発想転換! 特許取得の表面処理で愛車を延命
トレーディングガレージナカガワと言えば、現在はバイクカスタムの世界ではエンジンチューニングで知られるショップ。創業当時こそ、パフォーマンスマシン(PM)製ホイールなど海外パーツの輸入販売を行ったが(トレーディングガレージの屋号もこれが由来だ)、2000年前後からはGPZ900RやZRXを主とするニンジャ系各車のチューニング&メンテナンスを請け負うようになった。
中でも特色はエンジンチューニング。ただビッグパワー、ハイパフォーマンス化に止まらず、オーナーが気に入った車両を長く楽しめるよう、チューニング後のチェック&メンテナンスにも着目したこと。ニンジャ系エンジンならではのパーツ互換性と豊富なアフターマーケットパーツを駆使して、パワーを引き出しながらエンジンの耐久性&安全性を高める、二律背反する両者を高次元で追い求めてきた。
そこから20年。今も高い人気を誇るニンジャ系エンジンモデルも生産終了から時間が経ち、豊富だった純正パーツにも廃番製品が目立ってきた。未だに作業依頼の絶えないニンジャ系エンジン。同店にとって由々しき問題となった。
「これまでは、後継機用対策部品を使う、信頼できる社外パーツを使う、入手可能な新品パーツも極力延命できるような加工を施した上で使うことで乗り切ってきました。でも、それもいつまで続くか分からない。もっと先を見据えた方法を探しました」(中川さん)
そんな中川さんが辿り着いた回答が表面加工処理、『R-SHOT』。多くの表面加工ではフリクション低減を狙うことが主眼となるが、R-SHOTでは一歩進んで、再使用可能範囲のパーツならその外寸を大きく狂わせることなく、微細な擦り傷など消し去ること。つまり中古パーツの再利用範囲が大幅に広がることに着目した。
さらには二硫化モリブデンを独自手法で焼結させる『R-SHOT#M』施工法も完成、これら技術でこのほど特許も取得して、信頼性も証明してみせた。後編ではその特長を具体的に追っていこう。
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特許取得技術、R-SHOTとR-SHOT#Mの詳細とは?
フリクション低減効果が維持され続ける、R-SHOT#M施工の仕組み
R-SHOTとR-SHOT#Mの、具体的な作業法をイラスト化して見て行こう。まず最初が(1) と(2)。さまざまな樹脂を特殊配合したメディア(粒子)を高圧投射して、非処理物(パーツ)表面の機械加工時にできたエッジを除去する工程。これがR-SHOT処理で、滑らかな下地を成形(この時点で表面硬度も向上する)。そして(3 )からはR-SHOT#Mの工程。(3) は二硫化モリブデンを、高温焼結処理した状態。表層の厚さは0.5μm〜5μmの範囲で調整可能だ。被処理物側の凹部にも二硫化モリブデンが入り込み、焼結しているのも分かる。ここも先のR-SHOTによる下地処理次第で浸透厚を調整できる。(4) は被処理物が摺動されて、表層の形成膜の摩耗が進んだ状態を表している。凹深層部に残存したモリブデン層が表出してフリクション低減効果は維持され続ける。
R-SHOTだけでもメリット多数! 他にない溶剤使い分けがそのキモだ
R-SHOT施工の処理/未処理の差を500倍電子顕微鏡で見ていく。1番上の機械加工のみとは、いわゆる新品パーツの表面の状態。明らかなギザギザの筋が見えるが、2番目、R-SHOT施工で表面は平滑化される。3番目の研磨状態処理のみの状態でも平滑化は認められるが、4番目の処理済みよりランダム感がある。注目すべきは最下段、4番目のの中古品+R-SHOTで、2番目の新品パーツへの施工と同等の平滑性を得ているのが分かるだろう。
R-SHOT施工を突き詰めるうちに、中川さんが導き出したのが、施工箇所によるメディアを含む溶剤の変更。右からピストン、ミッション、ピストンピンの各用。もちろん、メタルやカムホルダー用でも配合は変わる。こうした溶剤の使い分けもR-SHOTならではの特徴だ。右端の黒い溶液はR-SHOT#Mに使われる二硫化モリブデン溶剤。
レポート:ヘリテイジ&レジェンズ編集部
本企画はHeritage&Legends 2021年9月号に掲載された記事を再編集したものです。