女性ライダーに圧倒的人気を誇る厚底ブーツをはじめ、いまや老若男女に支持されるライディングブーツブランドとして知られている『WILD WING』。元レーサーとしての経験と、靴メーカーとして長年のノウハウから生まれる靴づくりについて、藤林社長に聞いた。
文:齋藤春子 写真:松川 忍

レースに夢中だった経験が靴づくりにも役立つことに

──では逆に、靴づくりを学ぶときに苦労したことなどはありましたか?

「靴づくりは洋服づくりと同じと思われがちですけども、実際は型物(かたもの:型でつくるもの)で立体成形なんですね。しかも各サイズが大体5ミリピッチで変化していくので、一筋縄ではいかない難しさがありました。さらに材料も、本革があれば合成皮革もあり、布物があったり、メッシュ地のものがあったりと様々ですし、靴底ひとつとっても、ゴムのもの、EVA、発泡ラバー、再生PVCといろんな素材があるんですね。でもその組み合わせを考えて作るとなった時、レースで培った研究心や追求心がすごく生きたんです」

「一般的な靴メーカーの開発現場だと、何か新しいことをやりたいと思っても『それはミニマム(=最小ロット)だから無理だね』などいろんな理由で、実現しないことも多いんです。でも僕は『なんでできないの?』と思ってしまう性格で(笑)。レースのマシンづくりは終わらない試行錯誤の連続ですが、諦めることはあり得ない。だから仕事もやりたいことは諦めず、どうすれば実現できるかを考えることが癖になっていたし、その考え方が靴づくりにとても合っていたんです」

──ウィングローブを設立した当初から、現在のようなライディングブーツを作っていたのでしょうか。

「最初の頃は、ファッション系の靴をメインに手掛けていました。僕、メーカーさんやブランドの意向を汲んだOEM生産が得意なんですよ。それこそ独立前は、パンプスづくりがめちゃくちゃ得意でした。探究心が高じて、研究のために自分サイズのパンプスを作って実際に履いたりしてね(笑)」

──そこからバイク用ブーツの自社ブランドを立ち上げることになった、きっかけについて教えてください。

「僕はトレンドを追った靴づくりも得意だったので、起業した時も、そうした商品の開発やOEM生産が多かったんです。ですが、人間は歳を取ります。トレンドを追う仕事は開発する量がかなり多いですし、トレンドを追い続けるために、かなりの時間や体力を注ぎ込まなくてはなりません。そのエネルギーがいつまで持つのか、という危惧がきっかけのひとつですね」

「それに僕自身がそうだったからわかるのですが、いつか重ねた年齢や容姿が理由で、バイヤーとか販売員のような、センスが良くて若いファッション業界の人達に、自分の提案が刺さらなくなる日がやって来る。その前に、違うジャンルの仕事を増やしたかったのもあります。それに昔のバイク仲間から『起業したなら、バイクブーツを作ってくれよ』とかなり言われていたんですよ」

操作性を妨げない厚底ブーツ

「足つきの不安が軽くなる」と低身長ライダーから圧倒的な支持を集めるWILD WINGの超厚底ブーツ。よく「操作に支障があるのでは?」と質問が寄せられるが、厚いのはバイクに跨ったときに自身と車重を支えるつま先部分とヒール部のみ。

画像10: 〈インタビュー〉『WILD WING』ウィングローブ代表取締役・藤林勝士さんに聞く【ブランドの歴史】

実際の操作で重要な、ステップに当たる部分は一般的なスニーカーとほぼ変わらない厚みで、チェンジペダルの下につま先をくぐらせる動作にさえ慣れれば、快適な操作感が得られるという。

画像11: 〈インタビュー〉『WILD WING』ウィングローブ代表取締役・藤林勝士さんに聞く【ブランドの歴史】

試行錯誤と探究心が実現した「乗りやすいブーツ」の追求

──バイクブーツを開発すると決めて、具体的には何から始めたのでしょうか。

「じつはその頃、僕はバイクからちょっと離れていた時期なのですが、まずバイク用品店を視察に行ったんです。というのも、これはどこかを貶す意図はないのですが、基本的にどんなに有名で人気があるウエアメーカーやブランドでも、靴だけは製造を外部に完全委託するんですね」

「でも例えば国内の靴メーカーに委託したとして、そのメーカーがバイクを理解してるとは限りませんから、バイク用のデザインや機能の意図が完全に伝わらないことも多い。だから見た目はバイク用でも、実際は一般向けと変わらないブーツも多くて、僕のレース仲間のような、極端に機能や履き心地にうるさい人間たちが『市販ブーツは乗りづらい』と騒ぐのは、そういうことかと納得しました」

──藤林さんの性格的に、WILD WINGのライディングブーツが完成するまでは、数え切れないほどの試行錯誤の連続だったのではと推察しますが…。

「立体で成形する靴には、多様な素材を組み合わせる難しさがあるに加え、例えば、1日1万歩歩く人の靴は1日1万回屈曲するので、その耐久性や強度も確保しなくてはいけないんですね。素材メーカーの皆さんも、革の工場の皆さんも、これまでの実績の範囲で落ち着こうとしがちになります。日本人の足に合う、これまでにないバイク用ブーツを作ろうとしても、『前例がない』と断られてしまうんです」

「でも僕は当然、諦めるわけがない(笑)。同じ素材でも組み合わせ次第で新しいことができるんじゃないかとか、ソールを貼り付ける糊の新しい配合を試してみようとか、どうすれば〝乗りやすいブーツ〟が実現できるかばかりを考えていました。もちろん、新しいことへのチャレンジには失敗もありますから、試してみたら底が剝がれやすくなった、などのリスクも生じます」

「それが1万足作る商品なら、試作品のはく離強度試験に出したり、耐屈曲性テストをしたりと、メーカーも新しい挑戦に積極的になりますが、ミニマムの製品だと採算に合わないので、取り合ってもらえない。『だったら、検査費用や新しく木型を起こす経費とか、生産前に生じるお金を前金で今すぐ払いますよ』と言ったら、『そこまで言うなら作りますよ』と、いきなり話が進んだこともありました(笑)。そうやって、何をしたら理想のブーツが実現できるのか考え、一歩一歩進んでいったんです。」

──バイクのステップにフィットする専用設計のヒール形状や、特許取得のライディングソールなど、WILD WINGの特徴の数々は、多くのコストと時間をかけて実現されたものなのですね。

「自分自身もこだわりの多い人間ですので、良い靴とは何かをとことん考えました。安全性を高めるために素材は牛革を使うことも、絶対に外せない条件でしたね。300km/hを超える速度で走る現代のレーシングライダー達も、ずっと変わらず牛革のレーシングスーツを着る理由は、アスファルトとの摩擦でも破れない引き裂き強度を持ち、耐久性や耐熱性にも優れた素材で、牛革を越えるものないからです。もちろん革靴には動きにくさとか、重さ、硬さ、慣らしに時間かかるといったデメリットもあります」

「ですが合皮などの化繊は摩擦に弱く、ごく低速での転倒でも一瞬で穴が開いてしまう。うちは安全性を担保する意味でも、牛革を使い、くるぶしを覆うブーツしか作りません。革の強度や耐久性、履きやすさなど、求めるものが非常に多いので、皮をなめすタンナーと一緒に、革も自社開発しています」

「どうすればもっと柔らかい革を作れるのか、しつこいほど研究しましたし、その結果、これ以上オイルを入れたら、革の表面に白い斑点として浮き出てしまう限界ギリギリの量まで、たっぷりとオイルを浸透させています。また〝バタ振り〟という、できあがった革をバタバタと振ることで、繊維が崩れて革が柔らかくなる、昔ながらの作業も欠かせません。安全性や強度を高めるには厚みも必要なので、そこも研究を重ね、現在使用する革の厚みは1.8mmあります」

バイクと靴に真剣に向き合い喜んでもらえるブーツをつくる

──あらゆる面で妥協せず、工夫と改良を重ねる姿勢が、WILD WINGのライディングブーツが選ばれる理由なのだと、理解できました。ただ、失礼な言い方かもしれませんが、そんなにまでクオリティを追求しているのに、価格が安すぎませんか?

「それね、本当にお客さんにすごく言われるんですよ(笑)。でも僕は、ライダーにはスニーカー的なラクな履きやすさよりも、できれば革製ブーツで安全性を優先してもらいたいなと思うので、できる限り価格は抑えたい。それに正直言うと、ちゃんと利益は出ているんですよ。革も足形も底型もすべて自社開発ですし、企画から製造まで全部自社。革やソールの工場とも直接やり取りで、中間業者は入りません。その結果としての低価格なのですが、値段が安すぎて逆に不安だと直接言われたこともあって、価格については自分でも迷っていますね」

──利益の追求よりユーザーの喜びを優先できるのは、ウィングローブさんが現在も、OEM生産などを手がける靴メーカーであることも大きいのでしょうか。

「そうですね。現在のOEMとWILD WINGの生産量は約半々で、OEMもしっかり利益が出ています。そもそもWILD WINGを立ち上げたのは、会社が軌道にも乗ったし、僕の人間性や突破力を培ってくれたバイクのレースや、バイク業界に恩返しがしたかったんですよ。ブランドの立ち上げを相談した人達からは『大変だと思うよ』『やめた方がいい』とみんなに言われましたけど、僕には不思議と自信がありました。時間はかかるかもしれないけど、靴メーカーとしての長年のノウハウをベースに、バイクが大好きな人間が作るブーツに気づく人は絶対にいるはず」

「実際、うちの靴はリピーターがすごく多いんです。人それぞれ足の形が違えば、バイクの乗り方もいろいろです。だけど『これを履いておけば大丈夫ですよ』と胸を張っておすすめできる商品を作るという信念は、立ち上げから変わらないWILD WINGの靴づくりの大きな1本の柱です。うちの細かなこだわりのすべては、お客さんに伝わらないかもしれないけど、心から真剣に靴とバイクと向き合っている人間が作る靴を履きたい人は多いでしょうし、僕自身もそういう靴を履きたいですからね」

専用の革から足形、底型まですべて自社開発品

台東区千束の本社はショールームも兼ねており、実際に履いて確かめたいというライダー向けにサイズ合わせも兼ねた試着&在庫品の購入が可能。在庫状況は日々変化するため、事前に来店日と希望の商品の連絡を。

画像12: 〈インタビュー〉『WILD WING』ウィングローブ代表取締役・藤林勝士さんに聞く【ブランドの歴史】

ミドル丈のエンジニアブーツ「イーグル」(1万6390円)はWILD WINGブーツのファーストモデル。「もっと気軽にエンジニアを履きたい」という声に応えた超ショート丈の「ピジョン」(1万4960円)は現時点の最新モデル。

画像13: 〈インタビュー〉『WILD WING』ウィングローブ代表取締役・藤林勝士さんに聞く【ブランドの歴史】

履きやすさを追求するために、バイクブーツ専用の木型を開発。じつはライディングシューズはヨーロッパのサイズ規格に合わせたものが多いそうだが、WILD WINGでは日本人の足に合わせた甲高幅広の木型を採用している。

画像14: 〈インタビュー〉『WILD WING』ウィングローブ代表取締役・藤林勝士さんに聞く【ブランドの歴史】

『WILD WING』ウィングローブ代表取締役・藤林勝士さん 写真

文:齋藤春子/写真:松川 忍

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