GSX-R750と双子の造りだったGSX-R600は、当時のライバルだったホンダCBR600FやヤマハYZF-R6を向こうに回しながらマン島TT最強の座に上り詰めました。イギリスの強豪チームが作り上げた最強マシンが約130万円で手に入る……だと……?

文: 石橋 寛/写真: RM Sotherbys
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市販ベースのマシンが非現実的なスピードで疾走するマン島TT

公道を使ったバイクレースの中でも、平均スピードの高さから「究極」とまで称されるマン島TT。100年以上の歴史を誇るだけでなく、コースの長さやジャンピングスポットなどの危険性で別格と呼んでも差し支えありません。スペシャルマシンによるハイエンドクラスも見ごたえあるものですが、やはりストックマシンを使ったプロダクションクラスこそアベレージライダーの注目が集まるのかと。なにしろ「俺のマシン」そのものが活躍するのですから、ドキドキワクワクが止まらないでしょう。

2002年モデルのスズキGSX-R600は、前年の2001年にフルモデルチェンジ(K1型)を受けて誕生した第3世代にあたるもの。当時、ライバルであるホンダCBR600FやヤマハYZF-R6がしのぎを削る「600ccスーパースポーツ」クラスにおいて、もっとも軽量でレーシーなキャラクターとして高い評価を受けました。そんなGSX-R 600をマン島TTマシンに仕立て上げたのが、イギリスの強豪チームである「TAS Suzuki(現TAS Racing)」でした。

画像: 2002年モデルのスズキGSX-R600、マン島TTレースで使用されたTAS Sports製マシン。

2002年モデルのスズキGSX-R600、マン島TTレースで使用されたTAS Sports製マシン。

当時のままの姿でオークションに

TASレーシングは2000年に立ち上げられ、当初はプライベーターとして活動していたものの、2002年からはスズキによるフルサポート体制(実質的なワークス)が組まれました。この年は、「最速の男」と呼ばれたデビッド・ジェフェリーズと、名手イアン・ラファーを擁して、ジェフェリーズがフォーミュラ1、シニアTT、プロダクション1000でハットトリック(3勝)を達成。また、ラファーはGSX-R600でプロダクション600クラスを制覇するなど1週間で4勝という猛烈ぶりを発揮したのでした。

ご紹介しているのは、まさにラファーが実走したマシンそのもの。同じく、GSX-R600を駆ったライバル、ブルース・アンスティを28.5秒差で抑えて優勝したもので、オークションに出品されたのは奇跡ともいえる1台です。プロダクションクラスらしく、外観はほぼストックといっていい状態で、TASのロゴマークなどのカラーリングも当時のまま。ちなみに、落札予想金額は約130万円と、ヒストリーやコンディションを考えればバーゲンプライス間違いなし。

画像: リヤフェンダーのゼッケンはマン島TTのレギュレーションによるもので、レストアできちんと再現されています。

リヤフェンダーのゼッケンはマン島TTのレギュレーションによるもので、レストアできちんと再現されています。

レースでのパフォーマンスを振り返ると、全4ラップ(約242km)の過酷なマウンテンコースを、給油ピットインを含めて57分08秒4という驚異的なタイムでクリア。これは平均レース速度: 118.85 mph(約191 km/h)と、1000ccクラスに迫る記録といえるでしょう。もちろん、エンジンも市販状態ながら、レース用マフラーの装備によって後軸出力115馬力ほどに向上しているとのこと(カタログ値の115馬力はクランク軸出力とされています)市販車の最高速は255~260km/hですが、TASのマシンはスリップストリームやレース用ギヤ比(スプロケット調整)の最適化により、GPSやデータロガー上では265〜270km/hに達していたと推測されます。

画像: ボア×ストローク:67.0× 42.5 mmの599cc、いわゆるK2ユニットは115ps/13000rpm、7kgm/10800rpmが公道仕様のスペック。

ボア×ストローク:67.0× 42.5 mmの599cc、いわゆるK2ユニットは115ps/13000rpm、7kgm/10800rpmが公道仕様のスペック。

レースで使用したパーツも入手可能

そのほか、TASのカスタムをあげると、ウィルバース製サスペンション、パワーコマンダー、ヨシムラのギアシャフトサポート、そしてファンをラジエーターの右側に移設するといったところ。出品にあたって、レストアしたファクトリーが確認しています。なお、この際、ホイール、ローター、フロントダンパーが新品に交換され、レースで使用されたパーツも付属品として手に入れることが可能となっています。

画像: ウィルバースのリヤダンパーもイギリスではポピュラーなパーツ。200km/hオーバーのレース用にチューンされています。

ウィルバースのリヤダンパーもイギリスではポピュラーなパーツ。200km/hオーバーのレース用にチューンされています。

ちなみに、TASはその後もスズキとのパートナーシップが続き、2015年までの間にマン島TTをはじめ、ノースウェスト200、アルスターグランプリなどの国際公道レースにおいて50勝以上の勝利を収めています。多くのスズキ・ファンは、2011年にガイ・マーティンが参入して何度も表彰台(2位・3位)に登るものの、あと一歩で優勝を逃してしまうというドラマが印象に残っているのではないでしょうか。手ごろな価格だけに、サーキット用に手に入れて、公道レースに思いをはせるなどというのも夢がふくらみます。

画像: マフラーはおなじみのアクラポビッチで、クランク軸馬力115を後軸出力115への向上に貢献。

マフラーはおなじみのアクラポビッチで、クランク軸馬力115を後軸出力115への向上に貢献。

画像: レースで使用されたホイールですが、タイヤは(スポンサーの)ピレリではなく、レストア過程でブリヂストンに変更されています。

レースで使用されたホイールですが、タイヤは(スポンサーの)ピレリではなく、レストア過程でブリヂストンに変更されています。

画像: ホイールにはラファーの文字が記され、レースで使われたことを物語ります。

ホイールにはラファーの文字が記され、レースで使われたことを物語ります。

画像: PROMACHは知る人ぞ知るイギリスのビレットパーツメーカー。TT向けレーサーの使用率は非常に高いようです。

PROMACHは知る人ぞ知るイギリスのビレットパーツメーカー。TT向けレーサーの使用率は非常に高いようです。

画像: レースで使用したパーツも入手可能

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