ホンダを代表するオートバイの1台、当時登場したレーサーレプリカの中でも代表格としても挙げられるホンダ NSR250R。その性能は他を凌駕するものがあり、当時はもちろん、今もなお多くのファンを持つ。ここではエンジンなどが新設計となって登場したMC21型を紹介。1992年までのカタログも掲載する。
文:太田安治、オートバイ編集部/写真:赤松 孝、松川 忍、南 孝幸/協力:Bikers Station、H&L PLANNING
▶▶▶写真はこちら|ホンダ「NSR250R」(MC21)(18枚)

ホンダ「NSR250R」(MC21・1990年)特徴

画像: Honda NSR250R(MC21) 1990年 総排気量:249cc エンジン形式:水冷2スト・クランクケースリードバルブV型2気筒 総排気量 249㏄ シート高:770mm 車両重量:151kg 当時価格:60万9000円

Honda
NSR250R(MC21)
1990年

総排気量:249cc
エンジン形式:水冷2スト・クランクケースリードバルブV型2気筒
総排気量 249㏄
シート高:770mm
車両重量:151kg

当時価格:60万9000円

より扱いやすいエンジン、車体構成で誰もが楽しめるレーサーレプリカ

MC18の型式ながら、五角断面スイングアームや新型ロングチャンバー、前後ラジアルタイヤなどを採用し、エンジン制御も点火時期、空燃比、RCバルブ作動、オイル吐出量を総合的にコントロールするPGM-IIに進化した1989年モデルを経て、1990年2月にフルモデルチェンジして登場したのがMC21型。

エンジンはシリンダーやシリンダーヘッド、クランクケース、クランクシャフトといった主要パーツが新設計され、エンジン制御系も、これまでのエンジン回転数とスロットル開度に、新たにギアポジションを検知項目に加えたPGM-IIIへと進化し、点火時期、空燃比補正、RCバルブ作動、オイル吐出量をさらにきめ細かくコントロール。

その結果、8000〜1万1750回転まで、実に3250回転に渡って最高出力の45PSをキープする「台形パワー」を実現。車体関係も全長×全幅×全高はそれぞれ1975×655×1060mmで、MC18後期型に対し5mm短く、5mm広く、ホイールベースはマイナス5mmの1340mm、シート高は10mm低い770mm、乾燥重量は1kg増の132kgとなった。リアホイールも18→17インチに小径化されたことで、見た目もコンパクトとなった。

それまでのNSRは、他の追随を許さないポテンシャルを備えていることに疑いの余地はなかったが、すべての人がそれを引き出し、楽しむとなると、必ずしも簡単なモデルではなかった。このMC21ではその点で大きな進歩を遂げたのが特徴で、硬質なフィーリングが薄れてタイヤの接地感がつかみやすくなり、マシンコントロールの幅が広がってポテンシャルが引き出しやすくなった。

一方、ライバルのTZR250は1989年2月に後方排気にフルモデルチェンジ。スズキも1988年3月にVツインエンジンのRGV250Γを投入し、1990年1月にフルモデルチェンジを行うが、大きく先行するNSRの牙城を崩すことはできず、サーキットではNSRの寡占状態が続くことになった。

画像1: ホンダ「NSR250R」(MC21・1990年)を解説! 2ストで初めて鈴鹿4耐を制覇|上級グレード・SEや当時の製品カタログも掲載
画像2: ホンダ「NSR250R」(MC21・1990年)を解説! 2ストで初めて鈴鹿4耐を制覇|上級グレード・SEや当時の製品カタログも掲載

新設計の「ガルアーム」にフレームも左右の断面形状を変更

三代目となるMC21の車体のきな特徴がスイングアームだ。スイングアームの支持軸が貫通する部分を鋳造の大きなブロックとし、両脇に押し出し材によるレールをつなぐ。チェーン側は従来同様にピボットとリアアクスルを直線的に結ぶが、上側に角パイプを使ったサブフレームを追加。

ブレーキ側のアームは一度上方に向かってから下方へと向かう湾曲したラインを採ってリアホイール支持軸につながる。その形状がカモメ(gull)の翼に似ていることからガルアーム(gull arm)として商標登録された。

エンジン真下の排気チャンバーやテールパイプとの干渉が避けられ、排気系を内側に追い込んでバンク角を増大、空力特性を高めるなどの利点がある。チェーン調整部の構造はMC18と同じだが、鋳造の軸受け部は高さを増した。プレートがゴールドのドライブチェーンを継続する。左右ステップは先代同様にステップバーとペダルを同軸に固定するが、ヒールプレートが大きく変化している。

フレームは100×25mmの変則五角目の字断面材製アルミツインスパーを継承し、フロントフォークはカートリッジ式を採用。前後ブレーキはともにキャリパー形式やディスク径に変更はないが、リアキャリパーサポートはMC18後期型で採用したフローティングマウントとそれに併用されるトルクロッドは廃止し、サポートをスイングアームで直接固定する構造に変化。ホイールは3.00-17/4.50-17サイズとなり、ここで前後17インチ化された。

車体まわりは、ヘッドライトは薄型幅広の異型角型二灯となりシートカウル形状も変更。90年4月にはSPモデルが発売され、乾式クラッチ、マグネシウムホイール、フロントフォークプリロードと伸び側減衰の調整機構を採用。カウルの右下には乾式クラッチの冷却用にダクトを追加した。

1991年5月にはSE(スーパーエディション)モデルも登場。SPモデルが乾式クラッチ、減衰の調整が可能な前後サス、マグテックホイールの装備に対し、SEは乾式クラッチ、減衰の調整が可能な前後サスに、STDと同じアルミホイールを採用する仕様となっていた。同モデルはSTD、SP、SEの3タイプがあり、カラーも12色とシリーズ中、最多数を展開した。

ホンダ「NSR250R」(MC21・1990年)各部装備・ディテール解説

▶エンジン

画像1: ホンダ「NSR250R」(MC21・1990年)各部装備・ディテール解説

レースノウハウのフィードバックに耐久性向上という要素も追加

水冷90度V型2気筒エンジンは、ボア×ストローク:Φ54×54.5mmは不変だが圧縮比を7.3→7.4:1とわずかに高めている。最高出力は45PS/9500rpmを維持するが、最大トルクは3.8→3.7kgf・mとわずかに減り、発生回転数は500rpm高い8500rpmに改められた。

画像2: ホンダ「NSR250R」(MC21・1990年)各部装備・ディテール解説

クランクピンはMC18後期のΦ25mmを継続しクランクケースの吸入経路を拡大、シリンダーのポートタイミングをレーサーと共通化。またキャブレターを小型軽量化、新作されたシリンダーもMC18に対しMC21では断面形状が六角形から円形に変化。

耐久レースへの参戦にも対応できるようにウォータージャケットの容量を1.3倍に増やしており、スタッドボルト径をM7からM8に太くして締結剛性を高めている。

プラグホールをヘッド中央へと移動。改良した燃焼室形状と相まって良好な燃焼効率を得た。ミッション各ギアで最適な点火タイミングを得るためにPGMシステムにギアポジションセンサーを追加するなどの変更も行われた。

画像3: ホンダ「NSR250R」(MC21・1990年)各部装備・ディテール解説

▶フレーム

画像4: ホンダ「NSR250R」(MC21・1990年)各部装備・ディテール解説

改モデルの外観上の大きな特徴が左右非対称のガルアーム。フレームはヘッドパイプとスイングアームピボットプレートを直線的に結ぶMC18から基本を踏襲するが、ヘッドパイプはエンジン側に7mm接近、11.3mm下方に移動されており、フロントエンドを車体重心に接近させて運動性能の向上を図っている。

スイングアームは断面を変則五角形から長方形に変え、左側にサブフレームを追加。右側は排気系との干渉を避けるべく湾曲させた左右非対称のデザインとなった。

ピボットプレートは上部の形状が変わり、リアショック上端部を受けるプレートは大型化されている。シートレールはメインフレーム後部に片側二本のボルトで固定する構造は同じだが、上側を丸パイプ、下側を角パイプに変更(先代は上下とも丸パイプ)。

画像: 車体関連の寸法をMC18後期型と比較した図で、23°15のキャスターや87mmのトレールは変わらないが、ヘッドパイプの位置がエンジン側に7mm接近、11.3mm下方に移動されフロントアクスルは車体重心に10.8mm接近した。一方、重心からリアアクスルまでは5.8mm伸びており、ホイールベースが1345mmから1340mmに減少したのは、フロントエンドをエンジン側へ寄せた結果と言える。

車体関連の寸法をMC18後期型と比較した図で、23°15のキャスターや87mmのトレールは変わらないが、ヘッドパイプの位置がエンジン側に7mm接近、11.3mm下方に移動されフロントアクスルは車体重心に10.8mm接近した。一方、重心からリアアクスルまでは5.8mm伸びており、ホイールベースが1345mmから1340mmに減少したのは、フロントエンドをエンジン側へ寄せた結果と言える。

画像: フレームメイン部材では同じ変則5角形で内部に二本のリブを持つ目の字断面材だが、幅を40→25mmに減らし高さを80→100mmに増し、横と縦の両方向の剛性をMC18同等としながら、ねじれ剛性を20%向上した。下はスイングアームのメイン部材で、変則五角から長方形に戻される。幅は40mmを維持するが高さを80→90mmに増し、横方向の剛性を10%減少させつつねじれ剛性を10%高めた。

フレームメイン部材では同じ変則5角形で内部に二本のリブを持つ目の字断面材だが、幅を40→25mmに減らし高さを80→100mmに増し、横と縦の両方向の剛性をMC18同等としながら、ねじれ剛性を20%向上した。下はスイングアームのメイン部材で、変則五角から長方形に戻される。幅は40mmを維持するが高さを80→90mmに増し、横方向の剛性を10%減少させつつねじれ剛性を10%高めた。


▶そのほか注目のポイント

画像: 「誰にでも引き出せる高性能」を主眼に、シリンダーやクランクシャフトといった個々の部品から、コンピュータ制御システムまで全面を刷新したエンジン。2ストロークエンジンとしては革新的な「台形パワー」を実現した。

「誰にでも引き出せる高性能」を主眼に、シリンダーやクランクシャフトといった個々の部品から、コンピュータ制御システムまで全面を刷新したエンジン。2ストロークエンジンとしては革新的な「台形パワー」を実現した。

画像: インナーチューブ径Φ41のフロントフォークは、伸び側、圧側のダンパー機構が独立したカートリッジタイプを新採用。ダブルディスク+異径対向4ピストンキャリバーのブレーキシステムに変更は無い。

インナーチューブ径Φ41のフロントフォークは、伸び側、圧側のダンパー機構が独立したカートリッジタイプを新採用。ダブルディスク+異径対向4ピストンキャリバーのブレーキシステムに変更は無い。

画像: ガルアームは、必要な剛性を確保しつつ、スペース的にシビアなフロントパンク側チャンパーの設計自由度を確保するために採用。その結果生まれた楕円断面チャンバーは、幅広いパワーバンドを実現。

ガルアームは、必要な剛性を確保しつつ、スペース的にシビアなフロントパンク側チャンパーの設計自由度を確保するために採用。その結果生まれた楕円断面チャンバーは、幅広いパワーバンドを実現。

画像: チャンパーを逃げる必要のないスイングアーム左側は、ストレートアーム+スタビライザーのトラス構造となっている。サイレンサーもレーシングテクノロジーをフィードバックした、パイプステー支持の新型。

チャンパーを逃げる必要のないスイングアーム左側は、ストレートアーム+スタビライザーのトラス構造となっている。サイレンサーもレーシングテクノロジーをフィードバックした、パイプステー支持の新型。

画像: 荷掛フック兼用のタンデムステップはカウルの側面内側に格納されている。レパーを押し込んでユニットを引き下げると荷掛フックになり、タンデム時はその状態からステップパーを外側に倒して使用。

荷掛フック兼用のタンデムステップはカウルの側面内側に格納されている。レパーを押し込んでユニットを引き下げると荷掛フックになり、タンデム時はその状態からステップパーを外側に倒して使用。

画像: 丸形2灯の基本デサインを受け継ぎつつ、上端の跳ね上げを強めたアグレッシブなデザインとなったテールカウル。タンデムシート下の小物入れへは、テールカウル前面のパネルを外してアクセスする方式。

丸形2灯の基本デサインを受け継ぎつつ、上端の跳ね上げを強めたアグレッシブなデザインとなったテールカウル。タンデムシート下の小物入れへは、テールカウル前面のパネルを外してアクセスする方式。

ホンダ「NSR250R」(MC21・1990年)主なスペック・販売当時価格

全長×全幅×全高1975×655×1060mm
ホイールベース1340mm
最低地上高135mm
シート高770mm
車両重量151kg
エンジン形式水冷2ストローク ケースリードバルブ90度V型2気筒
総排気量249.6cc
ボア×ストローク54.0×54.5mm
圧縮比7.4
最高出力45PS/9500rpm
最大トルク3.7kgf・m/8500rpm
燃料タンク容量16L
変速機形式6速リターン
キャスター角23°15′
トレール量87mm
ブレーキ形式(前・後)ダブルディスク・シングルディスク
タイヤサイズ(前・後)110/70-17・150/60-R18
乗車定員2名
販売当時価格(1989年)60万9000円

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