ヤマハSR400は生産終了、ホンダは新たにGB350を開発
2021年になってからの日本オートバイに関する最大のニュースといえば、ヤマハSRシリーズの生産終了だろう。
1978年のデビューから43年、その姿を大きく変えることなく販売されてきたロングセラー。いかにもオートバイらしい古典的なスタイル、シングルカム2バルブの空冷単気筒でスタートはキックのみというメカニズム、豊富に揃ったパーツによるカスタムの自由度の高さ、ビッグシングルらしい乗り味と気持ち良い走行フィーリング…幅広い意味での“SRらしさ”によって、多くのライダーから根強く支持されてきた。しかし、3月15日に発売された「SR400ファイナルエディション/リミテッド」を最後に、その歴史に終止符が打たれる。
そしてこのSR400の退場と入れ替わるように、ホンダは空冷単気筒エンジンをオーソドックスでクラシカルなデザインの車体に組み合わせた「ハイネスCB350」を発表。インドホンダで生産されるこのモデル、国内向けには「GB350」として発売されることも決定。ただしこの「ハイネスCB350」=「GB350」は、クラシカルなスタイルとは裏腹に、車体からエンジンまで、すべて一から現代の技術で新たに設計された全くの「新車」という点で、SRとは対照的な存在だ。
終焉と誕生、対照的なニュースとなったこの2台。「SR400ファイナルエディション/リミテッド」には、あっという間に予定台数を超える注文が殺到。そして「GB350」も、現時点では価格などの詳細が明かされていないのにも関わらず、その注目度は非常に高い。ということは「クラシカルなスタイルのシングルスポーツ」への需要がかなり存在する、ということになる。ならば、なぜヤマハはSRの生産を終えてしまったのか? という点が疑問となってくる。
SR生産終了の理由について、ヤマハによる公式なリリースはないので、ここから先はあくまで想像なのをお許し願いたい。メディアなどで語られているのは、欧州の排ガス規制「EURO5」への対応が困難となったのではないか? ということ。
確かに、近年の排ガス規制は厳しさを増している。そして熱的に厳しい部分を効率よく冷やせる水冷エンジンの方が、燃焼効率を高められ排ガスの浄化には有利なのも確か。しかしGBもSRも同じ空冷単気筒エンジンではある。
ただしGBのエンジンは最初から「EURO5」をクリアすることを目指し、あらゆる部分が現代の基準で設計されている。排ガスだけでなく、バランサー軸も備えて振動を小さく抑えている所もSRとは大きく違っている。
対してSR400のエンジンは、1970年代に設計されたエンジンをベースに、FI化やキャタライザーの追加などによって、これまでの規制に対応させてきたものだ。技術的に規制対応は可能かもしれないが、基本構造に手を入れるような大幅な改良が必要となる可能性もある。その結果の価格アップはもちろん避けられない。
去り行くモデルは「排ガス規制」とともに「ABS」の問題も
規制に関してはもう一つ、2018年から二輪車にもABSの装着が義務化されたことの影響の方が大きそうだ。SRは継続生産車としてABS装着を免れていたが、2021年10月以降も販売するためには、新たにABS装着モデルを設定しなければならない。「EURO5」対応に加えてABS仕様まで開発するとなると、さらに価格が跳ね上がってしまう。
しかし、こういった理由よりも大きな要因となったのは、近年世界的に高まりつつある「CO2削減」そして「カーボンニュートラル」への動きだろう。1月には小池百合子東京都知事が「2030年に東京でのガソリンエンジンの乗用車販売をゼロに」と発言し大きな話題となった。これに加えて「二輪車も35年までにゼロ」とも発言しているのだから、日本の二輪業界も影響を免れない。もはや大きなコストをかけて、SRを改良している場合ではなくなったのかもしれない。
ただし、SRというブランドの価値は見逃せないほど大きな存在感を持っているのは確かだし、空冷エンジンでも規制に対応できるのは、GBをはじめ、W800やメグロK3、CB1100などの存在からも明らか。屋上屋を重ねる改良で無理やり規制に対応するのではなく、ホンダがモンキーを125で復活させたように、最新技術で開発された空冷エンジンを積んだ新世代のSRが新たに登場することを期待したい。
文:小松信夫