文:中村浩史
インディアンのレース活動と、そこから生まれたFTRシリーズ
早くからレースシーンに注目、ブランド復活からフラットトラックへ
インディアンというブランドからイメージしやすいのは、やはり歴代のスカウトやチーフといったアメリカンスタイルのクルーザーだろう。
しかしインディアンは、早くから耐久レース、フラットトラックやロードレースシーンにも着目し、1906年に早くも本社製レーシングマシンを完成させたブランドでもあった。
ここで言う耐久レースとは、現在のようにロードコースを周回するものではなく、たとえばニューヨークからマサチューセッツまでの300kmを走り切れるか、またはアメリカ西海岸から東海岸までの4000kmを何日間かけて走れるか、という長距離耐久試験のようなもの。まだロードレーサーやフラットトラックレーサー、ヒルクライムのマシンや市販モデルのスタイリングが似通っていた時代のことだ。
そして、750ccエンジンをチューニングしたレーシングマシン、スポーツ・スカウトが、1937年に初めて開催されたデイトナ200マイルで優勝したことで、インディアンの名前は一気に広がることになる。デイトナを勝った、この「デイトナエンジン」と呼ばれるものは、アマチュアライダーを相手に発売していたチューニングパーツやレーシングアクセサリーを装着したもので、この頃からインディアンがレースを重要視していたことがわかる。
しかし、インディアンは1953年にすべてのオートバイ生産を停止。理由はいくつか考えられるが、やはり同じアメリカンモーターサイクルであるハーレーダビッドソンの台頭は大きな理由のひとつだっただろう。
その後インディアンは、商標権がひとり歩きしてのライセンス生産や、輸入ブランドモデルのOEM販売などを何度か繰り返したが、2011年に本格的にオートバイ生産を再開。
2013年から復活初のモデル、チーフ、スカウト、チャレンジャーを順次発売し、その中で2017年に生まれたのがFTRだった。しかしFTRは、まず市販モデルより先に、2016年にスカウトFTR750として、完全新設計のフラットトラックレーシングマシンを公開。この点でも、インディアンがいかにFTRに期待をかけていたのかがわかる。
FTR750はその後、2017年からアメリカンフラットトラックに参戦を開始し、初年度から見事シリーズチャンピオンを獲得。それも2022年まで6年連続でチャンピオンとなり、2023年シーズンもシーズン中盤まで9戦5勝。7連覇を狙う位置につけている。
その市販モデルバージョンがFTR1200だ。スタイリングは2016年に一般公開されたFTR750と瓜ふたつで、スタートは2017年秋のEICMAに登場したショーモデル。しかし、このロードバージョンの反響が大きく、2018年夏に市販バージョンを発表。
日本では2019年3月の東京モーターサイクルショーで初お披露目となった。
FTRはシンプルな車体構成で機能的なパーツ配置
現行FTRはタンクからシートまでにかけての「フライライン」と呼ばれるスタイリングで、フューエルタンクやシート&シートカウルサイズが最小限なのがトラッカースタイル。フレーム形状はトレリス構造の別体ピボットプレート式。フューエルタンクをV字型にシート下まで伸ばすなど、ミニマムなサイズに機能部品を効率よく収納している。(※ストリップ写真は2020年モデル)
文:中村浩史