進化を重ねるカワサキZのコンプリートカスタム
RCM=リアル・コンプリート・マシンというコンプリートカスタム車製作を行ってきたACサンクチュアリー。それは突然現れたのでなく、2000年の同店開店前から代表の中村さんが温めていたZの17インチ/ワイドホイール化を徐々に集約し、コンプリートという形にしたものだった。
以来20年で550台超。割合はZが7にGPZ-Rが2、その他1というから、Zが圧倒的に多いのだが、その年数と台数からは、当然次の進化を求めるユーザーもいたのではないかと思える。「実際その通りで、RCMの中でも、リメイクされる例は割と当然のようにあります」。サンクチュアリー代表の中村さんは言う。
「内容をアップデートしたい、パーツを交換したい、オーバーホールでリフレッシュしたい。基本的なカスタムの欲求と同じとは思いますが、そこに5年なり10年なりの変化が加わってきます。
パーツも、車体側も、電気系などもですね。作り方もより良いとか効率化できる方法が見つかったりします。それでリメイクした車両に乗ると、数値的なスペック自体は変わっていないはずなのに、乗ると明らかに違う。現代バイクが少し年代が進むと同じ17インチなのに乗りやすくなってたりしますけど、これと似た感覚ですね。
中にはリメイクを行うのにもう1台買えるくらいのコストをかけるケースもありますが、それも同じ個体=Zで、これが好きだからさらに手をかけてみようという感じです」(中村さん)
ここで紹介のRCM-442はそうしたサンクチュアリー製RCMリメイクの一例でもある。元々作り置きで用意されるRCMクラフトマンシップの車両を「元気で楽しめるZを探していた」というオーナーが購入。その後走行を重ねてパーツ換装等も楽しんだ後に、「すごく楽しくなったので行き着くところまで行きたい」と、エンジンも車体も、すべてのパートで究極の仕様を目指して大幅リメイクを行ったものだ。
「ノーマルから進んだ状態を体感されて、その上でさらにというステップを踏んで、現時点で考えられる究極的な仕様になりました。RCMはそれ自体がZほかベース車のリメイク的な要素を持っていると思います。17インチ化や補強、エンジンスペックはZ生産当時にはなかったものですから、それを現代化すればこうなるんだと取ってもらえるんです」
なるほど、リメイクは作り直しではなく、より良くするためのアップデート。そう考えると、視野も広がってくる。
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細かい進化を生かしたリメイクで不安も払拭
「前に作った仕様がダメではなく、どれもその時々で作った最新仕様だった。それを新しくしたいということです。今あるバイクをカスタムするのもそうでしょうし、そのベースがオーナーさんもしくは私たちにとってはZ、あるいはRCMだったということです。
または、その頃できなかった、開発されていなかった部分もあった。そこはうまく採り入れるといいと思います。
Zの点火をポイントからMk.IIでそうなったようにトランジスタにするのもそうですし、ブレーキマスターのラジアル化、ホイールも流用のキャストから鍛造に、パーツが削り出しになったのもそんなひとつだと思います。
このRCM-442ではKOUGA店のエヴォシステムを組みました。これはアウトプットシャフトを長くして支持位置も増やし、リヤタイヤをワイド化してもオフセットスプロケットが要らなくなる。複数箇所で精密支持できて、ミッションの振動が減らせた。
エンジンも442では1197cc仕様になっています。RCMではここしばらく903のノーマルから930、1045ccあたりで少し圧縮比を上げて元気にするという安心のライフパッケージが多かったのが、ライフは十分確保したということで1075ccなど、排気量も上げていくパワーパッケージの依頼も増えてきました。このライフかパワーかの好みは何年かごとに周期的に動きますね。
それは対策パーツだったり、新しく現れる加工だったりで変わります。今ならパルホスM(防錆潤滑)始めいい表面処理もあります。クランクも改めてフルリビルドするというリメイクも増えました。組み立てクランクを分解してコンロッドの鏡面化や精密重量合わせ、WPC処理後に組む。
ガスケット類もいいものが出てきてますから、以前出ていたようなオイルにじみもなくなる。先頃市販化したトロコイド式オイルポンプも、今まであったような突然の油圧落ちもないですし、圧送量が今までの5倍でオイルクーラー追加車にも余裕で対応出来る。このように各部で進化があります。
RCM-279(下の写真)もオーナーさんがついて7年乗った後に事情で手放されてリメイクしたものです。スチールメガホンのマフラーもリメイクですが、塗装からセラコートにしました。同じ黒仕上げですが錆も出にくくなる利点も得られる。こうした点もリメイクのメリットでしょう。
年月が経てば内容もパーツも変わるのは当然です。市販バイクが進化するのでそれを買い換える。それと同じように、このバイクが好きだからリメイク、アップデートしたい。そうした考えでZという乗り物と進化を楽しんでほしいですし、そのためにもリメイクに注目して貰っていいと思います」
RCM自身も元々Zのリメイクだから、そこに新技法を採り入れてブラッシュアップしたいとも中村さん。それだけでなく、カスタムとしての側面もミックスして考えれば、もっとリメイクの世界を楽しんでいけるとも。この考えは、カスタムのベースとも言えそうだ。
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使用するブランドのパーツもアップデート
足まわりを中心とした機能パーツは世界の最高峰が最も多く使われるRCM。MotoGPでも使われ、最先端が市販品にも反映されるこれらは見た目からも機能面からもアップデートが期待できるものばかり。オーリンズ ショック、ブレンボ ブレーキシステム、O・Zレーシング ホイール、サンスター ディスク、アレーグリ ブレーキラインなどが代表的なアイテムで、それぞれの専門からの視点も活用している。
オーリンズサスやブレンボのブレーキはMotoGPはじめ定番で、常に新しいものが現れる。
O・Zレーシングの鍛造ホイールもMotoGPでの活躍が著しい。サンクチュアリーは扱い元であり、かつRCMへの適用への提案もくる。
アレーグリは車両ごとに専用の長さや角度が作れるショルトシステム(カシメ機)で製作。
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エンジンはまずライフ重視、パワーも上乗せ
エンジンは新品/代替品/対策パーツを使い、それぞれの作動が確実になり寿命を延ばす加工も行う。ただ各パーツは進化するだけでなく、劣化するものの再使用もあるから、そこは再構築の手法を用意して補う。
クランクシャフトまわり。新作はなく、純正も以前よりも今は位相ずれが増えたので、それも見直す。
RCMリメイクではクランク再分解後にコンロッドの精密重量合わせを行う。
ポリッシュorWPC加工、芯出し/ベアリング新品化、フルバランスとメニューが1段上の段階に来た。
フロントスプロケットまわり。カバー内側/ケース外側にはエヴォシステムとロングアウトプットシャフトを装着して軸を両支持化、軸部の耐久性を高めミッション振動を減らす。リヤタイヤのワイド化→チェーンライン外側化の際に使うスプロケットもオフセットタイプでなくてOK。右下、新作のハイプレッシャーオイルポンプはRCM-442にも同店レーサー3号機にも組まれ、人気上昇中。
確立した17インチ特化のディメンション
RCM成立当時はひとつひとつ計測していたリヤショックマウントは2004年にはピボットからの位置決めジグを作って定量化。17インチ最適化したフレーム補強(チェーンラインワイド加工含む)のST-Ⅲ/Ⅱ補強は2006年に供給開始。フォークオフセットもZ1の60mmから40~35mm、スイングアーム長さ525mmや垂れ角8.2度(1G時。車重やサスのバネレートで前後あり)という17インチディメンションも時を追って適用。CAD解析も活用する。
レポート:ヘリテイジ&レジェンズ編集部
※本企画はHeritage&Legends 2020年5月号に掲載されたものです。