待望の量産型4気筒ドゥカティの実力は如何に!?
日本国内に導入される2018モデルの中でも、大きな話題を呼んでいるドゥカティパニガーレV4。的確で分かり易い試乗記でおなじみの八代俊二氏がスペインに渡り、試乗レポートをお届けする。
ついにこの日がやって来た。何が? って。パニガーレV4のプレス試乗会に決まってるじゃない。昨年のミラノショーで実車がお披露目されたとき、いやいや事の始まりはドゥカティがMotoGPに復帰した2003年から、スーパースポーツ好きの間では近い将来ドゥカティが4気筒の市販車を売り出すに違いない! という期待と憶測が飛び交い始めたのだ。ところがMotoGP参戦開始から何年経ってもドゥカティは、それまで同様999や1098、パニガーレといったビッグツインエンジンを搭載するモデルをフラッグシップとして作り続け、ワールドスーパーバイク選手権で数々のタイトルと栄冠を獲得したが、その一方でムルティストラーダやディアベル、スクランブラーといったキャラの立つモ
デルにも進化版ビッグツインエンジンを投入し、ドゥカティのエンジンはツインなんだということを頑なにアピールし続けてきた。
しかし、そうは言いつつも市場にドゥカティのマルチシリンダー、もといMotoGPマシンレプリカの登場を待ちわびているカスタマーが大勢いることは事実で、ドゥカティとしても行く行くはツイン以外のエンジンを搭載するバイクを投入する必要性は感じていた。そして、機が熟したと判断した2017年、満を持してパニガーレV4がお披露目され、その数ヶ月後には一気にデリバリーが始まるという急展開を見せたのだった。
しかしながら、MotoGP参戦開始から15年、瞬間的に限定販売されたデスモセディチから数えて10
年、なぜこれほどまでにパニガーレV4の市場投入が遅れたのだろうか? ここから先はレース解説30年、これまで幾多のドゥカティマシンに接してきた私の個人的な見解だが、ドゥカティがパニガーレV4の投入を遅らせた理由はベースになるMotoGPマシンの熟成が進まなかったからだと思われる。というのは、ドゥカティのMotoGPマシン、デスモセディチGPシリーズ(GPの後ろに年号の下二桁を入れると車名になる)はデビュー当初からニューマシンとは思えない最高速を誇り、エンジンに関してはMotoGP最強の呼び声も高かった。
ところが、その最強エンジンを受止める車体はというと、独創的な車体構成や先進的な試みが仇となり、エンジン性能とバランスさせるのが難しく、MotoGP参戦15年間でタイトルを獲ったのは2007年の一回こっきりという有様だった。ところが、2014年以降車体をオーソドックスな構成にし、エアロダイナミクスや電子制御技術を進化させることで一気にタイトル争いの主役に上り詰め、2017年にはランキング2位を獲得している。つまりベースとなるべきMotoGPマシンが仕上がってきたのだ。
一方、デビュー当初苦戦を強いられたパニガーレも地道な改良作業の結果、ここ3年で急激に戦闘力を上げ、タイトルまであと一歩というところまで煮詰まってきたが、近年のレギュレーション変更によって2気筒の優位性が失われ、これ以上2気筒でスーパーバイクを戦うことが難しいという判断に至ったと思われる。
今回市販されるパニガーレV 4は市販車最強を謳い排気量1103㏄に設定されているが、早い時期にスーパーバイクレギュレーションに適合した1000㏄モデルがリリースされる可能性は高い。つまり、機は熟したのだ。これまでもレースで勝利することを前提に開発されてきたドゥカティのフラッ
グシップだけに、MotoGPマシンをベースにしているパニガーレV 4が既存のスーパースポーツバイクを凌駕してる可能性は高い。パニガーレV 4の実力やいかに。
走り始めてすぐに感じる予想外の良好な乗り心地
パニガーレV 4 Sの試乗会場はスペインのバレンシアサーキット。これまで歴代の2気筒パニガーレの試乗はポルティマオサーキット(ポルトガル)で開催されてきた。ところがわざわざ今回試乗会場をバレンシアサーキットに変更したのには、何か狙いがあるに違いない。その理由は? 記憶している読者がいるかもしれないが、バレンシアサーキットはホンダRC 213 V-Sの試乗会場でもあったのだ。ということは、ドゥカティはパニガーレV 4 SをRC 213 V-Sと真っ向勝負させようとしてるわけ? そんな疑問を抱えながら試乗に臨んだ。
2気筒に比べやけにスッキリ見えるパニガーレV 4 Sだけど、実際に跨ってみるとその滑らかな曲線美とフィット感の良さに感激する。こんもり盛り上がったタンクはボリューミーだけど内腿が当たる部分が絞り込まれているし、何より通常のバイクに必須のメインフレームがない分、足つき性が良い。そして2気筒パニガーレではリアシリンダー横にオフセットマウントされていたリアサスペンションユニットが一般的なエンジン後方に移されたことで両腿で左右均一にニーグリップ出来るようになり、マシンとの一体感が飛躍的に向上している。
セルボタンを押すと2気筒に比べ軽やかにクランクが回り、V 4エンジンは軽やかに始動した。操作が軽い油圧式のクラッチレバーを握りシフトペダルに荷重を掛けるとスムーズにローギアに切り替わる。そしてギアが切り替わる際の衝撃も確実に2気筒よりも小さい。アイドリングは1400回転だが2500回転も回せば余裕で発進できる。
走り出して直ぐに感じるのは、パニガーレV 4 Sが非常に軽快だということだ。レバー類やアクセルの操作が軽く、エンジンは軽々と回る。左右のステップを片方ずつ順番に踏み込むと何の抵抗もなく車体が左右に傾斜する。浅い角度だと車体が左右に倒れ込む瞬間にハンドルに舵角が入ることもない。むしろ左右どちらかに身体を預けただけ(腰をずらしただけ)でバイクがそちらの方向に向かおうとするので慌てて車体を起こすほどだった。コース序盤のインフィールドを走っただけでパニガーレV 4 Sが非常に身のこなしが軽いバイクだということが分かった。
当日は20分×4回の試乗スケジュールだったが、1本目の走行時間帯は前日の雨の影響でコースの所々が濡れていた。朝露でシールドに水滴がつくほどのコンディションだったが、走行時間がたっぷりあると判断した私はスローペースで慎重に走っていた。ところが、血気盛んな外国人の中には微妙なコンディションなどお構いなしに飛ばしているテスターもいる。あの勢いで飛ばしていたらその内痛い目に遭うんじゃないかと危惧していたが、コンディションが回復した午後の走行も含め、その日の試乗は転倒者ゼロで終了した。勿論、勢いよく走っていたライダー達も不用意にバイクをバンクさせないなど、濡れた路面で守らなければならないポイントは押さえていただろうが、彼らがあの勢いで走ってクラッシュしなかったのは、トラクションコントロールやコーナリングABSなど、パニガーレV 4 Sに搭載された最新鋭の電子制御システムが有効に機能したからに他ならない。
一方、町乗りを想定してゆっくりとしたペースで一本目を終了した私が驚いたのは、縁石や段差を超えるときの衝撃吸収力が高く、乗り心地が良いということだった。これは今回初めて採用されたアルミ製フロントフレームとユニットのマウント方法をオーソドックスなボトムリンク方式にしたリアサスペンションの相乗効果だと思われる。このしなやかな乗り心地はその他大勢のスーパースポーツバイクと比較しても際立つものだ。
予想外に乗り心地が良好なパニガーレV4Sだが、全開でサーキットを攻めるとその高性能ぶりはさらに際立つ。70度の位相クランクを採用するV 4エンジンは7000回転過ぎから吹け上がりが鋭くなりレブリミットの14500回転まで一気に吹け上がる。ただその回転力は刃のような鋭さではなく厚みのある出刃包丁のような強さが感じられ、短い直線にもかかわらず最高速は5速のままで286㎞/hに達した。この加速感はかつて経験したことのない力強さだった。
一方、ブレーキングはどのスピード領域からでも不安無く思い切りブレーキを掛けられるし、フルブレーキングを繰り返しても熱だれやレバーフィーリングが変化することもなかった。クイックシフトが正確に作動するのでブレーキングに集中できるのも心強かった。そして低速コーナーではスライドコントロールが効いて危険なスライドアングルになるのを防いでくれるし、レースモードを選択すれば高速コーナーではトラクションコントロールEVOによってフルバンクに近い状態で任意にリアタイヤを滑らせてマシンの向きを変えることも可能だ。
実際にハイサイドになるのが怖くて全開に出来なかった左高速コーナー(13コーナー)で、クリッピングポイントを過ぎてからアクセルを全開にするとリアタイヤが滑ってスリップアングルがつくが、アクセル全開をキープしてもそれ以上リアタイヤが横滑りすることがない。つまりハイサイドにならないのだ。こんな痺れるような経験はこれまで試乗したどのバイクでも出来なかったことだ。パニガーレV 4 Sが既存のスーパースポーツを凌駕していることは間違いない。
スーパーバイクに拘り誕生したデザイン
パニガーレV 4のデザインチーフはジュリアン・クレメン氏。長身で穏やかな語り口のクレメン氏は2011 年入社の29歳。パニガーレV 4のデザインコンセプトから完成に至るまでの過程をデッサンやクレイモデルを使って詳しく説明してくれた。V 4 エンジンなどのハード面はMotoGP からのフィードバックだが、デザイン面ではスーパーバイク路線に拘ったという。エアインテークの奥にヘッドライトを押し込み、一見ヘッドライトが無いように見せたり、新採用のフロントフレームにインナーカウルをピッタリ沿わせ、その外側を従来のカウルで包み込むレイヤー方式を考案するなど、斬新な手法が採り入れられている。シンプルすぎるのでは? という声に対しては、デザインコンセプトのミニマリズムに則ったもので、ドゥカティコルセで風洞実験を繰り返した結果導き出されたものだという。アンダーカウルの前側が切り落とされたように直線的なデザインになっているのは916シリーズに対するオマージュとのこと。