2018年の鈴鹿8耐が終わりました。第41回大会であり、2017-18世界耐久選手権の最終戦。チャンピオンシップのグランドフィナーレにふさわしい、見ごたえとアクシデントと波乱と爽快感にあふれるレースでした。
レースの模様は、RacingAUTOBYのFACEBOOK [https://www.facebook.com/racingautoby/?ref=bookmarks]に少しずつ上げましたが、雨に翻弄され、波乱を制した#21ヤマハファクトリーレーシングチームの勝利! これで#21ヤマハは2015年大会から4連覇。同一チーム4連覇は、もちろん鈴鹿8耐史上はじめてのこと。最強チームが、またひとつ勲章を手に入れた、そんなレースでしたね。
波乱のひとつめは、スタート直前の雨でした。台風接近→上陸が伝えられていた三重県地方ですが、台風は夜半には上陸→通過し、朝イチの鈴鹿は、厚めの雲に覆われた、生暖かいコンディション。それでも、8時半のウォームアップ走行からスタート時刻に向かって天候は回復し、青空も出始めたほどだったんです。
11時半スタートのレースは、大体1時間ほど前から「スタート前進行」が始まり、11時ごろにはマシンがグリッドにつき終わります。そこから11時半直前にウォーミングアップランが始まるんですが、スタート前進行のころからぽつぽつ降ってきた雨が、出走直前にはザーッ。ほとんどのチームはこの天気を読んでいて、レインタイヤでグリッドについていたんですが、#19KYBモリワキMOTULレーシングや#9MotoMapサプライはスリックでスタート。これは天候の回復を期待してのタイヤギャンブル。しかし、このギャンブルは成功とは言えませんでした。
フルウェットにレインタイヤがほとんどの中、スタートした決勝レース。ポールシッターの#11レオン・ハスラムがホールショットを獲得しますが、2コーナーではすぐに#33高橋巧がハスラムをパスし、どんどんペースを上げてレースを引っ張っていきます。事前テストの段階から、マシンのウェットコンディションでの戦闘力に自信を持っていた高橋にとって、まさに恵みの雨となったのでした。
トップグループは、高橋が2番手ハスラムを大きく引き離して、さらに離れて3番手に#21マイケル・ファン・デル・マーク、#12シルバン・ギュントーリ、#634ランディ・ドゥ・プニエが続きます。
しかし、2周目の2コーナーでは、早くもドゥ・プニエが転倒! 高橋はぐんぐん後続を引き離し、ハスラム、その後方にファン・デル・マークとギュントーリ、5番手争いは#95渡辺一樹と、#71加賀山就臣、#72濱原颯道の3人、というオーダーになっていきます。
ここまで5周あたりで雨は止み、気温が高いためか、どんどん走行ラインは乾いてきます。そして、10周目には2番手ハスラムを9秒も引き離した高橋が徐々に後続に差を詰められはじめ、15周目あたりで上位陣に変化が。乾いていく路面にはレインタイヤよりスリックだ、と判断した#12ギュントーリ、#21ファン・デル・マークがピットへ。ギュントーリとファン・デル・マークはライダー交代せず、#11 ハスラムもピットインし、ハスラムは早々とジョナサン・レイにライダー交代し、レインタイヤの高橋を追いかける展開となります。
レインタイヤで少し引っ張りすぎたか、高橋も上位陣の中では最後にピットインし、ライダー交代をせずにスリックタイヤで再スタート。この時点では#12ギュントーリがトップに立つ局面もあり、高橋は4番手でコースに復帰します。
ここから、上位陣では真っ先にライダー交代した#11レイの猛追ショーがスタート。2番手でコースインしたレイはギュントーリを追い回し、ついに20周目のシケインでトップに浮上! シケインでアウトからのパッシングなんて、なかなか見られないシーンでした。レイにかわされたギュントーリがラインを外したスキをついてファン・デル・マークも2番手に浮上し、この時間帯はレイvsファン・デル・マークのトップ争い。3番手ギュントーリと4番手高橋はやや離され始めてしまい、25周目にはギュントーリがシケインで転倒! ヨシムラが優勝争いから姿を消します。
開始1時間の時点で、トップ争いはレイvsファン・デル・マーク、15秒以上後方の3番手に高橋と、このトップ3がレースのほとんどを占めることになります。ファン・デル・マークは30周目の1コーナーでとうとうレイをパスし、レイはその周のシケインで再び抜き返すというトップ争い。3番手とはいえ、高橋は20秒後方と、やや置いて行かれてしまうのです。
45周目あたりで#21ファン・デル・マークがピットインし、アレックス・ロウズへライダーチェンジ。翌周には#11レイもピットイン、ハスラムへと交代しますが、ファン・デル・マークはここまで、1時間37分/45周を走行し、ゆうに1.5スティントを走行したことになりますね
このスティントのロウズvsハスラムはほぼ互角。3番手は高橋からバトンを受けた中上が走りますが、やはりラップタイムの上乗せがなく、徐々に引き離される展開。65周目にはトップ2台に22秒も引き離されますが、ここでアクシデントが発生。1台、転倒車が炎上、セーフティカーがコースに介入し、各ライダーのタイム差がグッと詰まることになるのです。
20秒以上の差で3番手を走っていた中上も、セーフティカー退出時には3秒差まで詰めることになり、ビッグチャンス! しかしレース再開後も、#21ヤマハと#11カワサキがバトルを展開する中、中上は1周ごとに遅れ始め、次のピットインタイミングには10秒も引き離されてしまうのです。
トップ3人は、#11レイ、#21ファン・デル・マーク、#33高橋という顔ぶれ。このスティントではレイがズバ抜けた速さを発揮し、ファン・デル・マークを置き去りにします。このスティントが勝負のカギになるか、と思われたレイのピットインのタイミングで、なんと#11号車はガス欠! バックストレートを登り切ったあたりでガス欠となった#11は、惰性でピットインするしかなく、ここで大きくタイムロス。開始から約4時間、この時点で#21ヤマハがレースをリードする立場となるのです
開始5時間目くらいには、コースに再び雨が落ちてきます。ファン・デル・マークとレイがルーティーンピットを済ませる頃に雨が激しくなり、コースに転倒車が残ったことで2度目のセーフティカー介入。このセーフティカーで、再びトップとの差を縮めた中上はそのあとにピットインし、レインタイヤのパトリック・ジェイコブセンに交代。コースはフルウェット、ヤマハとカワサキはスリックタイヤ! ここがレッドブルホンダ、最大の勝機でした!
しかし、セーフティカー走行時に転倒車が出たために、セーフティカーが滞在延長! この間に#21ヤマハもスリック→レインにタイヤ交換し、#11カワサキももうすぐ――と思われた時、この日のレースで一番の事件が起こるのです。
ジョナサン・レイ、転倒! 雨のセーフティカー走行でスピード域こそ低かったものの、フルウェットでのスリックタイヤ走行を続けていたため、なんでもないところでレイが大きくリアを滑らせ、軽いハイサイドで転倒してしまうのです。
これで、ほぼ勝負あり。#11がマシン修復でタイムロスする間、トップ争いの#21ファン・デル・マークと#33ジェイコブセンは、明らかにファン・デル・マークのほうが速く、その差は5秒、10秒、15秒、20秒――。残り1時間強でピットインした#21ヤマハは、最後の最後にガソリンが足りなくなることが予想されたものの、1分以上の差をつけたロウズが、悠々とガス補給のみのピットインを終え、そのままレースは終了。
中須賀をケガで欠いたものの、ファン・デル・マークとロウズがヤマハに鈴鹿8耐4連覇をプレゼント。2位にレッドブルホンダ、3位にカワサキTeamグリーンが入ったレースとなりました。
レース中盤までチャンピオンチームを圧倒したTeamグリーンの敗因は、あのピット予定周のガス欠による惰性ピットイン。あと0.5Lでもガソリンが残っていれば、ルーティーンでピット作業を終え、レース後半戦もリードしていた可能性は高いと思います。
10年ぶりに鈴鹿8耐に復活したホンダワークスは、ドライでの3人のタイムレベルが、あと一歩低かった。もちろんセーフティカー退出のタイミングが遅かったことと、さらに1回目のスティントで、ドライ路面でレインタイヤの高橋を引っ張ったタイミング、ジェイコブセン投入の是非などなど、ベンチワークも反省会の机上に上がるのではないでしょうか。
これでヤマハファクトリーレーシングの4連覇。4年間負けなしの最強チームに土をつけるには、また1年待たなければなりません。ホンダ、カワサキ、そしてヨシムラは、そこがつらいところですね。
ひとまず鈴鹿8耐のレースレポートはこれにて終了。この先、いろんなドラマを書いて「ハンパない! 鈴鹿8耐」連載を終了しとうございます^^
写真/後藤 純 中村浩史 文/中村浩史