本格2ストデュアルパーパスの誕生
保安部品の脱着が容易で競技でも人気のエルシノア
当時ホンダのスタッフは、自己啓発活動として4ストロークのホンダ車でモトクロス活動をしていたが、1960年代になって急速に発展した2ストローク車を相手に苦戦を強いられていた。絶対的な車重の軽さと、ピックアップの良いエンジン特性という点で、当時の4ストロークは2ストロークに劣っており、この弱点はアップダウンのコースレイアウトとなるモトクロスでは、致命的と言えた。
そのことは主要輸出国であるアメリカの営業サイドからも要求があり、ヤマハやスズキ、欧州勢の2ストロークオフロードに対抗できる製品が欲しいとホンダは常に突き上げられていた。
1971年の暮れ、「やる以上、世界一のものにしなさい」という本田宗一郎の承諾を得て、本格的に2ストロークの開発がスタートした。その後、正式に全日本モトクロスへの挑戦が開始された1972年には、市販モトクロッサーCR250Mの同時開発も始動することに。同年、9月26日には早くも市販化にこぎ着けた。
そして、翌1973年の5月10日、CR250Mをベースに保安部品を備えたデュアルパーパスモデル、エルシノアMT250の販売を開始。久しく途絶えていたホンダ2ストロークの系譜を華々しく復活させたのである。
CR250Mをベースに造られたエンジンの吸入方式は、6ポートのピストンバルブ。放熱効果に優れたアルコン(ALMINIZED COMBINE CASTING)シリンダーを採用。ピストンにはアルジル材を用いている。
オフロードでの高い走破性を実現するため、フレームにはコンピュータ解析したスチール製クレードルタイプを採用。なお、同時発売のMT125と共通のチューンアップ用オプションパーツも用意されていた。
Honda ELSINORE MT250 主なスペック
全長×全幅×全高 | 2160×890×1130mm |
乾燥重量 | 118kg |
エンジン形式 | 空冷2ストピストンバルブ単気筒 |
総排気量 | 248cc |
ボア×ストローク | 70.0×64.4mm |
圧縮比 | 6.6 |
最高出力 | 23PS/6500rpm |
最大トルク | 2.6kgf・m/5500rpm |
燃料タンク容量 | 8.5L |
変速機形式 | 5速リターン |
タイヤサイズ(前・後) | 3.00-21・4.00-18 |
ブレーキ形式(前・後) | ドラム・ドラム |
当時価格 | 20万8000円 |
※この記事は月刊『オートバイ』2021年6月号別冊付録「RIDE」の特集から一部抜粋し、再構成して掲載しています。当特集のスタッフ 文:安藤佳正、宮﨑健太郎/写真:赤松 孝、松川 忍、南 孝幸、森 浩輔/撮影協力:ホンダコレクションホール