日本が誇る二輪車メーカー4社は世界各地で高い評価を得ている。そして日本市場では正規販売されていない機種が海外では数多く展開されてもいる。この連載では、そんな知る人ぞ知るモデルをフィーチャー。今回は、日本でもお馴染みのホンダ「ディオ110」に関する話です。
文:小松信夫

「ディオ」といえば50cc…という時代がありました

画像: ホンダ ディオ(1988年モデル)

ホンダ ディオ(1988年モデル)

ホンダのスクーター「ディオ」シリーズに、乗った経験のある人、そして現在乗っている人も多いことでしょう。「ディオ」のデビューは1988年、前後10インチホイールの軽快なスタイリングのコンパクトボディで、シート下収納で高い実用性を実現した、若者がターゲットのスポーティで実用的な50ccスクーターとしてデビューするや大人気に!

画像: ホンダ ディオ(国内・2014年モデル)

ホンダ ディオ(国内・2014年モデル)

スポーティバージョンの「ディオZX」が90年代に若いライダーから絶大な人気となったりもしました。そして2ストだったエンジンを4スト化するなどのモデルチェンジを経ながら、基本的なコンセプトをそのままに、2014年まで販売されとりましたなぁ。

画像: ホンダ ダンク(国内・2015年モデル)

ホンダ ダンク(国内・2015年モデル)

2015年に後継となる50ccスクーター「ダンク」が登場。スタイリングのアップデート、USBポートの装備など…「ダンク」もやはり若者を狙ったモデルだった。この新世代モデルに後を譲って50ccの「ディオ」は消えていった、と。

画像: ホンダ ディオ110(国内・2021年モデル)

ホンダ ディオ110(国内・2021年モデル)

ただし、長年親しまれてきた「ディオ」の名前は残ったんですよね。2011年、安定性の高い前後14インチホイールを採用したハイホイールスタイルの車体に空冷110ccエンジンを積み、ヨーロッパなどで人気だったスクーターが「ディオ110」として日本に上陸。質実な作り、優れた安定性と使い勝手の良さ、高いコストパフォーマンスが受けて、現在まで販売は継続。今年大きくモデルチェンジを受け、完成度がさらに高まっている。

…というのは、皆さんご存知のところでしょう。ここからが本題。この連載のテーマは「気になる日本メーカーの海外モデル」ですから、当然取り上げるのは海外モデル。そう、海外でも「ディオ」は現役なのです。しかし、色々あるんですねコレが。

「ビジョン」じゃなくて「ディオ」と名付けた2つの国

画像: ホンダ NSC110ディオ(オーストラリア仕様)

ホンダ NSC110ディオ(オーストラリア仕様)

まず、日本の「ディオ110」の海外バージョンは? という疑問が。ヨーロッパをはじめ各国でコストパフォーマンスの高いスタンダードスクーターとして人気になってるわけだから。しかしこれがですね、日本のように「ディオ110」とは呼んでないんです。現在は基本的に「ビジョン」という車名で販売されてるんですな。というか、圧倒的に「ビジョン」の方が多数派。

とはいえ、ごく一部の国では「ディオ」の名前が付いているんですけど。ただ今度は「ディオ」と命名されている、その理由が分からない! 特定の地域に固まってるわけでもないんですよ、例えば日本の隣国である韓国では「ビジョン」なのです。

画像: ホンダ ディオ(トルコ仕様)

ホンダ ディオ(トルコ仕様)

私が調べた限りでは、日本以外で「ビジョン」系モデルを「ディオ」と呼んでるのは、オーストラリアとトルコ。地理的にも文化的にも遠く離れた、なんの繋がりもない国でしてね。過去に50cc版を輸入してた? もしくはローカルな商標の関係? 「ビジョン」というよからぬ意味のスラングがあるとか?…いろんな想像はできますが、実際のところ全く分かりません。

中南米、フィリピンも「ディオ110」なんだけど

画像: ホンダ ディオ110(フィリピン仕様)

ホンダ ディオ110(フィリピン仕様)

そして第二の「ディオ」がこの「ディオ110」。名前が全く同じで紛らわしい…。前後10インチホイールで、ちょっとスポーティなスタイルのコンパクトなボディ。エンジンは空冷の110ccでそこそこ力強く、コンパクトだけど使い勝手も悪くはなさそう。販売されてるのは中南米諸国で占められてて、コロンビア、チリ、エルサルバドル、グアテマラ、メキシコあたり。でも、なぜか遠くフィリピンでも売ってたりする。

画像: 中南米、フィリピンも「ディオ110」なんだけど

このパンフレットを見ると、日本版などの実用性が売りのハイホイールな「ディオ110」とは異なり、明らかにもう若者がターゲットになっている点で、90年代とかに日本で売ってた「ディオ」に近い立ち位置のモデルとはいえそう。ただし世界的なスクーターの潮流からいえば、前後10インチというのは今や少数派。加えて前後ホイールがスチール製、フロントサスはボトムリンク、ブレーキもドラムというあたり、若者向けとして低価格を追求したってことなのか。

そしてインドにも「ディオ」が…

画像: ホンダ ディオ110(インド仕様)

ホンダ ディオ110(インド仕様)

そして第三の「ディオ」は、膨大な人口を背景とした巨大市場となっているインドで2020年に発売されたモデル。これもまたまた、車名が「ディオ110」! もう紛らわしいったらありゃしない! ポジションランプ一体のヘッドライトを中心としたフロントマスクをはじめ、各部のデザインはエッジの立ったシャープな印象でちょっとオラオラ系。

ボディは「ビジョン」系モデルとも、中南米の「ディオ110」とも異なりボリューミーで、ホイールもフロント12インチ・リア10インチという組み合わせ。日本でも売られてた「リード125」なんかと同じホイール径だけど、コンパクトさと軽快感を上手くバランスさせる選択なのかね? エンジンは空冷eSPの110cc。フラットフロアだし、シートもゆったりでいかにも快適そうな感じ。

画像: そしてインドにも「ディオ」が…

ハイホイールな日本版とは違う手法で、実用性を重視したモデルということなのね。と思ったら、このインド版「ディオ110」には、なんと「レプソルホンダエディション」なんてものまであって、広告にM・マルケス選手を起用してスポーティなイメージでも売り込んでくる。しかしこれ、ボディカラーが違うだけじゃなく、ホイールもキャストになってたり案外芸が細かい造りだ。

画像: ホンダ ディオ110DX(インド仕様)

ホンダ ディオ110DX(インド仕様)

さらにスタンダードモデルに加えて、ちょっと上質な雰囲気のカラーリングの「デラックス」まで用意するという力の入れよう。要するに、それだけ需要があるってことだよね。多分、日本で1年かかって売る台数を、1ヶ月とかで売っちゃうんだろうなぁ。しかもこれ、現地価格が日本円換算で10万円そこそこなんだから、インドは凄いね本当に。

ということで、今回は世界各地の「ディオ110」を紹介しました。その共通点は「お手頃価格」「使い勝手の良さ」というところでしょう。ホンダ的には、そういうスクーターに与えられる車名が「ディオ」であると。しかし、それぞれの市場の要望や環境に合わせるために、全く異なるアプローチを採った結果の独自進化三態…いやいや興味深い興味深い。

文:小松信夫

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