文:宮﨑健太郎(ロレンス編集部)
※この記事は「ロレンス」で2023年1月30日に公開されたものを一部編集し転載しています。
スズキは「2030年度に向けた成長戦略」を公表!
あくまで予定ではありますが、英欧では2035年までにICE(内燃機関)搭載の2輪新車販売を全面禁止する方向で政治が動いています。そして英国では2030年までに、125ccクラスのICE搭載車両の販売を全面禁止する計画が検討されています。
2030年までの7年を長いと感じるか、短く感じるかは人それぞれですが、今世界中のメーカーは"タイムアップ"までの時間をにらみつつ、電動モデルの開発に励んでいます。1月26日に発表された「2030年度に向けた成長戦略」のなかで、スズキは2030年までに8機種の電動2輪をリリースする予定であることを明らかにしています。
なお大型2輪車については、カーボンニュートラル燃料での対応を検討・・・しているとのことですが、欧州ではEフューエルなどの燃料を使ったICE搭載車は、ゼロエミッション車として認めないという意見もあります(英国の検討案では、EフューエルのICEや水素ICEは、ゼロエミッションとして認めていません)。このあたりの行く末は不透明ですが、どうなっていくことになるのか注視していきたいですね・・・。
通勤・通学や買物など生活の足として利用される小型・中型二輪車は、2024年度にバッテリーEVを投入いたします。2030年度までに8モデルを展開し、バッテリーEV比率25%を計画しております。趣味性の強い大型二輪車については、カーボンニュートラル燃料での対応を検討しております。
非常に興味深いことは、駆動方式にチェーンを採用していることです!
おそらくその8機種の第一弾となるのは、すでに多くのメディアでスクープ情報が報じられている「電動バーグマン」でしょう。特許図からわかるとおり構成の特徴として、電動モーターは車体中央下部に設置し、駆動方式にチェーンを採用している点が、非常に興味深いです。
走行時の静粛性などを考慮して、2次減速機構にベルトドライブを採用する2輪EVは多いですが、電動バーグマンはあえて金属のチェーンを採用しています。チェーンのメリットは、ベルトドライブよりも伝達効率に優れていることがあげられますが、電動バーグマンの場合は大きな市場であるインドなどの、過酷な環境においての使用を考慮してのチェーン採用なのだと思われます。
一般にメンテナンスフリー・・・と解説されることの多いベルトドライブですが、まだ荒れた未舗装路で使われることが多いインドなどの新興国市場ではチェーンの方が、汚損対策や整備環境的に適しているという判断なのでしょう。
デビューの遅れは、バッテリーの熱対策といわれていますが・・・?
海外メディアの報道によると、すでにインドでテスト中の姿が何度も撮影されている電動バーグマンですが、インドのメディアであるバイク・ハリドによれば、インドの過酷な環境のなかでバッテリーの熱対策に苦戦しており、なかなか市販化までの煮詰めができていない・・・そうです。
そのため2024年までデビューが延びている・・・というのがもっぱらの噂なのですが、もうひとつの遅れの要因として、特許図で描かれている車体固定方式のバッテリーパックに代わり、日本の4メーカーも参画している"欧州コンソーシアム"・・・SBMC=スワッパブル バッテリーズ モーターサイクル コンソーシアムの規格化された交換式バッテリーに対応させるためなのでは?・・・が推察されています。
先日、もうひとつの電動スクーターの話題・・・2024年3月にHMSI(ホンダ モーターサイクル アンド スクーター インディア)が電動スクーター版の「アクティバ」をインド市場に投入するという話を紹介しました。HMSIはまず車体固定バッテリー仕様の電動アクティバをリリースし、続いて交換式の「ホンダ モバイル パワー パック e:」を採用する電動スクーターを投入する・・・というプランを明かしています。
スズキもHMSI同様に、すでにテストを重ねている電動バーグマンを先にリリースする・・・というプランを進めることも可能でしょうが、後々のことを考えるとSBMC共通規格の交換式バッテリーに対応させた商品にしたほうが吉・・・と考えたのかもしれません(あくまで、推察です)。
インドの交換式バッテリー業界をめぐっては、国内大手メーカーのヒーロー・モトコープと台湾のGogoroのパートナーシップが、いち早く環境整備のために動いています。もしスズキがホンダとともに、SBMC勢のインド市場開拓に動いてくれるのであれば、Gogoro勢への反撃体制も整う・・・といえるかもしれないです。
くどいですが今のところ、すべてはあくまで推察の話としか説明できないですけど(苦笑)、日本人としてはぜひ推察どおりに話が進んでくれることを・・・期待してしまいますね! ともあれ、今後もインド市場の電動化への動きに注目していきたいです。
文:宮﨑健太郎(ロレンス編集部)