気まぐれなロードコンディションに
翻弄されない智恵が最大の武器!
今回試乗したのは、セミアクティブタイプのサスペンションを採用した「S」タイプで、ロードではあらゆるシチュエーションを卒なくこなしてしまうほど、ロードモデルとしての素性は高次元に至っているのだが、より好みのセッティングが簡単なボタン操作のみで可能なのだ。目紛しく変化するコンディションに於いて、スタンダード状態でも高次元の包容力を発揮する上に、そこからさらにベストセッティングにアジャスト出来るのはライダーにとっては最大の喜びかもしれない。自分のライディングテクを車体側でフォロー出来るなんて、ワインディングの世界観が一気に広がるというもの。
またこのシステムは、コンフォート領域に於いても最大の効果を発揮するのだ。搭載する1260ccのテスタストレッタDVTエンジンは、エンジン回転数4000回転でクラス最大のトルクを発生させる。これは乗用域付近をカバーする事を意味し、ヘビーな負荷もモノともしないのである。「荷物積んで遠くへ、しかもタンデムライダーと共に」そんな欲求が湧いてくるというもの。いや、むしろそうすべきモデルなのかもしれない。この「S」の無限とも思われ(実際には400通り)セレクティブなサスペンション設定により、自分好みであり、タンデムライダーも含め快適且つ理想のフィーリングをチョイス可能なのだ。
スタンダード状態から変貌する性格を把握し切れた時に、やっとオーナーになれるのではないか、と。足まわりの調整は一見ハードルが高そうに思えるかもしれないが、探究心の旺盛なムルチストラーダーをチョイスするライダーであれば至ってシンプルな作業かもしれない。とにかく、操作した応えがその場で現れるのだから。
デュアルパーパス然としたスタイルもまた、ふと出現する不整地で合点が合う事になった。キメ細やかな作動が信条のABSやトラクションコントロール等々といった電子制御の複合力により、少々荒れた不整地であってもものともせず加速減速を自在にしてくれる。とはいえ、バイクの構造上キモとなるハンドル操作や体重移動は、ライダーの支配が大きな影響を与えるために、立ち気味のデュアルパーパス然とした乗車姿勢が活きてくるというもの。ムルチストラーダSとなら、道を選ぶ必要がなくなるといえよう。
リアサスもザックス製で、Sでは状況に合わせて瞬時に最適な減衰力に自動調整されるセミアクティブサスのスカイフックが標準装備されている。スイングアームは従来モデルのものから48㎜長いものに変更され、より安定感の高い乗り味を実現した。
サイズの大きなフロントスクリーンは、ピンチ&スライド構造を採用していて上下方向に60㎜の範囲で可動でき、好みや状況に応じて防風効果を調整することが可能。走行中であっても簡単に操作できる。
テスタストレッタDVTエンジンを新たに搭載。内部パーツを大幅に見直し1262ccにまで拡大された排気量と可変バルブタイミング機構に、改良された吸排気系も組み合わせることで、3500rpm以下でも最大トルクの85%を発揮。低中速域で大幅に力強さとフレキシブルさが増した。
液晶モニターは画面サイズが大型化され視認性が向上。各種デバイスの設定もわかりやすく表示される。Sにはブルートゥースが装備されドゥカティマルチメディアシステム(DMS)に対応。マシンとスマホを接続して多彩な機能を実現。
MULTISTRADA 1260 S
価格:2,625,000円(税込)
■エンジン:水冷4ストロークL型2気筒DOHC4バルブ ■ボア× ストローク(排気量):106×71.5mm(1262cc)■最高出力:158ps/9500rpm ■最大トルク:13.2kgm/7500rpm ■ミッション:6速リターン ■全長× 全幅×全高:N.A×N.A×N.Amm ■ホイールベース:1585mm ■シート高:825-845mm(可変式) ■車両重量:235kg■燃料タンク容量:20L ■タイヤ前・後:120/70ZR17・190/55ZR17 ■価格:262万5000円~266万5000円
撮影/柴田直行 解説/小松信夫 文/編集部
GOGGLE2018年8月号
モーターマガジン社
体裁:A4変型・平綴じ
販売価格:1,200円(税込)