GSの魅力をミドルクラスに凝縮させたアドベンチャー!
このバイクは本気で林道に入っていけるタフなアドベンチャー。ちょっとしたダートなら、というバイクではない。本当によく走るのだ。いろいろ装備が付いているから重く、ホイールベースが長いから、オフ車と比べれば取り回しや林道の小道での方向転換などは厳しいだろうが、走りは互角なのだ。
従順でステージを選ばないタフな「冒険」の相棒
搭載しているエンジンはアーバンスポーツのF800Rと同系列のトルキーなツイン。低振動で快適、サイズもスリムで、多少大柄な単気筒くらいにしか見えない。ベースモデルのF800GSもそうだが、このシリーズの走破性を支える優秀なパートだ。
アドベンチャーはそのGSの足回りを強化(ホイールのトラベルアップとリアの電制プリセッティング機能を追加)したものに変更。積載能力も強化し、勇ましいガード類も追加されている。ホイールトラベル量を変えずに、シート高も890㎜から860㎜に抑えてある。おそらくだが、サスのセッティングもいくらか違っているかもしれない。
このアドベンチャーの装備は見かけ倒しではない。重積載で過酷な条件の道路を走り続けられて、もし転んでも、何事もなく再び走り出せるだけの装備だ。ガード類は本当に丈夫だし、足回りも専用設計で衝撃吸収力に長けたものを使う。その分重くなっているが、車重はたかが232㎏。軽々しくて、倒れてどこかが壊れたり、荷物を積んで不安定になるくらいなら我慢できるレベルだ。
悪路でもオンロードでも、アドベンチャーは乗り心地がしっとりしていて、ゆっくり走っていれば、ソフトボールより少し大きいくらいのゴロ石だらけの道を突き上げられずに走れてしまうし、ギャップが不規則に荒れた凸凹路でもハンドルを弾かれにくい。こういったところは、外径の大きさで乗り越え性能に長けているフロントの21インチタイヤとトラベル量の多い、しなやかな動きのフロントフォークが威力を発揮している部分だ。
速さやスポーティな走破性ではなく、安全に快適に「踏破」できる走破性、つまりズバ抜けた悪路での走破性の高さこそ、このバイクの特徴であり魅力なのだ。
先ほどの大径細身タイヤには、接地面の少なさによるオンロードでのコーナリンググリップの弱さというネガな部分もあるが、F800GSアドベンチャーに関して言えば、これについてはまずまずの及第点。過信は禁物ではあるものの、重積載で峠を駆け足するくらいの走りには十分に耐える。
実際のところ、過度にスポーティな操作を強要しなければ、非常に従順なバイクである。オン、オフを問わず、非常に乗り心地もよく、サスのプリセットをどのポジションにしていても、並みのツーリングスポーツなどよりも快適だと言ってもいい。街中からちょっと荒れた林道、高速道路まで、どこへでも冒険させてくれる万能アドベンチャーモデルである。
注目ポイント
ライディングポジション(身長:176㎝ 体重:68㎏)
シート高は低くはないが、ライダーが跨がれば結構沈む。860㎜のシート高からするともっとカカトが浮いてもいいのだが、ゆったり跨がってもこの程度で収まる。バイク自体の乗り心地もいいが、シートの肉厚も十分で、長時間ライドを楽にしてくれている。
主要諸元
全長×全幅×全高…2310×975×1470㎜
ホイールベース…1590㎜
シート高…860㎜
車両重量…232㎏
エンジン形式…水冷4ストDOHC4バルブ並列2気筒
総排気量…798㏄
ボア×ストローク…82×75.6㎜
圧縮比…12
最高出力…85PS/7500rpm
最大トルク…8.46㎏-m/5750rpm
燃料供給方式…FI
燃料タンク容量…約24ℓ
キャスター角/トレール量…64°/117㎜
変速機形式…6速リターン
ブレーキ形式(前・後)… φ300㎜ダブルディスク・φ265㎜ディスク
タイヤサイズ(前・後)… 90/90-21・150/70-17
撮影/南 孝幸