直4クォーターいちばんの元気印

当時、GP250クラスや大人気のTT-F3クラスでワークスとしてのレース活動を行なっていなかったカワサキ。大阪のビートレーシングや社内チームのチーム38が孤軍奮闘するも、キットパーツなどの販売がなく支援体制も整っていなかったことから、アマチュアレーサーの間に浸透することはなく、レーサーレプリカセグメントにおいては完全に出遅れてしまった。4スト250cc戦線ではさらに顕著で、ライバルメーカーが次々に4気筒モデルを投入する中で、長らく2気筒モデルで苦戦を強いられて来た。

そんなカワサキが本腰を入れて来たのは80年代後半になってから。

89年2月にZXR400/250を、同4月に2スト250のKR-1Sを矢継ぎ早に投入。それぞれにレース仕様のRもラインアップする。

ZXR250は、一般市販ロードモデル初の倒立フォークや後にラムエアシステムへと発展するK-CASなどを採用した意欲作で、E-BOXと名付けられたアルミツインスパーフレームに搭載されたコンパクトなサイドカムチェーン4気筒ユニットも、45PS/15000rpmのハイスペックをマーク。最大のライバルと目されたCBR250Rに比べて、ややピーキーで高回転域で弾けるようなパワーフィーリングが特徴だった。

また、レース対応のRも同時にラインアップ。このRはクロスミッションや減衰力調整機構付きリアショックに加えて、キャブレターもφ30mmからφ32mmに拡大するなど、ライバルの一歩先を行く内容で注目を集めた。

レース参戦を前提に開発されただけに、Rは高いポテンシャルを持っていたが、すでにレースブームも沈静化し始めており、本当の実力を広く知らしめることなく姿を消していった、少々不遇なモデルでもあった。

画像: 直4クォーターいちばんの元気印

Impression
ライバルを圧倒するレーシングスペックを装備した本格派

伝統的(?)に大排気量車に注力するカワサキだけに、250cc4気筒モデルの投入はやや遅く、89年のZXRが最初。しかし最後発とあってレーサーレプリカとしての完成度の高さは頭ひとつ抜け出ていた。スポーツライディング指向ライダーの多くが、ツインスパータイプのアルミフレーム、クラス初の倒立サスペンション、エアインテークダクトなどのレーシングマシンに保安部品を付けただけといった構成に魅せられたのだ。

さらにカワサキの本気度を感じさせたのが、スタンダード仕様に加え、SPレース出場を前提としてクロスミッションや伸・圧減衰調整機構付き前後サス、大径キャブレターを装備した「R」を同時にデビューさせたこと。保安部品を外すだけで充分な戦闘力が得られることから、レース活動費用を抑えたいライダーに高く評価された。実際、サーキットでは切れ味鋭い走りを堪能できたし、トップエンドのパワーもCBR-RRと互角の速さを見せ付けたが、低中回転域ではスロットルに対する反応が頼りなく、サスペンションもかなりハードなセッティング。さらにクロスミッションゆえの発進のしにくさも加わって、お世辞にもストリート向きとは言えない乗り味。スタンダードと「R」の2機種を同時発売した理由はここにある。

撮影車両は入庫したばかりの状態で走れなかったのが残念だが、ライバル車と並べてもひと際レーシングライクなオーラを漂わせていた。ZXRは90年代後半まで発売されていたため、程度のいい中古車を見つけることも難しくない。最近は250cc4気筒車が参加できるレースの人気も上昇中だから、もう一度サーキットで思いっきり走らせてみたい。

画像1: Impression ライバルを圧倒するレーシングスペックを装備した本格派

【ZXR250】 1989年2月 specifications
エンジン型式:水冷4ストDOHC4バルブ並列4気筒
総排気量:249cc
内径×行程:48.0×34.5mm
圧縮比:12.2
最高出力:45PS/15000rpm
最大トルク:2.6kg-m/11500rpm
燃料供給方式:キャブレター[CVKD30]
変速機型式:常噛6段リターン
全長×全幅×全高:2020×695×1105mm
軸間距離:1370mm
シート高:740mm
乾燥重量:144kg
燃料タンク容量:16L
タイヤサイズ(前・後):110/70R17・150/60R18
当時価格:58万9000円

画像2: Impression ライバルを圧倒するレーシングスペックを装備した本格派
画像3: Impression ライバルを圧倒するレーシングスペックを装備した本格派
画像4: Impression ライバルを圧倒するレーシングスペックを装備した本格派
画像: あまり冒険をすることなく、性能最優先でシンプルかつコンパクトにまとめた外装デザイン。乾燥重量は144kgと、同世代のライバルモデルに比べて若干重かったが、硬めのサス設定によって軽快なフットワークを見せた。

あまり冒険をすることなく、性能最優先でシンプルかつコンパクトにまとめた外装デザイン。乾燥重量は144kgと、同世代のライバルモデルに比べて若干重かったが、硬めのサス設定によって軽快なフットワークを見せた。

画像: アッパーカウル上部から取り入れた走行風をシリンダーヘッドまわりに吹き付けることで、エンジンの冷却を促進するK-CAS(カワサキ・クーリング・エア・システム)を採用。これが後にラムエアシステムへと発展していく。

アッパーカウル上部から取り入れた走行風をシリンダーヘッドまわりに吹き付けることで、エンジンの冷却を促進するK-CAS(カワサキ・クーリング・エア・システム)を採用。これが後にラムエアシステムへと発展していく。

画像: ストレートでの伏せ姿勢の取りやすさ、コーナリング中のヒジや内ももでのホールドのしやすさを考え、ハンドルやシートとのバランスも考慮しながら形状が決められたシンプルなフューエルタンク。ガソリン容量は16L。

ストレートでの伏せ姿勢の取りやすさ、コーナリング中のヒジや内ももでのホールドのしやすさを考え、ハンドルやシートとのバランスも考慮しながら形状が決められたシンプルなフューエルタンク。ガソリン容量は16L。

画像: レーシングライクなセパレートシートを採用。フロントは前方のクッションをサイドまで回り込ませて、足着き時の快適性を高めている。タンデムシートはキー操作によって取り外し可能で、脱落防止のベルトが装着されている。

レーシングライクなセパレートシートを採用。フロントは前方のクッションをサイドまで回り込ませて、足着き時の快適性を高めている。タンデムシートはキー操作によって取り外し可能で、脱落防止のベルトが装着されている。

画像: ZXR400とともに国内市販ロードモデル初採用となった倒立フォークはインナーチューブ径φ41mm。スプリングイニシャルと伸び側ダンパーの調整が可能だった。フロントタイヤはスタンダードはバイアス、「R」はラジアル指定。

ZXR400とともに国内市販ロードモデル初採用となった倒立フォークはインナーチューブ径φ41mm。スプリングイニシャルと伸び側ダンパーの調整が可能だった。フロントタイヤはスタンダードはバイアス、「R」はラジアル指定。

画像: レーサーのようなシンプルなアルミサイレンサーが今となっては逆に新鮮。アルミスイングアームは90年のマイナーチェンジで応力の集中する部分を太くしたKIS-ARMにグレードアップされた。リアタイヤはラジアル指定。

レーサーのようなシンプルなアルミサイレンサーが今となっては逆に新鮮。アルミスイングアームは90年のマイナーチェンジで応力の集中する部分を太くしたKIS-ARMにグレードアップされた。リアタイヤはラジアル指定。

画像: アッパーカウルのサイズに対してやや小振りな丸型2灯ヘッドライトを採用。K-CASのインテークダクトは当時の若いライダーの心をときめかせた。91年のフルチェンジでヘッドライトは左右一体型の2灯式に変更される。

アッパーカウルのサイズに対してやや小振りな丸型2灯ヘッドライトを採用。K-CASのインテークダクトは当時の若いライダーの心をときめかせた。91年のフルチェンジでヘッドライトは左右一体型の2灯式に変更される。

画像: シリンダーを30度前傾させることで、吸排気効率の向上と前後重量配分の最適化を図ったサイドカムチェーン4気筒エンジン。カワサキらしい、やや粗い感触とともに高回転まで一気に吹け上がるピーキーな味付けだった。

シリンダーを30度前傾させることで、吸排気効率の向上と前後重量配分の最適化を図ったサイドカムチェーン4気筒エンジン。カワサキらしい、やや粗い感触とともに高回転まで一気に吹け上がるピーキーな味付けだった。

画像: レーサー転用時にスピードメーターだけを簡単に取り外せるようにしたインストルメントパネル。1万9000回転から始まるタコメーターのレッドゾーンは、90年に登場するCBR250RRとともに、量産市販車最高の回転数だった。

レーサー転用時にスピードメーターだけを簡単に取り外せるようにしたインストルメントパネル。1万9000回転から始まるタコメーターのレッドゾーンは、90年に登場するCBR250RRとともに、量産市販車最高の回転数だった。

文:太田安治

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