文: 石橋 寛/写真: RM Sotherbys
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ノートン・マンクスを打ち破るため
RSというネーミングは、クルマやバイクが好きならグッとくるもの。レン・シュポルト、すなわちレーシング・スポーツというドイツ語で、今ではポルシェの専売特許かのようなイメージながら、実はずっと前からバイクに命名されていました。同じく、ドイツのBMWが作ったRS54は競技専用マシンとして、打倒ノートン・マンクスを企てた実にアグレッシブなバイクでした。

1954年に生まれたBMWレン・シュポルト54は、ワークスマシンを含めて24台のみが作られた幻のようなレーサー。
1950年代のロードレース世界選手権(現在のモトGP)は、ノートン・マンクスをはじめ、群雄割拠する過酷なレースでした。ここに割り込みたかったBMWは、ライバルたちの動向を睨みつつ、世界初のDOHCエンジンを開発。同社は1939年、スーパーチャージャーを搭載したボクサーツインで、マン島TTレースを制覇し、世界最強の座に君臨したこともあったのですが、ロードレース選手権で過給機は禁止されており、それに代わる決め手を探していたのでした。

こちらはワークスマシンではなく、車台番号からプライベーター向けに販売されたものが判明しています。
このDOHCエンジンを語る上で欠かせないのが、「ケーニヒス・ヴェレ(Königswelle = 王様のシャフト)」と呼ばれるベベルギアと縦置きシャフトのメカニズム。これは、通常のバイクのようにチェーンやギアを何枚も噛ませるのではなく、精密なシャフト1本でバルブタイミングを狂わせずに超高回転まで回す航空機由来の技術で、まさに航空機エンジンメーカーだったBMWならではのテクノロジー。シリンダーヘッドから、美しく伸びるクロームメッキのシャフトケースは、まさに「過給機禁止」に対するBMW技術陣の意地とプライドの象徴となったのでした。

ケーニヒス・ヴェレとよばれるベベルギア駆動のカムや、マグネシウム合金を多用するなど、レーサーならではのスペシャルエンジン。
また、開発の過程で、BMWはさらなるパワーを求めてボッシュ製インジェクションのテストを世界に先駆けて行っています。当時の技術では制御に難があり、最終的に市販された24台の多くはキャブレター仕様(デロルト製など)になりましたが、ワークスチームはこのインジェクションが搭載され、当時の2ストロークや4ストロークのライバルたちをパワーで圧倒。この時に培われたインジェクション技術が、後のBMWの四輪・二輪の先進性に繋がっていることは間違いないでしょう。

ワークスはボッシュ製インジェクションを採用したものの、セッティングの難しさから市販車はデロルトのキャブを装備。
車重わずか130kgながら操縦性に難しさ
さらに、BMWの執念ともいえるのがエンジンの軽量化です。ボクサーツインは構造上、どうしても横幅が広く重くなりがち。これをライバルのノートン・マンクスなどに対抗させるため、1g単位の軽量化を敢行しました。戦後復興期にあって、物資の調達が厳しい中、クランクケースやヘッドカバーなどに、マグネシウム合金(エレクトロン)を採用。2気筒でありながら車重は単気筒並みの約130kgに仕上がり、満足いく戦闘力を得ることができたのです。とはいえ、レースでの成績は必ずしも芳しいものではありませんでした。

BMWらしい独特なシルエット。ですが、ついにノートン・マンクスを打ち負かすことはできなかったという悲劇のマシン⁉
これは、短いホイールベース、シャフトドライブ特有のトルク反動(加減速時に車体が起き上がる挙動)、そして縦置きクランクのジャイロ効果が重なり、操縦性に強いクセがあったことが原因だとか。特にエンジンパワーを上げたハイパフォーマン状態では「高速域で非常にコントロールが難しい」とされ、ワークスライダーたちを大いに悩ませたと伝えられています。
もっとも、サイドカーレースにおけるRS54は、文字通り敵なしの怪物となりました。ボクサーエンジンによる「低重心」が強みとなり、アールズ・フォークの強固な剛性も手伝ってサイドカーの構造には完璧にマッチ。RS54のエンジンをベースにしたマシンは、世界ロードレース選手権のサイドカークラスで19回もの世界タイトルを獲得し、約20年間にわたり世界を支配し続けるという快挙を成し遂げています。なお、RS54で熟成された「アールズ・フォーク」と「リア・スイングアーム」の組み合わせは、優れた剛性と乗り心地から、その後のBMWの伝説的な市販ロードバイク(R50、R60、R69Sなど)へとそのまま受け継がれ、1950〜60年代のBMWの黄金期を支える基盤となりました。

剛性に長けたアールズ・フォークは、この後でR69Sなどに継承されて60年代のBMW黄金期を築く礎になっています。
ワークスレーサーとして誕生したRS54はその希少性はもとより、同時代の根強いレーサー人気と相まって、オークションに出品されることは滅多にありませんでした。ご紹介しているプライベーター向けサンプルもレース歴こそ詳らかにされていないものの、およそ14万ユーロ(約2500万円)という高額で落札されています。ちなみに、国内でも福島県のアンナガーデン内にある展示スペースにてRS54の実車を見ることができます。レーサーならではのオーラを纏った姿を、ぜひその目で確かめてみてはいかがでしょうか。

この時代のレーサーらしいネイティブな姿。約2500万円という高額で落札されています。

この時代のレーサーらしいネイティブな姿。約2500万円という高額で落札されています。

ポルシェがRSを名付けたのは1957年の718RSKが最初なので、BMWは3年早くレン・シュポルトを名乗ったことになります。
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