross.com

今年からは電動車のみで競われる「FIM E-エクスプローラー ワールド カップ」も年5戦のシリーズ戦として始まりますが、この新カテゴリーであればCR Electricもスンナリ? 参加することはできるでしょう(男女2名1組のライダー編成が必要になりますが)。

ただ個人的希望? としてはCR Electricには電動車カテゴリーではなく、ICE搭載車のカテゴリーで強豪ライバル各社とバチバチやりあってほしいです。現代のMX2クラスのICE搭載車の最高出力はオーバー40馬力の水準にありますが、そのなかで電動車がガチ勝負したらどうなるのか・・・は多くの人が興味あるのではないでしょうか?

FIMモトクロス競技規則の内容は、ICE搭載車と電動車がガチ勝負することは想定していないようですが、35分前後または20分以内のヒートレースをCR Electricがこなすバッテリー容量があれば(5〜6kWhくらい?)、混走で戦うことも十分可能と思われます。いきなりMX GPのMX2クラス、とはいかなくても、欧州各国の選手権レベルの大会で、主催者がプロトタイプの特別参戦を許可してくれたら・・・と夢想してしまいますね。

画像: ホンダのファクトリーチーム「チームHRC」は、MX GPの最高峰であるMX GPクラスに参戦しています(写真はファクトリーマシンのCRF450RW)。 honda.racing

ホンダのファクトリーチーム「チームHRC」は、MX GPの最高峰であるMX GPクラスに参戦しています(写真はファクトリーマシンのCRF450RW)。

honda.racing

タイトルに記したとおり、CR Electric プロトタイプの欧州参戦検討というのはあくまでウワサ話であり、正式にホンダからアナウンスされたわけではありません(念のため?)。しかしホンダ開発陣もCR Electric プロトタイプを「研究室の中」だけの存在にしたくはないでしょうし、「実戦の現場」ほど最高の開発環境はないとも認識しているはずです。

本当に単なるウワサで終わるか、それとも欧州参戦というドリームが実現するのか・・・今後の動向に注視したいですね!

文:宮﨑健太郎(ロレンス編集部)

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