敷居の低さという魅力を軸に内容をアップデート

1970年代半ばに竣工したカワサキのアメリカ、ネブラスカ州リンカーン工場でZ1とともに製造が始まったKZ900LTD。こうした歴史上のできごとと別に多くの絶版車好きが思うだろう、「なぜ君はZ1じゃなくLTDなの?」という問い。「その気持ち、重々分かりますが、一度乗ってみると結構いいヤツなんですよ」と、バイクのメンテナンス&絶版車専門誌“モトメカニック”の製作に携わる中でLTDを購入してしまったオーナー、栗田 晃さんは言う。この車両は栗田さんがせっかくの外観をそのままに、中身をアップデートした1台。その作業内容は以下の通りだ。

「私のLTDは1976年7月生産車で購入時の走行距離は4300マイル(7000km弱)。40年以上前の逆輸入車の走行距離をメーターだけで信じることはできませんが、ほとんど摩耗していないブレーキローターやホワイトレターのグッドイヤーイーグル、縫い目にほつれがなくスポンジのへたりもないシートなど、外観上からは数万kmも走ったようなくたびれ度は感じられませんでした。部品を交換されていたらそれまでですけど。

画像1: 敷居の低さという魅力を軸に内容をアップデート

ノーマル然としたスタイルにひと目惚れして始動確認すらせずに購入した私は、絶版車専門誌と並行して携わっていたメンテナンス専門誌の記事製作と合わせて再始動に着手しました。スパークプラグを抜いてクランクシャフトが回ることを確認し、ワニスで固着していたキャブレターを分解すると、アメリカ時代にどこかでいじり壊されたようで、3番キャブのスロットルレバーとニードルジェットが壊れているのを見つけたんです。

そこでにわかに不安になって、クランクケース下のオイルパンを外すとオイルポンプストレーナーの2/3ほどの面積が異物で覆われ、オイルパン底部にも添加剤が変質したスライム? と思えるようなドロドロが溜まっていました。

走行距離が少なくても、バルブステムシールやカムチェーンガイドローラーなどのゴム部品の経年劣化は進行しているだろう。Zでは簡単に抜けてしまうことでおなじみのシリンダースリーブも見ておきたい。そんな理由から、キャブだけでなくエンジンもクランクケースまで完全に分解して、シリンダーは井上ボーリングのICBMでアルミめっきスリーブ化、シリンダーヘッドはバルブシートカットと擦り合わせ、カムチェーンまわり一式とクラッチはアドバンテージパーツに変更。同時に点火系をASウオタニ製SPⅡに、ドライブチェーンの530化も実施しています。

調子が悪くなった場所をその都度修理するというやり方もありますが、不安を感じる部分はあらかじめ手を加えておくことをお勧めしたい。手間とコストは掛かりますが“エンジンはやってあるから大丈夫”となれば、余裕を持って車両に接することができるでしょう。それはLTDに限らず絶版車全般に共通すると思います。

世界市場に向けて強い意気込みで投入されたZ1は良くも悪くも高嶺の華となってますが、その実力が認められた後に登場したLTDには、良い意味での脱力感や自由さがある。日本車がアメリカンになっても良いんだよと教えてくれるLTDだから、私は今後もこのスタイルで乗り続けたいですね」

画像2: 敷居の低さという魅力を軸に内容をアップデート

自然な褪色が感じられるキャンディレッドの純正外装や、純正そのままのフロントフェンダーや2本出しのマフラー等、ほぼノーマルを踏襲しつつレストア&アップデートを受けたわけだが、安心感は大幅にアップ。Zシリーズの中では異端とされたLTDも、こうして見るとルーツ通りに当時の現地でのカスタム感にあふれている。ちょっとおしゃれだと思える仕上がりの車両として、注目しておきたい。

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フロントウインカーがハンドルパイプに取り付けられているのは、LTDがハーレーダビッドソン・スポーツスターを意識したためと思われる。この純正ウインカー移設に合わせてヘッドライトステーも目立たないよう、ZのめっきからLTDではブラックアウトされている。

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メーターはKZ900と同デザインだが、ロアケースは純正でめっき仕上げに。ハンドルクランプ右にオプションのハザードスイッチが付く。

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幅がスリムなガソリンタンクの容量は純正で13.6リットルで、17リットル容量のZ1よりかなり小さい。シートに跨がるとライダーからはZ1よりシリンダーヘッドカバーの張り出しが大きく見えてマッチョ感が演出されている。キャンディレッドのカラーもストライプも純正のままだ。

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段付きのシートもLTD純正で、跳ね上がったシート後端に合わせてテールカウルとの隙間が広いLTD専用グラブバーが装着されている。

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エンジンはオイルポンプの目詰まりをきっかけに分解・再構築。走行4300マイルのこの車両でも純正鋳鉄スリーブが簡単に抜けたので、井上ボーリングのICBMでアルミめっきスリーブ化。カムチェーンまわりやクラッチパーツをアドバンテージ製品に交換している。

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純正キャブレターは車体全体写真にあったようにミクニVM26。これが破損していたため交換、さらに現在はカワサキZR-7用のケーヒンCVK32をインテークマニホールドのピッチをわずかに広げる加工で流用。K-TRIC付きで、ウオタニSPⅡの三次元マップが使える。

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φ36mmフロントフォークや片押しのブレーキキャリパー、ソリッドディスク、そしてモーリス製19インチキャストホイールはLTD純正そのまま。

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リヤブレーキまわりや16インチキャストホイールもLTD純正。マフラーも純正ジャーディン製を重曹ブラストで再生仕上げしている。

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リヤショックは購入時の純正マルホランドから、アドバンテージKYBカワサキ'80sワークスタイプ・リヤサスペンションに。リヤホイールは16インチだが、ハイトの高いブリヂストン・バトルクルーズH50(140/90-16)で外径をアップ。ドライブチェーンもEK530SRX2にした。

取材協力:車両オーナー・栗田 晃さん

レポート:ヘリテイジ&レジェンズ編集部

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