1962年の「This is HONDA」という記録映像は、スーパーカブ(C100系)生産現場や、研究所での開発現場の様子を記録したとても貴重な作品です。YouTubeに2023年11月より公開されているので、ものづくりに関心のある人はぜひ観ることをオススメします。ところでこの映像のなかに、非常に気になるモノが映っているのですが、コレは何なのでしょうか?
文:宮﨑健太郎(ロレンス編集部)
※この記事はウェブサイト「ロレンス」で2025年5月23日に公開されたものを一部編集し転載しています。

ホンダが名実ともに世界ナンバー1になったばかりの時代の、貴重な映像です

「This is HONDA」は、最高の2輪車を世界中に届けるため、当時のホンダがどのようなことをしているのか? を収録した記録映像です。創業者の本田宗一郎、技術者たち、そして生産現場の工員たちが、いきいきと働く様子がおさめられています。

古いオートバイには興味ないよ・・・という人でも、どのようにオートバイというものが作られているのか、子供のころの社会科見学気分で知ることができますので、ぜひ一見することをお勧めします。なお映像のトータル時間は34分36秒になります。

画像: 研究所のひとこま。左は本田宗一郎氏です。 www.youtube.com

研究所のひとこま。左は本田宗一郎氏です。

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画像: 輸出仕様のホンダスーパーカブのテスト中の様子。ローラーで両輪を回転させるとともに、前後サスペンションを上下させています。耐久性をチェックしているわけですね。 www.youtube.com

輸出仕様のホンダスーパーカブのテスト中の様子。ローラーで両輪を回転させるとともに、前後サスペンションを上下させています。耐久性をチェックしているわけですね。

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画像: 鍛造されたスーパーカブ用コンロッド。大端部にツメ状の突起があるのがわかるでしょうか? 当時の50/55ccのOHVのスーパーカブは、オイルポンプを持たないユニークな構造でした。このツメはクランクシャフトの回転によってクランクケース内のオイルをひっかけ、かけ上げるために付いていたのです。 www.youtube.com

鍛造されたスーパーカブ用コンロッド。大端部にツメ状の突起があるのがわかるでしょうか? 当時の50/55ccのOHVのスーパーカブは、オイルポンプを持たないユニークな構造でした。このツメはクランクシャフトの回転によってクランクケース内のオイルをひっかけ、かけ上げるために付いていたのです。

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画像: (おそらく)1961年の世界ロードレースGP(現MotoGP)250ccクラスを席巻した、空冷4気筒DOHC4バルブエンジンを搭載するRC162。このころのホンダGPマシンのフェアリングは、アルミ叩き出しで作られていました。シート後ろに載る機器は、テレメーターテスト用の送信機です。 www.youtube.com

(おそらく)1961年の世界ロードレースGP(現MotoGP)250ccクラスを席巻した、空冷4気筒DOHC4バルブエンジンを搭載するRC162。このころのホンダGPマシンのフェアリングは、アルミ叩き出しで作られていました。シート後ろに載る機器は、テレメーターテスト用の送信機です。

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画像: 昼休みの社食の光景。カレーうどんではないということは、金曜日撮影というワケではない・・・のかな?(笑)。 www.youtube.com

昼休みの社食の光景。カレーうどんではないということは、金曜日撮影というワケではない・・・のかな?(笑)。

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映っているモノから、ホンダは何を学んだのでしょうか? 気になりますね

上述のとおり「This is HONDA」がホンダ公式YouTubeチャンネルに公開されたのは2023年のことなのですが、実は私2008年にはすでにこの映像を見ていました。かつてホンダは「POLEPOSITION movie」という社内/ディーラー店向けの、定期発行の広報ドキュメンタリDVDを配布しており、その2008年8月号のDVDに「This is HONDA」が収録されていたのです。

アタマおかしいレベル(褒め言葉)のホンダファンの友人は、「これ、ヤバいモノ映っているから見て!」といって当時そのDVDを私に手渡してくれました。「This is HONDA」の6分13秒あたり、当時の研究所内のシーンが映し出されるのですが、その画面中心の向かってやや右に、謎のモノがあると彼はいったのです。

画像: 研究所で働く開発者たち・・・。手前のテーブルには50cc単気筒DOHC4バルブのRC110/111のエンジン(もしかしたら市販レーサーのCR110かも?)、そしてその横にはシリンダー直立の単気筒エンジンらしきものが・・・? www.youtube.com

研究所で働く開発者たち・・・。手前のテーブルには50cc単気筒DOHC4バルブのRC110/111のエンジン(もしかしたら市販レーサーのCR110かも?)、そしてその横にはシリンダー直立の単気筒エンジンらしきものが・・・?

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画像: 上のスクリーンショットをちょっと拡大してみました。解像度が低いのではっきりしたことはわからないですが、9枚のスパーギアを使ったカムギアトレイン機構を持つ、MVアグスタのGPマシン、125ビアルベロっぽくも見えます? www.youtube.com

上のスクリーンショットをちょっと拡大してみました。解像度が低いのではっきりしたことはわからないですが、9枚のスパーギアを使ったカムギアトレイン機構を持つ、MVアグスタのGPマシン、125ビアルベロっぽくも見えます?

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室内全体を映すための引いた画面で、対象に寄った画面ではないのでハッキリしたことはわからないのですが、カムギアトレイン機構、クランクケース前のマグネトーらしきもの、そして右側のドライブスプロケットらしきもの・・・から友人は、これはきっとホンダが研究用に入手したMVアグスタ125ビアルベロのエンジンに違いない!! と推理しました。

画像: MVアグスタのGP用125ビアルベロは、1950年から活躍したDOHC2バルブ単気筒搭載車です。1960年までの間、さまざまな改良が与えられるとともに、上のクラス用に排気量アップ版などのバリエーションが登場しています(写真は1953年型)。 upload.wikimedia.org

MVアグスタのGP用125ビアルベロは、1950年から活躍したDOHC2バルブ単気筒搭載車です。1960年までの間、さまざまな改良が与えられるとともに、上のクラス用に排気量アップ版などのバリエーションが登場しています(写真は1953年型)。

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なお、今までホンダが公表している記録のなかで、1950年代にホンダがGPレーサー開発の研究用に購入したと明記されているのは、1956年購入のNSUスポーツマックスと1957年購入のF.B.モンディアル125ビアルベロの2機種です。

ホンダはNSUスポーツマックスからロードレースに適した高速型マフラーの作り方を、そしてモンディアルからはディフューザーによる排気管内圧力波の効果を学びました。この映像に映るのが友人の推理どおりMVアグスタ125ビアルベロならば(または、カムギアトレインを採用するほかメーカーのレーシングエンジン)、ホンダはベベルシャフト方式ではない、スパーギアによるカムギアトレイン研究のために入手したのかもしれませんね?

ホンダ創業者の本田宗一郎が事あるごとに「真似をするな」と言ってたのは有名な話ですが、それは先人の優れた知恵や技術を学ぶな、ということとは同義ではありません。ロードレースの分野で、ホンダは「This is HONDA」が作られた1962年の前年には、世界で最も独創的かつ卓越した4ストロークエンジンを作るようになっていました。1950年代に偉大な成績をおさめたNSU、モンディアルなどに学び、そのアウトプットとして1960年代の黄金期をホンダは築いたのです。

もっとも、「This is HONDA」に映るモノ・・・に関する私と友人の推理が、単なる妄想 or 錯覚の可能性は否定できないですけど(苦笑)。ともあれアタマおかしいレベル(自虐)の視点でなくても「This is HONDA」は楽しめる映像なので、繰り返しになりますが皆さんぜひご覧になってください。

画像: This is HONDA(1962年) www.youtube.com

This is HONDA(1962年)

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文:宮﨑健太郎(ロレンス編集部)

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