2025年10月31日(土)、11月1日(日)の週末は、筑波サーキットで年に2度の「絶版車の運動会」こと、テイストofツクバが行なわれました。土曜、日曜という2Day制になって9年目かな、このイベントがスタートしたのが1990年ですから、今年で35年が経ちました。スタート当初は「テイストofフリーランス」って名称でしたね。
写真・文/中村浩史
人気絶頂! 絶版車たちの運動会

コスプレライダーたちのエキシビジョンはRRR80'S。こういうレースもテイストの魅力のひとつです
テイストofツクバっていうのは、平たく言えば「絶版車たちのレース」です。
正確に言えば絶版車だけじゃなくて、現行モデルOKのクラスもあるんですが、メインになるのは「鉄フレーム+空冷エンジン」のレースっていうのがこのレースの根っこ。スタートした1990年には、世の中はまだレーサーレプリカブームでしたから、そのテのモデルがレースするのは当たり前。でも、それから20年もすれば「あの頃が懐かしいねぇ」なんて、レーサーレプリカ世代のモデルも参加OKになっていきました。

スズキカタナvsカワサキZ これがD.O.B.A.R.モンスター!(写真/2025.5 筑波サーキット)
このレースの象徴は、やはりD.O.B.A.R.モンスター。D.O.B.A.R.=ドーバーとは、Days Of Bike And Rosesの略で、これは1962年製作のアメリカ映画「Days of Wine and Roses」(=酒と薔薇の日々)をモチーフにつけられたもので、あの映画はアルコール依存のカップルの、決して明るくはないストーリーでしたが、バイクびたりの日々、なんて意訳したらよろしいのかな。バイク好きの琴線に触れる、いいタイトルですね。
そのD.O.B.A.R.モンスターは、1980年代初頭の空冷4ストローク車が参加できるクラス。空冷エンジン、鉄フレーム、リア2本サスペンションのオートバイたちが本気でレースをする姿が、この大会のスピリット。カワサキZ、スズキGS/GSX、ホンダCBが1分06秒なんてすさまじいタイムで筑波を駆け抜けるのです。現在の目で見ると、決してサーキット向けではないオートバイでレースをする、という面白さがイイのですね。
D.O.B.A.R.モンスターは大人気を呼び、エントリーも激増。今ではタイムに応じてグループAとグループBに分けられて、毎レースのようにフルグリッドが埋まるクラスとなりましたが、D.O.B.A.R.モンスターからさらに発展して、足回りやキャブレターを交換していい「D.O.B.A.R.モンスターエボリューション」、さらにそれからオリジナルフレームに交換OKの「D.O.B.A.R.スーパーモンスターエボリューション」といったクラスもい派生。そして現在では、D.O.B.A.R.モンスターと2大頂点クラスとして「D.O.B.A.R.ハーキュリーズ」が熱気を帯びています。

奥田選手がライディング、驚速予選タイムをたたき出したOV-43。めっちゃカッコいいけど、このバイクベースはなに?って言われちゃう

予選2番手に入ったOVERレーシングOV-46+松本隆往選手。トリコロールカラーがちょっとホンダ車を思わせます

Z900RSフレームにNinja1000エンジンを積んだRS-ITOH+柳川明選手。シルエットはZ900RS、こーゆーのがイイ!
そのハーキュリーズは、国際ライセンスのライダーも参加できる、なんでもアリのアンリミテッドクラス。ただし、鉄フレームであること、というルールが残っていて、フルチューン水冷エンジン+オリジナルフレームというバケモノたちの宴となっていたのです。たとえば全日本JSB1000クラスの絶対王者こと、中須賀克行選手の駆るYZF-R1のエンジンを、オリジナルで製作した鉄フレームに搭載すれば出場OK、ってことです。
そのハーキュリーズ、2025年秋の大会「Kaguraduki STAGE」で事件が起きました。午前の公式予選、フクダテクニカより参戦した奥田教介選手がポールポジションを獲ったのですが、そのタイムがなんと! コースレコードブレイクで! 0分56秒970!ついにテイストで56秒台のタイムが出てしまいました。マシンはオーヴァーレーシング製のOV-43。オリジナルフレームにカワサキZX-10Rエンジンを搭載したオリジナルマシンです。予選2番手には、同じくオーヴァーレーシング製のOV-46を駆る、オーヴァーレーシングの松本隆往選手、3番手にはガレージ414&WoodStockの光元康次郎選手。スーパーチャージャーのNinjaH2Rをライディングします。
そして2列目には予選4番手・國川浩道選手&イエローコーンYC-09RB、5番手に加賀山就臣選手&チームカガヤマ鐵隼、6番手に新庄雅浩選手&オートボーイZRX1200S。カワサキ車がフロントロー独占で、スーパーチャージャーH2Rを除いては、最新スーパースポーツのエンジン+オリジナルフレームのオーヴァー車が予選1-2を占めました。しかし、この前2列のマシンを見ても、バイクの原形がわかるのはH2R/鐵隼/ZRXで、最新SSエンジン+オリジナルフレームは、原形が分からないです。

加賀山+鐵隼がリード、新庄ZRXが追うのが最新SSエンジン+オリジナルフレーム車
決勝レースでは、予選5番手の加賀山選手がさすがのロケットスタートを見せてホールショットを奪取。それに奥野、松本、國川、新庄、そして予選3列目8番手スタートの宇川選手が続きます。宇川とは、もちろんあの元MotoGPライダーの宇川徹さんです。ハーキュリーズと混走だけど、マシンはオリジナルシルエットを忠実に守ったD.O.B.A.R.スーパーモンスターエボリューションクラス準拠のCB1100R、もちろん空冷エンジンのままで参戦しています。

わざわざ「めっちゃ重い」(加賀山・談)ハヤブサをチョイス 電子制御をカットして走っているそうです

これでもか、ってほどZRXをイジり倒している新庄車 電子制御が装着される以前の車両ですね
加賀山+鐵隼の後ろで松本+OV46と國川+YC09、奥田+OV43や新庄+ZRX、光元+H2Rが2番手争いをする中、5周目あたりから國川がペースを上げて、國川、奥田、松本選手が加賀山選手をかわして順位が安定しかけると、レース中盤を超えたあたりで加賀山選手がブレーキングミスで松本選手に接触して転倒。これでTOP3は國川→奥田→光元の順となってチェッカー。ZX-10Rという最新SSエンジンを積んだオリジナルフレームマシンが1-2フィニッシュを飾りました。國川選手はこれで5月の大会に続いて2連勝。春の大会では2位に松本選手が入りましたから、これでSSエンジン+オリジナルフレーム車は4連勝。23年秋の大会で加賀山+鐵隼が勝って以来、この先も勝ちが続きそうです。

國川+イエローコーンを最後の最後まで追い詰めた奥田+フクダテクニカOV-43

ZX-10Rエンジンを積むイエローコーンYC-09RBを駆る國川浩道選手。春に続いての2連勝!

フクダテクニカによるOV-43を駆る奥田教介選手。現在は世界耐久チーム・チームエトワールの一員です
「ちょっと、もうZRXじゃ太刀打ちできません。僕以外、スタート時にはローンチコントロールの音が響いてるし……。筑波さん、もうあのへん(SSエンジン+オリジナルフレーム車)は別クラスにしてくんないかなぁ!」と、表彰台で冗談のように漏らしたのは新庄選手。これ、決して冗談に聞こえなかったのです。
オーヴァー製OV-43(ZX-10RRエンジン)とOV-46(CBR1000RR-Rエンジン)、それにイエローコーン製のYC-09RB(ZX-10R)のことを悪く言うつもりは全くありません。この3台や、ほかのSSエンジン+オリジナルフレーム車は、きちんと現在のルールに則ってマシンを製作して参戦しているし、絶版車たちの真剣勝負の運動会とはいえ、レースなんだから勝つためにやっている。勝つためには、速いライダーに速いマシンを供給するのがセオリーだからです。

オリジナルフレーム+油冷エンジンでもカタナのシルエットをキープする、行方知基選手+レーシングチーム刀鍛冶
そこで、なんですけど、たとえばかつてのAMAスーパーバイクのレギュレーションのように「ノーマルシルエットを崩さない」というレギュレーションを、ハーキュリーズにも導入したらどうでしょう。
たとえばチームカガヤマの「鐵隼」は、あえて隼のエンジンを使用してオリジナルフレームを作り、誰もがハヤブサのシルエットと分かるスタイリングに仕上げています。そういえば加賀山選手は、この鐵隼の前には、GSX-R1000Rのエンジンを使用するも、カタナのメインフレームを生かして、カタナのシルエットと分かるスタイリングに仕上げていました。
コレですよ、コレ。
加賀山選手だってただ勝つためなら、GSX-R1000Rのエンジンをオリジナルフレームに積んで出場すればいいのに、わざわざデカい隼や、スズキの象徴ともいえるカタナのスタイリングを守っているのです。
また、新庄選手の言う「SSエンジン+オリジナルフレーム車」が、明らかに新庄選手のZRXとは年代が違いすぎるのも気がかりです。どちらがいい悪いではなく、やはりハーキュリーズを見に来るファンは、新庄ZRXと山根NINJA、松田1000RXの時代のような「ちょっとサーキットにはそぐわないだろこのバイク」たちがオニのようなレーシングスピードでスッ飛んでいく戦いが見たいのではないだろうかと思うのです。

ハーキュリーズ混走のスーパーモンスターエヴォリューション準拠の宇川徹CB1100R 空冷+鉄フレームの最高峰です
たとえば、ブリティッシュスーパーバイクのように、電子制御の一切をキャンセルする、キャブレターもインジェクションもリストリクターで吸入口径制限をする、国際ライセンスのライダーは600ccエンジンまでにする…なんてレギュレーションを加えるのもいいのではないか、とかね。
テイストofツクバが大好きで取材に通っている一人としては「こんなんじゃ速くて当たり前じゃん」という声を聴くのが一番つらいのです。
いまや外国人にも人気で、海外のファンもYouTubeで見ているテイストを、ずっとずっと持続可能なレースイベントにしていくために、こんなアイデアはいかがでしょう。この声、届くかな。
写真・文/中村浩史

