ホンダモーターサイクルジャパン(HMJ)の社長に就いた室岡克博氏インタビューの最終回。本田技研工業熊本製作所から始まり、念願の海外での仕事も実現。これまでの経験や教訓を背景に、これからHMJでどのように舵を取るのかを聞いた。
文:二輪車新聞 編集部
 
※この記事は、『二輪車新聞』の公式ウェブサイトで2020年10月21日に公開されたものを転載しております。
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柔軟に、謙虚に、新しいことを学び続けたい」

──組織運営では、これまでの経験が発揮できると思われます。

「そうかもしれません。私の原点は『熊本製作所時代』です。若造の私に辛抱強く仕事を教えてくれた方々に、今でも感謝しています。シンガポールでも『ホンダをハンドリングするのは日本人従業員だけではないんだ』と気づきを教えてくれた彼らにも感謝しています。こうした経験の集大成が、ナイジェリアで発揮できたと思います。ナイジェリアではマネジメントを現地化し、生産販売台数や販売網を拡大することができた、結果的に本社が増資もしてくれました」

──自身でブレていないところ、両親からの教えや人として大切であると考える事柄や信条は。

「今までの経験から、常に相手の立場や気持ちになって物事を考えることが大切だと考えています。私たちは自分一人では何もできない。仕事においても社長一人で全てを動かせるわけではない。国内二輪事業も、お客様はもとより販売店様、HMJの従業員、関連協力会社の皆さん、そして本田技研という全てのステークホルダーの皆様の協力によって成り立っている。従業員の方にはいかに『働く喜びを感じていただけるか』をいつも考えています。このことはブレていないと思います。HMJでもそうしていきたい、そうなればと考えています。

人として大切な事柄では、親を見ていて感じたことで、『誠実であること』がまず挙げられます。愚直なほど正直で、私の仕事のベースはこれなのでしょう。また父親がまだ若かった頃の私に『お前の財産は一生学び続けることが出来ることだ』と言ってくれました。今までの経験に胡坐をかくことなく、いくつになっても柔軟に、謙虚に、新しいことを学び続けたいと思っています」

──自身で長所、短所を挙げるとすると。

「長所は難しいですね。敢えて挙げるとすれば、国内・海外での経験値から、多様性に対する受容度はあると思います。自分とは価値観が異なる相手と、相手の意見を受け入れながら、より高みを目指すコミュニケーションは取れると考えています。以前、上司からは『意外と土壇場での突破力がある』と言われたこともあります。

短所は、社長としての威厳がないこと。息子にもオーラがないと言われましたね。時々自分でも社長として『それでいいのか』と自問自答してしまいます。時には厳しさも必要なのですが、自分らしさを大切に従業員とともに伸長していければと思います」

──企業経営、組織運営で重要と考えることは。

「当然、業績を高めるために、日々各分野で取り組んでいかねばならないこともあります。しかし所詮企業は人です。5年、10年後を見据え、どのように人を育てて、どのように人を配置していくのかなど、適材適所。それに尽きると思います。人を育てることの大切さを実感します」

室岡克博社長

「最先端ビジネスモデルで世界の手本に」

──本社の方針に沿った形で、HMJとしての使命やビジョンを挙げるとすると。

「海外の事業所と違い、HMJの場合、本田技研が同じ日本に在るので、どうしても頼ってしまうところがある。事業における責任感やリスク認識が薄かったり、子会社意識が出てきてしまうところもある。しかし本田技研は世界本社として全世界の資源配分をコントロールするところであり、日本の二輪マーケットを開拓し、事業に責任をもつのはあくまでHMJだと思っています。

ホンダの造った商品を卸すだけでなく、我々がマーケットに必要なものは何かを考え、企画して、具現化し、事業収益を得るという一連のビジネスサイクルを自分達で回せるようになるべきだと思います。当然ビジネスにはリスクがつきものですが、リスクや責任のないところに自覚は生まれないし成長もない。ホンダは日本を含め世界を7地域に分けて事業運営しており、日本以外の地域は皆そうしています。

そのうえで国内二輪事業の目指したい姿ですが、成熟・縮小市場の日本において、残念ながら台数や収益の規模で世界に貢献することはもはや難しい。しかしながらこの環境下で、いかに効率的なオペレーションをするか、いかに新しいビジネスチャンスを作り出すかを追求していきたい。世界で今拡大を続けている市場も、いつか日本のように成熟あるいは縮小市場に転じるかもしれない。日本はホンダのホームカントリーです。オペレーションの質や最先端のビジネスモデルで世界の手本となるべきだと考えています」

──HMJのこれまでとは変えないところ、変えるところを挙げると。

「前社長の加藤が『量の創造』『質の進化』というスローガンを掲げました。これは継承していきます。『量の創造』で言うと、ユーザーの平均年齢が年々高齢化していく中、今若い人たちに二輪車に乗っていただかないと将来、国内二輪市場は本当に無くなってしまう。しかし若い人たちにとって二輪車を購入し所有することのハードルは高くなってきている。

そこで免許取得キャンペーンと共に始めたのが『Honda GO BIKE RENTAL』です。大勢の若年層の方々に、まずは二輪車の素晴らしさを体感していただきたいと思っています。また今後はさらに多くの若い人たちを二輪車の世界に惹きつけられるよう、様々なメディアを通じアプローチしていきたいと思っています」

『質の進化』で言いますと、ホンダドリーム販売網のネットワーク展開を、長期的に持続性を持たせながら強化と進化をさせていきます。また今後は販売店に頼るだけでなく、HMJから直接マーケットやお客様へのアプローチの量と質を高め、ホンダのロイヤルカスタマーを増やしていきたいと考えています」 

──車両の入荷や販売などの計画で、新型コロナウイルスによる影響は。

「政府による外出自粛要請後に売り上げが若干落ち、一度は計画変更をしましたが、6、7月になってほぼ計画通りに戻り、結果的に当初の計画に戻せそうです。生産状況も現在は問題ありません。しかし、いくつかの新製品が大好評をいただいた結果バックオーダーを抱えてしまい、お客様や販売店の皆様にご迷惑をお掛けしています。その解消に努力しています。新型コロナの影響としては、様々な集会や移動の制限がかかっている中、お客様に二輪車を楽しんでいただく目的の、ユーザー対象のイベントの数々を開催ができないことが非常に残念です。

そうした中で4月以降の『Honda GO BIKE RENTAL』では、全国約260店の加盟店様、会員数約18000人を超え、20歳の若いお客様から40歳のお客様を中心に、約3000人の利用をいただいています。(8月19日現在)レンタルサービスでは単にお客様にバイクを借りていただくだけでなく、購入候補の新モデルに試乗していただくことも目的にしています。今後も『量の創造』の一環で、いろいろな販売方法、提供の仕方を世界の手本になるように考えていきたいと思います」

文:二輪車新聞 編集部

※この記事は、『二輪車新聞』の公式ウェブサイトで2020年10月21日に公開されたものを転載しております。

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