東京五輪が1年延期になったため、次の五輪(フランス・パリ)は3年後の2024年に行われる予定です。MotoGPなどのモータースポーツを統括するFIMは、パリ五輪で電動車によるトライアル競技である「トライアルE」を採用してもらうためにロビー活動をしていました。FIM会長のホルヘ・ビエガスは、もしトライアルEが五輪競技に採用されればモータースポーツ初・・・と2019年にコメントしていますが、じつは過去にも五輪でモータースポーツが行われた例はあるのです・・・!?
文:宮﨑健太郎(ロレンス編集部)
※この記事は「ロレンス」で2021年10月9日に公開されたものを転載しています。

1900年のパリ大会で、2&4輪競技が開催されましたが、その1回こっきりでした

ギリシャ、アテネで行われた古代オリンピックを、復興して行われた近代オリンピックの最初の大会は1896年のアテネ五輪でした。ちょうどそのころはICE(内燃機関)の実用化が始まって間もないころであり、2&4輪の黎明期と呼ばれる時代でした。

近代オリンピック第2回大会であるパリ五輪は、1900年に開催されました。なおこの大会は万国博覧会とともに開催されたユニークなもので、開催期間はナント5ヶ月にもおよびました。この年のパリ大会では、鳩撃ち、熱気球、綱登り、綱引き、消化活動、ライフセービングなどのさまざまな競技が非公式イベントとして開催され、そのなかには2輪車と4輪車の競技も含まれていたのです。

画像: The 1900 Paris Olympic Games had the most bizarre events imaginable www.youtube.com

The 1900 Paris Olympic Games had the most bizarre events imaginable

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残念ながら・・・上のYouTube動画に取り上げられてはいない、記念すべき? オリンピックの2&4輪競技の詳細はよくわからないのですが、2&4競技にはざまざまなクラスが設定され、大別するとリライアビリティ・コンテストと、パリ-トゥールーズ-パリの都市間長距離レース(1,347km)に分類されていました。

2輪はリライアビリティ・コンテストと、都市間レースの2クラスでしたが、4輪の方は実にクラス分けのバリエーションが豊かでした。4輪は都市間レースは小型車と大型車の2クラス。リライアビリティ・コンテストについては、2シーターの400kg以下および400kg以上、4シーター、6シーター、7シーター以上と細かく分類され、さらにタクシー、デリバリーバンの2ジャンルは電動車とICE車がそれぞれ別クラスで開催。そして小型トラックとトラック・・・の2つが加わっていました(2&4輪合計で16クラス)。

興味深いのは、参加はメーカーによるもの・・・という体裁なので、入賞メーカーは明らかになっているもののライダー/ドライバーが不明なクラスが多い点です。全16クラス中14クラスを制したのはフランス車という圧倒ぶりであり、2輪は2部門とも1-2-3位がフランス車が独占という結果でした。

奇しくも1900年は、6度開催された国別対抗自動車レース「ゴードン・ベネット・カップ」の初開催年でした。パリ五輪で行われた2&4輪競技は次の大会(1904年米セントルイス)では採用されることはなく、その後IOC(国際オリンピック委員会)は、機械的推進力を要する競技を五輪では認めないという条項を設けることになりました。

1900年パリ五輪に参加したウェルナーは、ロシア系フランス人兄弟が作った会社です。1896年からICE搭載自転車を製造し、「モトシクレッタ」というオートバイを意味する仏語を生み出したブランドでもあります(写真は1904年型ド・ディオン-ブートン製230cc搭載モデル)。

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トライアルの五輪採用への取り組みは、粘り強く続けられましたが・・・

1900年代以降、2輪と4輪のモータースポーツは急速な勢いで盛んになっていき、独自の文化を築き上げていくことになりますが、オブザーブド・トライアルをオリンピック競技にしようというムーブメントは、かなり昔から発生しています。

1904年創設のFIMは21世紀に入ってから・・・2000年9月にIOCに認可され、それ以降FIMha
モーターサイクルスポーツの五輪競技採用活動をさらに熱心に行うようになっています。ちなみに2012年には、4輪レースを統括しているFIA(国際自動車連盟)もIOCに認可されており、その5年前の2007年には先述の「機械的推進力を要する競技」を排除する条項を削除していました。

そして2019年、ジャック・ボレー(FIM副会長兼FFM=フランスモーターサイクル連盟会長)、ジャン-ピエール・ムージャン(FIM名誉副会長兼フランス国立オリンピック委員会副会長)、ホルヘ・ビエガス(FIM会長)、ティエリー・ミショー(FIMトライアル委員会ディレクターで、3度の世界トライアルGP王者)らのFIM代表団は、2004年に電動車によるトライアル競技「トライアルE」の2024年パリ大会での採用をIOCに陳情しています。

画像: トライアルEは、世界トライアル選手権併催イベントとして、2017年からスタートした電動トライアル車による競技です。 www.fim-moto.com

トライアルEは、世界トライアル選手権併催イベントとして、2017年からスタートした電動トライアル車による競技です。

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ホルヘ・ビエガス(FIM会長)
「2024年に開催されるパリオリンピックは、トライアルEがモータースポーツとして初めてオリンピック種目に採用されるという、ユニークで歴史的な機会であると確信しています。この素晴らしい初会合は、FIM、IOC、そしてオリンピックファミリー全員が、今後何年にもわたって緊密に連携していく強固な関係の基礎となるでしょう」

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2019年時点では、2020年の東京大会後に最終決定・・・というパリ五輪の採用競技決定プロトコルでしたが、周知のとおりCovid-19パンデミックにより東京五輪は1年延期されることになります。そして2024年まで時間がないということで2020年12月には、パリ五輪組織委員会の提案・・・ブレイキン(ブレイクダンス)、サーフィン、スケートボード、スポーツクライミングの4競技が、IOCに承認されることになりました。

残念ながら、パリ五輪組織委員会やIOCに対するFIMのロビー活動が足りなかった? のか、トライアルEが採用されることはありませんでした。近年五輪は極度に商業主義が肥大化し、その体制を維持するために巨額な放映権料とスポンサー収入を毎回求めるようになっています。平たく言えば、先進国でのテレビ放送視聴率が取れ、なおかつ若者層の関心をひける競技の採用が望ましい・・・というのが、IOCの本音なのでしょう。

画像: 2021年度のトライアルE王者に輝いたのは、フランスのガエル・シャタヌ(エレクトリックモーション)でした。 www.facebook.com

2021年度のトライアルE王者に輝いたのは、フランスのガエル・シャタヌ(エレクトリックモーション)でした。

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トライアルEに限らず、オブザーブド・トライアル競技全般はモータースポーツの中でも注目度が低い部類であり、地域的には欧州に人気と競技人口が偏っています。近年五輪競技に採用されている、若者に人気で、ビジネスのマーケットとしての魅力が高いエクストリーム系スポーツのように、消費大国アメリカで流行するくらいでないと、トライアルの五輪競技採用はおぼつかない・・・かと思われます。

2021年は、ビデオゲームを使う「eスポーツ」をオリンピックライセンスイベントとして扱うことをIOCが発表し、ちょっとした話題になったことが記憶に新しいです。これもまた、「若者とお金」目当てという流れなのでしょうが、eスポーツを認めたことは「機械を使うことは五輪に相応しいか?」という長年の議論に、終止符を打つことになった気もします。ぶっちゃけて言えば、なんでもアリっぽくなったわけですから(苦笑)。

トライアル業界の悲願が実現するのはいつの大会か? はわかりませんが、「若者とお金」を追うとともに「持続可能性」も探っていかなければいけなくなった近年の五輪なので、排ガスゼロでエコフレンドリーな電動トライアル車を使うトライアルEは、切り札的にアピールできるジャンルには違いないでしょう。今後のFIMやトライアル業界の「次の手」に、注目したいです!

文:宮﨑健太郎(ロレンス編集部)

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