スクーター大国である台湾を代表するメーカー、キムコ(光陽工業)は、2輪EVのバッテリーステーション網構築で先行するGogoro連合をキャッチアップせんと、今年から猛烈な攻勢を仕掛けています。そして・・・そんなキムコのバッテリーステーション網と2輪EV技術プラットフォームの名称である"アイオネックス"を、独立したブランドにする計画を考えている・・・という噂が業界でささやかれています。
文:宮﨑健太郎(ロレンス編集部)
※この記事は「ロレンス」で2021年12月25日に公開されたものを転載しています。

短期間のうちに、台湾でのステーション数を急速に増やすアイオネックス!

台湾の日刊紙「中時新聞網」の報道によると、Gogoroのキムコが展開するアイオネックスは、順調にその売上高をアップさせているようです。キムコは独自のバッテリーステーションサービスを2021年8月にスタートさせ、1日に平均4〜7ヶ所のペースでステーションの数を急速に増やしています。

年内に1,000ヶ所までアイオネックスのステーション数を増やすことを目標にしていますが、2輪専門店、ガソリンスタンド、雑貨店、コンビニエンスストア、スーパーマーケット、チェーン店、そのほか大企業・・・などなどの協力を取り付けることで、9月に1.5倍、10月に2.6倍と急速な発展を遂げ、その間に売上高を2倍に増やすことに成功しました。

画像: 9月末、台湾で500ヶ所目となるアイオネックスステーションを記念したセレモニーで握手を交わすキムコCEOのアレン・コー(左)と、台湾大手小売グループである秀泰生活のマネージャーであるリャオ・ウェイミン。 www.ionex.com.tw

9月末、台湾で500ヶ所目となるアイオネックスステーションを記念したセレモニーで握手を交わすキムコCEOのアレン・コー(左)と、台湾大手小売グループである秀泰生活のマネージャーであるリャオ・ウェイミン。

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9月末には、秀泰グループが展開する台中のショータイムショッピングセンターに500番目のアイオネックスのステーションが完成しましたが、早くも10月には600番目のステーションが武陵に設置されました。この場所はアイオネックスのステーションとしては最も標高の高い位置にあたりますが、都市部だけでなく観光地にもステーションを整備することで、ツーリングなどの用途に電動スクーターを使えるようになるわけです。

そして12月9日には、700番目のステーションを中国大陸に近い離島の金門県に設置。台湾領土にくまなくステーションの数を増やすという目的を達成するために、キムコは猛烈なペースでインフラ整備を進めています。

まだまだGogoro連合の、圧倒的シェア寡占状況は変わらないですが・・・

2015年からサービス開始しているGogoroは、イオンモーター、PGO、ヤマハなどの有力メーカーと提携し、Gogoroのバッテリーステーション「Goステーション」の利用者数を増加させる戦略を進めています。なお台湾のGoステーションの数は、現在2,300ヶ所以上となっています。

そんなPBGN・・・「Gogoro連合」に対し、今年から大反抗を開始したキムコのアイオネックスですが、今年10月の「大攻勢」の結果、台湾の2輪EV月間売上成長率でアイオネックスは264%という脅威的な伸びを記録し、Gogoro連合を圧倒しました!

画像: 一番左がキムコのアイオネックス、その右のすべてが、PBGN=パワード・バイ・ゴゴロ・ネットワーク・・・Gogoroの技術を採用し、Goステーションが使える電動スクーターメーカーになります。 www.ionex.com.tw

一番左がキムコのアイオネックス、その右のすべてが、PBGN=パワード・バイ・ゴゴロ・ネットワーク・・・Gogoroの技術を採用し、Goステーションが使える電動スクーターメーカーになります。

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もちろん「一日の長」・・・どころか、数年分の長があるGogoroの台湾市場支配はスゴく、2021年10月の時点でのGogoroのシェアは72.5%に達しています。対してアイオネックスは7.3%・・・しかし、わずか数ヶ月で3番手の位置にまでつけているのは、さすが台湾スクータートップメーカーのキムコ、といったところでしょうか?

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画像: シェア2位のイオンに対して、アイオネックスがいかに短期間のうちに猛追してきたか・・・を示すグラフ。 www.ionex.com.tw

シェア2位のイオンに対して、アイオネックスがいかに短期間のうちに猛追してきたか・・・を示すグラフ。

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提携相手のライブワイヤーのように、スピンオフ & IPOを計画?

台湾におけるGogoroとアイオネックスのシェア争いは、翌2022年にはさらに激化することが明らかですが、王者Gogoroはすでに台湾市場だけでなく、中国、インド、インドネシアと世界の巨大2輪市場への進出を決めています。そして2021年9月には、特別買収目的会社(SPAC)との合併を通じてアメリカのナスダック市場に2022年上場予定であることを発表し、多くの投資家たちの注目を集めました。

これにインスパイアされたのか、キムコCEOのアレン・コーは12月16日に台北で少数の記者たちとのインタビューに応じ「光陽工業は株式公開の計画はないが、電気スクーター部門=アイオネックスを分離して株式公開する可能性がある」と述べています。

画像: キムコCEOのアレン・コー。国立清華大学で産業工学学士号、コーネル大学で経営管理修士号を取得した氏は、IT部門からキムコでのキャリアをスタート。2018年に「アイオネックス」を立ち上げ、キムコの電動路線の道筋を開拓した人物でもあります。 www.ionex.com.tw

キムコCEOのアレン・コー。国立清華大学で産業工学学士号、コーネル大学で経営管理修士号を取得した氏は、IT部門からキムコでのキャリアをスタート。2018年に「アイオネックス」を立ち上げ、キムコの電動路線の道筋を開拓した人物でもあります。

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このインタビューの3日前・・・ライブワイヤーのIPO(新規株式公開)および2輪EV開発におけるライブワイヤーとキムコの提携・出資のニュースが世界を驚かせましたが、アイオネックスをスピンオフさせてIPOをするという計画は、キムコの提携相手・・・ハーレーダビッドソンとライブワイヤーのことがヒントになったようです。

アイオネックスが光陽工業(キムコ)から分離して上場すれば、優秀な人材を確保しやすくなり、世界的なブランド認知度も高まるだろう、と彼(アレン・コー)語る。同社は世界トップの電動2輪車サプライヤーになることを目指しており、海外上場も選択肢のひとつになり得る。IPOの計画には通常数年かかるため、一夜にして実現することはないだろう、と彼は付け加えた。現在のところ光陽工業の優先課題は、世界トップ3のスクーター市場である中国、インド、東南アジアを中心に、世界展開を図ることであると述べています。

IPOのメリットは、融資を受けるよりも低いリスクで資金を調達することができることです。近年米国では、米国証券取引委員会(SEC)の厳しい規制を回避するため、実質的には合法ペーパーカンパニーであるSPACを通じてIPOをすることが流行しています。この手法は一般的なIPOより規制要件が少ないため、迅速にプロセスを進めることが可能になります。

件のライブワイヤーのIPOも、そしてライバルのGogoroが進めているIPO計画も、やはりSPACを通じてのものであります。もしキムコがアイオネックスのスピンオフ & IPOを行う場合は、おそらく提携相手やライバルの手法をなぞることになるのでしょう・・・ね?

・・・と、投資家向け情報記事みたいになってしまいましたが(苦笑)、もしアイオネックスのIPOが実現したら、その新会社は新たな挑戦への資金と、新しいことに挑戦することに意欲的な、優秀なエンジニアやマネージャーたちを(独自のストックオプションという魅力も効いて?)惹きつけて、集めることが可能になるでしょう。

そのとおりの結果になったとき・・・世の中の2輪EVファンは企業体力を向上させたアイオネックス新会社が生み出す、魅力的な新機種をゲットできるようになるわけですから、メーカーや投資家以外も恩恵に浴することができるわけですね(笑)。ともあれ、今後の展開に注目し続けたいです!

文:宮﨑健太郎(ロレンス編集部)

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