ビンテージバイクのレースとして有名なA.V.C.C.(American Vintage Competition Clubman Roadrace)は、普段は街を走るためのハーレーやインディアンが、コースに入った瞬間、速さを競うレーシングマシンになる。2026年9月20日、筑波サーキットで開催されたMCFAJクラブマンロードレース第3戦は、A.V.C.C.にとって今シーズンの最終戦となった。この日の筑波はウェットコンディションだった。それでもグリッドには、1940年代のハーレーナックルヘッドや30年代のインディアンのビンテージレーサーが並んだ。

そこで目にしたのは、単なる旧車レースではなかった。古いマシンを愛する者たちが集まり、仲間として互いを支えながら、コースに出れば誰にも負けたくないという気持ちをむき出しにして戦う。A.V.C.C.には、そんな独特の熱気がある。

文:今井伸一朗 写真:kouki kato/川村恭慎 協力:A.V.C.C.
▶▶▶写真はこちら|A.V.C.C.(American Vintage Competition Clubman Roadrace)の魅力(画像23枚)

1996年に始まったアメリカン・ヴィンテージのレース

A.V.C.C.がスタートしたのは1996年。現在はMCFAJクラブマンロードレースの一カテゴリーとして、ハーレーダビッドソンやインディアンなど、アメリカ製ヴィンテージモーターサイクルによるレースが行われている。対象となる車両は幅広い。1960年中盤以降のショベルヘッドやスポーツスターをベースとしたレーサーから、さらに年代を遡った1930年代から50年代初頭のサイドバルブ、ナックルヘッド、パンヘッド、そしてインディアンまで、アメリカンモーターサイクルの歴史そのものがコース上に並ぶ。

画像: 1930年代?インディアン スポーツ スカウト。

1930年代?インディアン スポーツ スカウト。

現代のバイクではほとんど見ることのできない機構を残したままレースを闘うわけで、リジッドフレームにスプリンガーフォーク、スポークホイールにドラムブレーキといった古色蒼然としたマシンは見ているだけでもワクワクしてくる。車両によってはハンドシフトとフットクラッチを使って走るので、そのフィーリング、難しさは想像すらつかない。だが、ひとたびスタートすれば、そこに「古いバイクだから」という遠慮はない。ライダーはマシンの持つ性能を引き出し、コーナーでは限界まで攻め、少しでも速いタイムを狙っていく。古いバイクを使うことと、レースで本気になることは別の話なのだ。そこにA.V.C.C.ならではの面白さがある。

画像: 雨の中タイムアタックへ向かうビンテージマシンたち。

雨の中タイムアタックへ向かうビンテージマシンたち。

A.V.C.C.のパドックを歩いていると、一般的なレースイベントとは少し違う空気を感じる。ライダー同士がマシンを囲んで話をしている。誰かがトラブルを抱えれば、別のチームのメンバーが手を貸す。長年一緒に走ってきた仲間だからこそ分かることもあるだろう。チームの垣根を越えて、同じA.V.C.C.の仲間として助け合う。もっとも、いったんコースに出れば、その雰囲気が一変する。さきほどまで笑顔で話していたライダーが、スタートするとライバルになる。ブレーキングで少しでも前へ出ようとし、コーナーでは互いにラインを探り、コンマ数秒を削り合う。そしてチェッカーを受ければ、また仲間に戻る。この距離感が、A.V.C.C.の大きな魅力なのだと思う。

画像: オリジナルだと思われる1940年代のナックルヘッド。

オリジナルだと思われる1940年代のナックルヘッド。

画像: AVCCがわかるボード。

AVCCがわかるボード。

画像: AVCC会長 岸 勝則氏。

AVCC会長 岸 勝則氏。

雨の筑波で始まった最終戦

そして迎えた9月20日。2026年A.V.C.C.の最終戦だ。この日の筑波サーキットは雨に見舞われ、路面はウェット。ビンテージマシンを走らせるには、決して簡単なコンディションではない。ビンテージというと、古いバイクがゆったり走っている姿をイメージするかもしれない。が、実際のレースはまったく違う。

FSCRは片吉徹が優勝

画像: FSCR表彰台

FSCR表彰台

FSCRクラスを制したのは、KAKTUZCHOPPER GARAGEの片吉徹選手。HD-FLH1440を駆り、6周を8分47秒733で走り切った。ベストタイムは1分26秒727。ウェット路面ながら平均速度は84.725km/hを記録している。2位はNaturalSteel Worksの田邊英孝選手、3位はSPEEDDEMONの服部孝選手となった。なお、FSCRのファステストラップも片吉選手の1分26秒727だった。

CSSCは大浦聡が制し、岩城滉一も3位に

画像: CSSC表彰台

CSSC表彰台

CSSCクラスでは、51GARAGEの大浦聡選手が優勝した。マシンはHD-XL883。6周を8分28秒937で走り、ベストタイムは1分22秒056、平均速度は87.854km/hを記録した。2位はBURN! H-D SPORTSの伊藤昌史選手。そして3位には51GARAGEの岩城滉一選手が入った。なお、いずれのマシンも883カップで鳴らしたBURNによる製作というのも注目したい。

4位はHATTRIXvintage Racing Familyの小串将吾選手、5位はTEAM-HOT-DOCKの斎藤龍一選手、6位はSunnyRacing+F・B・Rの「ふぢぃ」選手という結果になった。ウェット路面での6周という厳しいレースを、全員が最後まで走り切った。特に岩城選手は、長くバイクやレースの世界に関わり続け、自らA.V.C.C.のレースに参戦している。著名人がレースに参加すること自体は珍しくないが、こうして継続的にマシンを仕上げ、サーキットで競技を続けていることは、A.V.C.C.というカテゴリーの魅力を伝える要素といっても過言ではないだろう。

MDF-Aは熊谷勝司が優勝。インディアンも健闘

画像: MDF-A表彰台

MDF-A表彰台

MDF-Aでは、TeamKUMA SPEEDの熊谷勝司選手が優勝した。マシンはHD-FL1380。6周を8分47秒600で走り、ベストタイムは1分25秒724だった。2位にはGo’
sIndian Racingの高嶺剛選手が入り、インディアン・スポーツスカウトを駆って存在感を見せた。3位はGolden Eagleの大塚選手、4位はTeamKUMA SPEEDの牧田武史選手、5位はHillCity Racing with 替え玉の窪田選手となった。ここで注目したいのが、ハーレーダビッドソンだけではなくインディアンがトップ争いに加わっていること。A.V.C.C.は「ハーレーだけのレース」ではない。アメリカン・ヴィンテージモーターサイクルという文化そのものを、サーキットという舞台で競わせているのだ。

MDF-B、STOCK-Bもそれぞれ決着

画像: MDF-B表彰台

MDF-B表彰台

MDF-BクラスはTOKYOINDIANS RACING CLUBの江川真樹選手が優勝した。インディアン・スポーツスカウト750を駆り、6周を9分36秒093でフィニッシュ。ベストタイムは1分32秒087だった2位には45 Powerの堀江誠太選手が入った。STOCK-Bはロズウェルラボの竹内翔太選手が優勝。HD-G750で6周を9分50秒232、ベストタイム1分35秒997を記録した。2位はNaturalSteel Worksの松井康通選手だった。

画像: STOCK-B表彰台

STOCK-B表彰台

単なる古いバイクのレースにあらず

雨の最終戦は、こうして各クラスの勝者を決めてチェッカーを迎えた。数十年前のマシンが、いまも走っているというA.V.C.C.を観ていると、時間の感覚が覚束なくなるというのが正直なところ。1940年代、1950年代につくられたマシンが、いまもエンジンを動かしている。そして、ただ保存されているのではなく、サーキットへ持ち込まれて本気で走っている。これは単なるビンテージバイクのレースでは決してない「走る文化」そのものに違いない。古いマシンを残すだけではなく、走らせる。走らせるだけではなく、競わせる。競わせるからこそ、ライダーもビルダーもメカニックも、少しでも速く、そして壊さずに走らせるための方法を考える。

単に「旧車が走っている」という感覚ではなく、そこにいる人たちが大切にしている魂まで伝わってくるといったら大げさだろうか。そして気がつけば、こちらまでその世界に引き込まれてしまっているのだった。

【DATA|2026 A.V.C.C. FINAL ROUND】
●開催日:2026年9月20日(日)
●会場:筑波サーキット
●コース:2,070km
●天候:雨
●路面:ウェット
--------
FSCR
1位 片吉 徹/KAKTUZ CHOPPER GARAGE
HD-FLH1440
6LAP/8分47秒733
BEST 1分26秒727
--------
CSSC
1位 大浦 聡/51 GARAGE
HD-XL883
6LAP/8分28秒937
BEST 1分22秒056
2位 伊藤昌史/BURN! H-D SPORTS
3位 岩城滉一/51 GARAGE
--------
MDF-A
1位 熊谷勝司/Team KUMA SPEED
HD-FL1380
6LAP/8分47秒600
BEST 1分25秒724
--------
MDF-B
1位 江川真樹/TOKYO INDIANS RACING CLUB
INDIAN Sport Scout 750
6LAP/9分36秒093
BEST 1分32秒087
--------
STOCK-B
1位 竹内翔太/ロズウェルラボ
HD-G750
6LAP/9分50秒232
BEST 1分35秒997

おすすめ関連記事

This article is a sponsored article by
''.