文:宮﨑健太郎(ロレンス編集部)
※この記事は「ロレンス」で2022年1月22日に公開されたものを転載しています。
次の時代の主流電池開発に力を入れる、世界の自動車メーカーたち!
先端技術に関する市場調査などを提供するIDTechExによると、EV用のバッテリーの大本命であるSSB(全固体電池)産業は、2030年には60億ドル≒6,820億円規模まで成長すると予測されています。エネルギー密度、安全性、出力密度、寿命などで現在主流のリチウムイオン電池よりも優位とされるSSBなどの電池開発には、現在多くの自動車メーカーが投資を行っています。
大手自動車メーカーによるSSBなど電池の研究開発スタートアップ企業への投資例としては、フォルクスワーゲンとクワンタムスケープ、フォード(およびヒュンダイとBMW)とソリッドパワー、そしてGMとSESの関係が多くの知るところですが、ホンダも独自のSSB開発以外の、別ルートの電池開発の"オプション"として、SESとリチウム金属二次電池に関する共同開発契約を締結したワケです。
開発の歴史はリチウムイオン電池よりも古い、リチウム金属電池
ホンダと契約したSESは2012年創業のスタートアップで、先述のGMのほか、ヒュンダイ、上海汽車集団ともパートナー関係にある企業です。SSBにはさまざまな種類がありますが、正極(カソード)と負極(アノード)の間で電子(電気)を移動させるための液体電解質を持たない・・・のが共通点です。SESが手がけるリチウム金属電池は正極側に液体電解質を封入しているので、SESはこの自社技術を「ハイブリッドリチウム金属電池」と称しています。
リチウムイオン電池並みの製造のしやすさと、SSBのリチウム金属電池並みのエネルギー密度を兼ね備えるのが、SESのハイブリッドリチウム金属電池の長所・・・というわけです。
リチウム金属電池の開発は1991年にソニーが実用化したリチウムイオン電池よりも早い、1980年代にスタートしています。負極に炭素などを使うリチウムイオン電池に対し、リチウム金属電池は負極にリチウム金属を用いるのが特徴で、リチウムイオン電池より高いエネルギー密度が与えられるのが長所です。
使い捨ての一次電池としては実用化されているリチウム金属電池ですが、充電可能な二次電池では充放電するとすぐに劣化してしまう・・・そして発火事故の恐れがある点が、製品化と普及の妨げになっているのです。
SESのハイブリッドリチウム金属電池は、リチウム金属の負極(アノード)に独自のコーティングを施すことで、デンドライトの成長を抑止して電池寿命を伸ばす仕組みになっています。また、そのほかの安全対策として、特許取得済みの正極(カソード)側液体電解質には低揮発性で自己消火性を有する性質が与えられており、そしてAIアルゴリズムを採用した電池管理システムは安全上の問題が深刻化する前にそのことを予測して、電池状態を制御することができるようになっています。
リチウム金属電池の、今後の発展を期待したいです!
なおSESは、最近流行り? のSPAC(特別買収目的会社)スキームにより、ニューヨーク証券取引所の株式上場を予定しています。SPACスキームの話は、昨年12月の米ライブワイヤーのIPO(新規株式公開)でも話題になったことが記憶に新しいです。
なおホンダは昨年10月に、SPACであるアイバンホーとの間で私募増資引き受け(PIPE)による株式引受契約を締結しており、新会社「SES AIコーポレーション」が晴れて上場した暁には、その株式の2%を取得する予定とのことです。
SESによれば同社が開発を目指すEV用ハイブリッドリチウム金属電池は、400Wh/kg、1,000Wh/Lと従来のリチウムイオン電池より小型大容量で、15分以内に80%充電が可能というメリットを持つ・・・とのことです。つまりリチウムイオン電池のEVより小サイズながら航続距離を稼げ、早いスピードでチャージできるわけですから、設計上電池の重さがネックになっている2輪EVにとっては、とても魅力的なスペックです!
ホンダ独自のSSB開発の今後・・・にももちろん期待したいですが、技術的にSSBよりも早期に大規模製造化が見込めそうなハイブリッドリチウム金属電池を搭載する、ホンダ製2&4輪EVが近い将来に市販化されるのであれば・・・それはそれで楽しみなことです。期待しましょう!
文:宮﨑健太郎(ロレンス編集部)