写真:Royal Enfield まとめ:松本正雅
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1932年に誕生。初代ブリットは250・350・500ccの3本立て

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500 BULLET(1932)
ロイヤルエンフィールドが最初のモーターサイクルを製作したのは1901年。一方、ブリットというモデルが誕生したのは1932年のこと。ロイヤルエンフィールドはブリットを「世界で最も長く生産され続けているモーターサイクル」として紹介している。
初代には250・350・500ccの3種類が用意された。エンジンを前傾させた「スローパー」レイアウト、ツインポートのシリンダーヘッド、足で操作する変速機構、高圧縮ピストンを採用。500にはスポーティな4バルブヘッドが使われた。そのクラシカルな外観から想像する以上に、誕生当時のブリットには高性能を追求する最新鋭の装備が盛り込まれていたのである。

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500 BULLET(1936)
この時代から、同じ名前のもとで機構の変更も行なわれている。1936年のJF 500ブリットは、直立したエンジンと4バルブヘッドを採用している。ブリットは、誕生時の設計をそのまま固定して生産してきた車両ではなく、長い歴史の中で技術的な改良を重ねてきたシリーズなのである。
戦後の大転換はリアサスペンション。競技で実力を示した350
ブリットの歴史を語るうえで欠かせないのが、未舗装路を舞台にしたトライアル競技である。メーカーの公式資料によれば、1935年のインターナショナル・シックスデイズ・トライアル(ISDT)では、ロイヤルエンフィールドのチームが英国のモーターサイクルチームとして唯一、減点なしの成績を残した。
戦後の1948年には、新しい350ccブリットのプロトタイプがコルモアカップ・トライアルに登場する。大きな特徴は、油圧ダンパーを備えたスイングアーム式リアサスペンションだった。翌1949年には、新型350ccブリットが英国で発売され、テレスコピック式フロントフォークとスイングアーム式リアサスペンションを組み合わせた車体が市販モデルへとつながった。

1952年、スコティッシュ・シックスデイズ・トライアルでのジョニー・ブリテイン選手
その実績を象徴するライダーが、ジョニー・ブリテインである。彼は350ccブリットで、1952年と1957年のスコティッシュ・シックスデイズ・トライアルを制した。登録番号「HNP 331」のマシンは、ブリットの競技史を代表する1台として公式資料でも紹介されている。
長い年月を経た現在の姿だけでなく、厳しい路面を走る競技車としての系譜も、ブリットが持つ歴史の一部である。
1953年には戦後型500が登場。英国で磨かれた大排気量単気筒
戦後に再構築されたブリットは、当初350ccだけの展開だった。1953年には500ccの「JS 500」が加わり、大排気量単気筒のラインアップが復活する。
この500は、クランクケース後部にオイルを保持し、ギアボックスをその後方へ直接取り付けるセミユニット構造を採用した。アルミニウム製シリンダーヘッドも特徴で、メーカーは大排気量単気筒への採用について、軽量化と冷却面での利点を説明している。公称最高出力は25bhp。350と同様にスイングアーム式リアサスペンションを備えた。
1959年には、さらに性能を高めた500が登場。大きなシリンダーヘッドから「ビッグヘッド・ブリット」と呼ばれ、高リフトカム、大径吸気バルブ、圧縮比7.3:1のピストンなどによって、最高出力は27bhpとなった。
高性能仕様のエンジンを搭載する「Fury」も米国へ輸出された。英国製大排気量単気筒の歩みには、ツーリング用途だけでなく、競技を意識した仕様も含まれている。このレディッチ製ビッグシングルの生産は1962年まで続いた。
インド軍への納入から現地生産へ。1955年にエンフィールド・インディア設立

英国で発展していたブリットに、もうひとつの大きな転機が生まれた。インドへの輸入と、軍向けの供給である。
1949年、英国車をインドへ輸入するマドラス・モータースが設立された。1952年には、カシミールやラジャスタンの国境地帯で使用する350ccブリットをインド軍が発注。公式の歴史紹介では、過酷な地形への適応性に加え、頑丈さと整備のしやすさが評価され、その後も大口の注文が続いたとされている。

1956年、カシミール地方でのインド陸軍のパトロール風景(350 BULLET)
こうした需要の拡大に対応するため、1955年、英国のロイヤルエンフィールドはマドラス・モータースと提携し「エンフィールド・インディア」を設立。マドラス、現在のチェンナイ近郊のティルボッティユールに専用工場が建設された。
工場は1956年に稼働し、ライセンス契約に基づいてブリットの生産を開始。初期は英国から送られたCKDキットを組み立てる方式だったが、その後、部品の製造も段階的にインドへ移された。会社の設立、工場の稼働、部品の現地製造と、それぞれ順を追って進められたのである。
この現地生産が、英国で生まれたモデルの歴史をインドで引き継ぐ基盤となった。
1977年、インド製350が英国へ。世界へ広がるブリット

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350 BULLET(1986)
1977年には、インドで生産された350ccブリットの英国および欧州への輸出が始まった。英国からインドへ渡ったモデルが、インド製のモーターサイクルとして英国市場へ戻ることになったのである。

1989年、工場から出荷され輸出を待つ500ブリット
1990年に公開された公式年表には、輸出市場を主な対象とする新しい500ccブリットの発売が記されている。クラシック、デラックス、スーパースターという仕様が用意され、350とともに海外での展開を支えた。
ブリットの車体は、異なる動力を持つ車両にも使われた。1993年には、標準的なブリットの車体に325cc、6hpのディーゼルエンジンを搭載した「エンフィールド・ディーゼル」も登場。農業分野の需要に対応する、積載用途を重視した「Taurus」も続いた。
1994年には、商用車やトラクターを手掛けるアイシャー・グループがエンフィールド・インディアを買収し、会社名をロイヤルエンフィールド・モーターズへと変更。英国生まれのブランドを、インドの企業が担う体制へと移行していく。
鋳鉄系エンジンからリーンバーン、そしてUCEへ
長く続くブリットの歴史は、エンジンの歴史でもある。従来の鋳鉄製シリンダーを持つ単気筒から、アルミニウムを用いたリーンバーン系、そしてUCEへと、エンジン自体も世代が移り変わっていく。

1999年、リーンバーンエンジンを搭載したブリット350
リーンバーン系エンジンの開発には、オーストリアのAVLが関わった。500ccの輸出モデル「エレクトラX」は、アルミ合金製ヘッドとシリンダー、改良された潤滑系、電子点火などを採用し、5速ギアボックスを組み合わせた。
続いて登場したのが、Unit Construction Engineの頭文字を取った「UCE」である。エンジンとギアボックスを一体化した構成を持ち、従来の英国式OHV単気筒の特徴を受け継ぎながら、当時の排出ガス規制に対応する新しい設計が採用された。
ちなみに、UCEという機構がロイヤルエンフィールド全体で登場した時期と、ブリットのUCE採用の時期には少しずれがある。公式年表では2008年にサンダーバード・ツインスパークへの新UCE搭載を記録しているが、2023年のブリット350発表資料では、2010年がブリットのUCE化による転換点として挙げられている。新技術は各モデルへ展開され、ブリットも世代交代を迎えたのである。
2019年の「ブリット・トライアルズ」は競技の歴史を形にしたモデル

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500 BULLET TRIALS WORKS REPLICA
ブリットの伝統を具体的な車両として表現したのが、2019年3月に発表された「Bullet Trials Works Replica」である。350と500が用意され、ジョニー・ブリテインや、かつてのファクトリーライダーたちへの敬意が込められた。
ブロックパターンのタイヤ、クロスブレース付きハンドルバー、上方へ伸びるサイレンサー、短くまとめたフェンダーを採用。シングルシートの後方には荷台を備え、デュアルチャンネルABSも搭載した。競技車の歴史を意識した外観と、当時の現代的な装備を組み合わせたモデルだった。
一方、UCE 500系エンジンは、2020年にインドで生産終了を記念する「クラシック500トリビュートブラック」が発表されている。これはクラシックの特別仕様車でブリットの限定車ではないが、ブリットにも用いられた500cc UCE単気筒の世代が転換期を迎えたことを示す出来事である。
2023年、新世代のブリット350誕生。伝統の外観にSOHCエンジンを搭載

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BULLET 350(2023)
2023年には、Jシリーズのプラットフォームを採用した新型ブリット350が登場した。メテオ350、クラシック350、ハンター350にも使われる、349cc空油冷単気筒エンジンを搭載する。
燃料供給はフューエルインジェクションで、最高出力は20.2PS/6100rpm、最大トルクは27N・m/4000rpm。プライマリーバランサーシャフトと5速ギアボックスを備える。動弁方式はSOHCで、従来のOHV系単気筒から機構を刷新した。
車体にはツインダウンチューブ・クレードルフレームを採用。日本向け公式ページでは、フロント300mm、リア270mmのディスクブレーキとデュアルチャンネルABS、アナログとデジタルを組み合わせたメーター、USB充電ポートが紹介されている。クラシカルな姿の中に、現代の装備が組み込まれた。
その外観を特徴づけるのが、ヘッドライトと計器をまとめたキャスケット、そして左右の小さな「タイガーランプ」である。公式の歴史解説によれば、この組み合わせの採用は1954年にさかのぼる。当初は500ccブリットなどに使われ、その後、他のモデルにも広がった。
エンジンや車体を改めながら、長く親しまれた顔立ちを受け継ぐ。新しいブリット350にも、そんなシリーズの歩みが表れている。日本では2024年3月に発売開始が案内された。
650ツインという新章。2025年、EICMAでブリット650登場

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BULLET 650
写真:南 孝幸
ブリットの展開は、350cc単気筒だけにとどまらない。2025年のEICMAでは、新たに「ブリット650」が発表された。長く続くモデル名のもとに、並列2気筒エンジンを採用する新しい選択肢が加わったのである。

並列2気筒エンジンに6速ギアボックスとスリッパークラッチを組み合わせた豪華な構成。手描きのゴールドピンストライプ、ウイングを意匠に取り入れた立体的なバッジ、ベンチシートを思わせる一体型シートなど、上質さとブリット本来の魅力も継承されている。キャスケットとタイガーアイランプも受け継ぎ、ライトにはLEDを採用した。

さらに、左右のクローム仕上げのピーシューター型マフラー、アナログの雰囲気を残すメーターパネル、調整式レバーやUSBポートなどを装備する。350とは異なるエンジン構成を持ちながら、シリーズとして共通する意匠を盛り込んでいる。
1932年の初代、戦後のスイングアーム式リアサスペンション、インドでの生産、UCE化、Jシリーズの350、そして650ツイン。ブリットの歴史には、常に最高の技術を取り入れ、たゆまぬ改良を受けながら連綿と受け継がれてきた、いくつもの節目がある。
そして、それは今も、90年以上続く名前のもとに、新世代のモーターサイクルとして続いているのである。
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