ラウンドケースにグリーンフレーム……といえばイモラ・レプリカの代名詞のようなものですが、ここに紹介する“レプリカのレプリカ”のように分かりやすいものから分子レベルで見ないと分からないものまで偽物が多数出回っています。これも名車の宿命とはいえ、騙されないためには知見が必要でしょう。

文: 石橋 寛/写真: RM Sotherbys
▶▶▶写真はこちら|ドゥカティ1973年「750SS イモラ・レプリカ」のレプリカ(画像12枚)

“グリーンフレーム”になったのは塗料のせい?

「イタリアの納屋で眠っていた」「初期オーナーの親族から譲り受けた」といったもっともらしいストーリーを仕立て上げ、少なくない数のレプリカバイクが出回っていること、ご存じの通りです。とりわけ、ドゥカティのレガシーともいわれる750SSイモラ・レプリカは希少性やパフォーマンスといった価値の高さから、昔からひっきりなしに偽物が作られているようです。まさか、そんなものに引っかかった読者はいないと思いますが、ここでは良心的なレプリカをサンプルにして、本物の魅力、そして真贋の見分け方をご紹介しましょう。

画像: 1972年に伝説的な勝利を飾ったドゥカティ750SSイモラのワークスマシンをオマージュした1973年の750SSレクリエーション(再構築モデル)。

1972年に伝説的な勝利を飾ったドゥカティ750SSイモラのワークスマシンをオマージュした1973年の750SSレクリエーション(再構築モデル)。

そもそも、ドゥカティ 750 SS “イモラ・レプリカ”は、1972年の伝説的なレースでの勝利を記念して開発され、1973年に発表されたドゥカティ史上最もアイコニックな名車。通称「ラウンドケース(丸型クランクケース)のグリーンフレーム」と呼ばれ、現在のドゥカティのLツイン・スーパースポーツのDNAを決定づけた「聖杯」として、世界中のコレクターから崇められているモデル。

画像: 樹脂製タンクの一部を半透明にすることで、ガソリン残量がひとめでわかる工夫。これもまた、イモラの特徴です。

樹脂製タンクの一部を半透明にすることで、ガソリン残量がひとめでわかる工夫。これもまた、イモラの特徴です。

ちなみに、グリーンフレームと呼ばれるわりに、ワークスマシンや、こちらのレプリカがブルーなのは、当時、工場にあったドゥカティ社の「船外機」や「ディーゼルエンジン」用のあまった塗料をベースに、メタリックブルーを調色したという説が有力です。さらに、当時の塗装の質(仕上げのクリアコート)のせいで、年月が経つにつれて「よりはっきりとした緑色」に変色したことで、公式カラー名ではなくグリーンフレームの愛称が定着したのだとか。

画像: イモラで優勝したポール・スマート車を再現。近年、1000LEをベースに彼をリスペクトした同名のクラシックモデルもありました。

イモラで優勝したポール・スマート車を再現。近年、1000LEをベースに彼をリスペクトした同名のクラシックモデルもありました。

トライアンフからの移籍劇はポール・スマートの奥様が勝手に……

それまで小排気量の単気筒マシンしか作っていなかったドゥカティですから、天才エンジニア、ファビオ・タリオーニが設計したデスモドロミック搭載の90度V型2気筒(Lツイン)エンジンを搭載した750SSは、レースの幕が開けるまでさほど注目されていませんでした。それもそのはず、MVアグスタをはじめ、ノートン、モトグッツィ、トライアンフ、BSAといった強豪ひしめく中に「訳の分からん仕組みのエンジン」でポッと出てきたのですから、当初は優勝ライダーのポール・スマートさえ「懐疑的だった」と伝えられています。

画像: ワークスモデル同様、フレームはブルー。なのに、マニアにはグリーンフレームの愛称が定着しています。

ワークスモデル同様、フレームはブルー。なのに、マニアにはグリーンフレームの愛称が定着しています。

ところで、前年までスマートはトライアンフで走っていたのですが、1972年のイモラ直前に契約解除されています。それを知ったドゥカティが契約しようと電話をすると本人は留守で、代わりに出た奥様が「勝手に」契約したのだとか。人生、なにが当たるか開けてみないと分からないとは、まさにこのことでしょう。

画像: クラシカルなヴェリアのタコメーターも今となっては貴重なパーツ。このメーターは当時物かどうか公表されていません。

クラシカルなヴェリアのタコメーターも今となっては貴重なパーツ。このメーターは当時物かどうか公表されていません。

イモラに向けたワークスマシン(750イモラ)は、合計8台が作られた(現存7台/諸説あります)と記録されています。レースには、スマートと、イモラを知悉したブルーノ・スパッジアーリが駆った2台が出場。決勝ではMVアグスタの名人、アゴスティーニが先頭をきったものの4周目にはスマートがアゴスティーニを抜き、その1周後にスパッジアーリもパス。以降はドゥカティがワンツー体制のままフィニッシュという下馬評を覆す展開となったのでした。

画像: シートカウルはFRP製なので、真贋を究めようとしたらその化学組成の分析で可能となるのだとか。

シートカウルはFRP製なので、真贋を究めようとしたらその化学組成の分析で可能となるのだとか。

FRPで形はソックリでも化学組成を分析……って……

ご紹介しているレプリカは、この際のゼッケン16番、スマート車をオマージュしたもの。どこから手に入れたのか、ブルーのフレームだけは750SSの本物(ホモロゲ用)を使って、シルバーメタリックのフェアリングや、半透明のタンク、ヴェリアの競技用タコメーターまでしっかり再現。おかげで、オークションでは1万6500ドル(約260万円)と堂々の 落札価格となっています。前述の通り、こちらは最初からレプリカであることを明らかにしているものの、中には巧妙な手段で本物を偽る輩もいて、被害の報告には事欠かない様子。

画像: 打刻番号は本物のベリッキ製フレーム。ですが、高性能なレーザー刻印による複製も可能なので、究めるならばX線チェックが必須でしょう。

打刻番号は本物のベリッキ製フレーム。ですが、高性能なレーザー刻印による複製も可能なので、究めるならばX線チェックが必須でしょう。

これにはドゥカティの専門家も警鐘を鳴らしており、簡単、かつ確実な識別方法を提示しています。まずは、きちんとした書類が残っていることが大前提ですが、これも偽造はたやすいものなので、綿密に書類をチェックすることがファーストステップ。次に、刻印が「打ち直されたもの」か「オリジナル」かを見極めること。一度削って上から別の数字を叩いた場合、目視では綺麗に見えても、金属の奥深くの「分子構造の歪み」が異なるため、X線でスキャンすれば一発で真贋の判断ができるとのこと。そして、本物はヘッドストックには一切の打刻はないものの、ベース車両が750GTや750スポーツだった場合はここに車体番号が打刻されています。

さらに、ドゥカティのホモロゲーション番号の打刻と、フレームビルダーが使った打刻のフォントが違うことにも注意。現在ではPC制御によるレーザー刻印が進化しており、専門家でも見分けるのは困難としながらも「必ずチェックすべき」としています。

また、本物のフレームを製造した「ベリッキ社」の当時の職人が施した溶接のビード(盛り上がり)のクセ、スパッタ(溶接時の飛び散り)の残り方を観察するのも有効。素人には難しいというなら、溶接工の友達にでも判断してもらうのが吉でしょう。

画像: ホイールは当時物のボラーニをレストアしたとのこと。スプロケやチェーンを見ると、走れるレストアであることが分かります。

ホイールは当時物のボラーニをレストアしたとのこと。スプロケやチェーンを見ると、走れるレストアであることが分かります。

仕上げとして、塗料成分や、ガソリンタンクに使われているFRP(ガラス繊維と樹脂)の化学組成の分析も挙げられています。前述のふたつは万が一にも「当時の職人」が手を貸したりすれば偽造も可能ですが、化学的な再生は不可能とアピールしています。

バイク1台になにを大げさな、と思われるかもしれませんが、本物のワークスマシンであれば億超えも必至。ならば、邪な人間も出てくるというもの。市販仕様のイモラ・レプリカにしても401台のみの生産ですから、これまた数千万円というのが相場です。それだけの買い物をするのですから、やはり慎重を期すことは欠かせません。「イモラ・レプリカに掘り出し物なし」と心がけ、くれぐれも偽物などつかまされないようご注意を!

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