2025年4月19日、21日にスイスで開催された世界モトクロス選手権で、今年からファクトリー参戦中のドゥカティが記念すべき初表彰台を獲得しました。今年から市販バージョンもデビューするデスモ450 MXですが、世界各国のコースで活躍するかどうか・・・楽しみです。
文:宮﨑健太郎(ロレンス編集部)
※この記事はウェブサイト「ロレンス」で2025年4月30日に公開されたものを一部編集し転載しています。

初の表彰台をもたらしたのは、スイス人のJ.シーワーでした

フラウエンフェルト サーキットで開催された今年度第6戦のスイスGPには、アレッサンドロ ルピノとジェレミー シーワーの両名がデスモ450 MXで参戦しました。同サーキットから約30km離れたビューラッハ出身のシーワーにとって、地元のGPには気合が入ったようです。

レース1はシーワーが7位でルピノが19位。レース2でシーワーは序盤8位まで順位を落とすものの、リズムを取り戻して順調に順位を回復。地元の歓声に後押しされたか、最終ラップには表彰台圏内の3位まで浮上しそのままゴール!! スポット参戦のルピノは、残念ながらスタート時のクラッシュに巻き込まれる不運もあり15位に終わりましたが、総合3位となったシーワーはドゥカティの歴史で初めての、モトクロスGPの表彰台をもたらしました。

画像: スイスGPにて、デスモ450 MXを駆るJ.シーワー。 www.ducati.com

スイスGPにて、デスモ450 MXを駆るJ.シーワー。

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画像: 30歳のJ.シーワーは、ヤマハ、カワサキのファクトリーライダーとして活躍し、最高峰モトクロスGPで通算8勝を記録。タイトル獲得はないものの、2019、2020、2022年と3度ランキング2位を獲得した実力者です。2025年からはGPフル参戦を開始したドゥカティファクトリーに加入。現在のランキングは9位ですが、ここからの巻き返しを期待したいですね。 www.ducati.com

30歳のJ.シーワーは、ヤマハ、カワサキのファクトリーライダーとして活躍し、最高峰モトクロスGPで通算8勝を記録。タイトル獲得はないものの、2019、2020、2022年と3度ランキング2位を獲得した実力者です。2025年からはGPフル参戦を開始したドゥカティファクトリーに加入。現在のランキングは9位ですが、ここからの巻き返しを期待したいですね。

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画像: First MX Podium for Ducati with Jeremy Seewer! www.youtube.com

First MX Podium for Ducati with Jeremy Seewer!

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デスモ450 MXには、非常に興味深いパーツが採用されています・・・!?

デスモ450 MXはドゥカティにとっては1971年の450R/T以来となるひさびさのオフロード競技用モデルであり、今年からプロダクションモデルの販売が始まることが決まっています。

車名が示すとおり、デスモ450 MXはドゥカティ製スーパースポーツやMotoGPマシンなどでお馴染みの強制開閉弁機構であるデスモドロミックを採用しています。低中速トルクを稼ぐ鍵となる非常に高いバルブリフト量を、高い信頼性とともに使えることが現代のデスモドロミックの最大の利点であり、市販版は63.5ps/9,400rpm、5.46kgm/7,500rpmの最高出力と最大トルクを発生します。

画像: 市販版デスモ450 MXの装備重量は104.8kg。メンテナンスは時間管理で、オイルおよびオイルフィルター交換は15時間、ピストン交換とバルブクリアランス点検は45時間、エンジン整備は90時間・・・というサイクルが設定されています。 www.ducati.com

市販版デスモ450 MXの装備重量は104.8kg。メンテナンスは時間管理で、オイルおよびオイルフィルター交換は15時間、ピストン交換とバルブクリアランス点検は45時間、エンジン整備は90時間・・・というサイクルが設定されています。

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デスモ450 MXの単気筒エンジンはチェーン駆動DOHC4バルブで、吸気バルブは40mm径チタン製、排気バルブは33mm径ステンレス製を採用しています。非常に興味深いのは排気バルブに中空ステム構造が採用され、ナトリウム(ソジウム)が封入されている点です。

排気バルブの熱のほとんどはバルブシートとの密着によって放熱されますが、より冷却性能をあげるためにバルブガイドやシリンダーヘッド全体に熱を伝達させようというのが、バルブステムを中空にしてそこに「何か」を入れようという試みの理由になります。

高熱で個体から液体になる金属であるナトリウムを、中空ステムに封入することを発明したのは英国人エンジニアのサム ヘロンであり、彼は米軍航空機開発のために働いていた1920年代初頭にこの技術の確立に成功しました。

ナトリウム封入バルブは、過酷な使われ方をするモータースポーツ用エンジンにも使われました。黎明期の世界ロードレースGP(現MotoGP)に詳しい方であれば、1950年代の英ノートンファクトリー車にナトリウム封入バルブの採用例があったことを思い出すかもしれません。

なおノートンのナトリウム封入バルブは、ステム径が1/2インチ≒2.5cm!と超極太だったのが特徴です。戦後しばらくのGPは当時の燃料供給事情から低オクタンの燃料しか用意できず、排気バルブの高熱由来のノッキングに悩まされることになりました。その対策として放熱に優れるナトリウム封入バルブは当時最適のソリューションだったのです(極太ながら中空構造のため、ソリッド型よりわずかに軽いこともメリットのひとつでした)。

画像: 2012年型日産GT-Rに採用された、ナトリウム封入バルブは三菱重工製が作ったものです。三菱重工の説明によると中実バルブに比べ重量は約15%減少し、バルブ温度は従来より100〜200℃低い約600℃まで下げられているとのことです。 www.mhi.com

2012年型日産GT-Rに採用された、ナトリウム封入バルブは三菱重工製が作ったものです。三菱重工の説明によると中実バルブに比べ重量は約15%減少し、バルブ温度は従来より100〜200℃低い約600℃まで下げられているとのことです。

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市販版の米国での価格は1万1,495ドル≒164万1,280 円とのことです・・・

アルファロメオ、フェラーリ、そして大型トラック様などなど4輪車では採用例が結構あるナトリウム封入バルブですが、2輪の世界ではあまりポピュラーな技術にはなりませんでした。一般的に2輪エンジンのバルブは4輪用よりも小さく、水冷方式によって冷却されるシリンダーヘッドのバルブシートとの接触で、バルブの熱を逃すのに十分間に合っている・・・と多くのエンジニアが考えているからです。

ではなぜデスモ450 MXは、あえてナトリウム封入バルブを採用しているのでしょうか? 考えられるのはナトリウム封入バルブ最大のメリットであるノッキング防止ですが、現時点で得られる情報では残念ながら推察止まりになりますね・・・。

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市販版デスモ450 MXはトラクションコントロールのほか、ローンチコントロールやエンジンブレーキコントロールなどの電子制御が盛り込まれており、それぞれ介入レベルを選ぶことが可能です。また6速ギアボックスはクイックシフター式で、クラッチ操作することなく変速ができます。

米国市場の価格は1万1,495ドル≒164万1,280 円で、デリバリーは今年の7月からとアナウンスされています。日本にも導入されるデスモ450 MXですが、その走る姿を早く見てみたいものです。

文:宮﨑健太郎(ロレンス編集部)

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