文:宮﨑健太郎(ロレンス編集部)
※この記事は「ロレンス」で2021年9月7日に公開されたものを転載しています。
アンビィ(AMBY)とは、「アダプティブ・モビリティ」の新語!?
BMWのリリースによると、ヴィジョン アンビィとiヴィジョン アンビィの外観は(特に高速ペデレック=電動アシスト自転車のiヴィジョン アンビィは)Eバイクに似ていますが、その可能性はEバイクよりも格段に広がっているものである・・・と説明しています。
なおアンビィ=AMBYとは、BMWが作った新語で「アダブティブ・モビリティ」を意味しています。アダプティブは英語で「適応する」を意味する言葉ですが、BMWとしては今後、大都市において自動車が諸規制によりますます自由に走れなくなることを危惧しており、その予想どおりの結果になったとしても、都市モビリティの提供にBMWは積極的にコミットしたい・・・ということで、これらのコンセプトモデルを生み出したわけです。
将来、新しい法律の導入を促すことも開発の意図!! その発想がスゴイです!
ヴィジョン アンビィとiヴィジョン アンビィはともに、道路の種類に応じて3段階の速度設定が可能な電気駆動システムが搭載されていることがその最大の特徴であり、凡百のEバイクたちとの大きな違いです。
速度設定の最高速は、自転車専用道では25mk/h、都心の道路では45km/h、そして複数車線の道路や都市部以外では60km/hに制限されています。なお高速ペデレックであるiヴィジョン アンビィは常にペダルを漕がないといけないですが、ヴィジョン アンビィはスロットル操作で加速することが可能です。
非常に興味深いのは、高速度で走るときは保険とそれに対応する免許が必要・・・とBMWが説明している点です。現在のEUでは、各種制御で出し得る最高速が変わるからと言って、自転車専用道や自動車道など走れる場所を変えることができる乗り物に関するルールは整備されていませんし、保険やライセンスについてもそういう乗り物を想定して設定されているワケでもありません。
つまりBMWは、彼らがコンセプトモデルとして公表した2タイプのアンビィに採用した「モジュラー・スピード・コンセプト」に対する既存の法的枠組などがないことは百も承知の上で、各国の行政に適応する法律の導入を促すことを意図しているわけです! メーカーから、将来の交通への提言ともいえる存在であるわけで、コンセプトモデル名のヴィジョンにはそういう意味もあるのでしょう!
iヴィジョン アンビィの航続距離は最大300km
ヴェルナー・ハウマイヤー(BMWグループ・デザイン・コンセプション副社長)
「至る所で、既成のカテゴリーが吹き飛ばされていますがそれは良いことです。将来的には"自動車"、"自転車"、"モーターサイクル "といった分類は、私たちが考え、開発し、提供する製品の性質を決定づけることはないでしょう」
上のコメントに続きハウマイヤーは、この"パラダイムシフト"が人々のライフスタイルに合わせて製品をカスタマイズする機会を与えてくれる・・・と述べています。iヴィジョン アンビィは、自転車と軽量モーターサイクルの中間的存在であり、カスタマーが都市内で走りたい道路の種類や、ルートを決める自由度を高めます。つまり従来のEバイクの枠組には収まることなく、その使用範囲と活用方法を大幅に拡張している・・・とハウマイヤーは説明しています。
iヴィジョン アンビィの2,000Whバッテリーは、フレーム中央部にマウント。走行モードにもよりますが、最大で300kmの航続距離を可能にしているそうです。急速充電技術の採用により、充電完了までの時間はわずか3時間。ペダルを回しているときのみに作動するドライブユニットは、トランスミッションを内部に組み込んでいます。
BMWモトラッドの血統を受け継ぐ、ヴィジョン アンビィ
ペダルではなく、モーターサイクル的なフートレストを備えるヴィジョン アンビィは、見た目こそEバイク的ですがその"中身"はモーターサイクルである、とBMWは主張します。確かにフロントフォークなどの装備を見ると、ヴィジョン アンビィは自転車ではなく、モーターサイクル寄りの構成になっていることがわかります。もしヴィジョン アンビィがこの内容のまま市販されたとしたら、最も安価にBMWモトラッドの世界観を満喫することができるモデルになるのでしょうね。
ヴィジョン アンビィの全体的なプロポーションは、BMW製エンデューロバイクの文法を踏襲。フロント26インチ、リア24インチのホイールを採用し、オフロードでの走破性能も強く意識した作りになっています。
iヴィジョン アンビィとともに採用されたスマートフォンによるコネクティング技術は、車両の起動、保存された運転免許の種類の読み込み、必要に応じた保険の利用・・・など多くの機能が盛り込まれています。従来のメインキーとしての機能だけでなく、フェイスIDなどのスマートフォンに搭載される識別機能を利用してオーナーを認識したり、充電状況などのモニターとしても活用されています。
ジオフェンシング技術によって、位置情報とマップを使って走行する道路に合わせた最高速度、免許、保険を自動選択する機能は、iヴィジョン アンビィ同様にヴィジョン アンビィも採用。先述のとおり、任意で走行モードを乗り手が選択することもできますが、市街地を高速で暴走・・・なんてことはできないように、ジオフェンシング技術によって常に適法な状態で走るように管理されることになります。
老舗モーターサイクルブランドがEバイクを新興企業と組んで販売する・・・という例はすでにありますが、BMWはEバイク市場に進出するにしても、未来の都市交通環境もセットで"デザイン"することを考えているわけです。これらBMWの意欲作が市場に登場するには、BMWがどれだけEU圏などの政府・行政にはたらきかけをして、法律を整備させるという高いハードルを超えなければなりませんが・・・。
もっともBMWの技術力を考慮すれば、現在の法律に合わせてiヴィジョン アンビィとヴィジョン アンビィを、巷によくあるEバイクと、巷によくある2輪EVとして販売することはすぐにできると思います。ただ、そういうBMWはみなさん見たくないですよね? ともあれ、このコンセプトモデル2機種の今後の発展を、見守っていきたいです!
文:宮﨑健太郎(ロレンス編集部)