SBMC(スワッパブルバッテリーモーターサイクルコンソーシアム)はホンダ、ヤマハ、KTM、ピアッジオをチャーターメンバーに、電動スクーターなどに使われる交換式バッテリーのコンソーシアムとして2021年9月に創設されました。しかし現在、SBMCの公式サイトを見てみると、設立後加わったカワサキとスズキ含む日本の4メーカーの名が、「SBMC全メンバーの概要」の一覧のなかに存在しないことがわかります・・・。
文:宮﨑健太郎(ロレンス編集部)
※この記事はウェブサイト「ロレンス」で2025年5月6日に公開されたものを一部編集し転載しています。

そもそもSBMCって、どんなコンソーシアムでしたっけ?

GoStationというバッテリー交換ステーションによって、電動スクーターの航続距離の問題を解消しようという台湾のGogoroのソリューションがサービス開始をしたのが2015年・・・。その後、同社の成功を受けて同じようなソリューションを作る試みが各地域で行われました。台湾のキムコによるアイオネックスや、日本のホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキ、エネオスHDによるGachacoなどが、それらフォロワーの代表例です。

アイオネックスやGachacoについては過去にLawrenceでも幾度か記事を紹介していますので、2輪EVに関心ある方の多くはご存知と思いますが、実のところ現状のバッテリー交換ステーションビジネスは、それら事業者以外にも多くが世界に乱立しています。そしてスペインのアクシオナ、ドイツのスウォビ、インドネシアのスワップ、インドのサン モビリティなどなど、これらバッテリー交換ステーション事業者はそれぞれ、独自規格の交換式バッテリーを使用しています。

2021年に設立されたSBMCは、交換可能なバッテリーシステムの共通技術仕様の策定、バッテリーシステムの共通利用方法の確認、コンソーシアムの共通仕様を欧州および国際的な標準化団体で標準化および推進、コンソーシアムの共通仕様をグローバルに展開・・・という4つの課題を最初に設定しました。

画像: 2021年9月、本田技研工業株式会社、KTM F&E GmbH, Ltd.、ピアッジオグループ、ヤマハ発動機株式会社の4社は、同年3月の「意向書」の締結に続き、"SBMC"=スワッパブル バッテリーズ モーターサイクル コンソーシアムの設立に向けた合意書に正式に署名しました。 hondanews.eu

2021年9月、本田技研工業株式会社、KTM F&E GmbH, Ltd.、ピアッジオグループ、ヤマハ発動機株式会社の4社は、同年3月の「意向書」の締結に続き、"SBMC"=スワッパブル バッテリーズ モーターサイクル コンソーシアムの設立に向けた合意書に正式に署名しました。

hondanews.eu

現在のコアメンバーは、ピアッジオとフォーシー パワーの2社です・・・

例としては世界中に普及している「乾電池」のような電動スクーター含む小型モビリティ用交換式バッテリーの「共通規格」が誕生すれば、その規格に準じた電動2輪車がSBMCの各社から作られるようになり、それらのユーザーはSBMC規格のバッテリー交換ステーションを等しく利用できるようになります。

2022年には、スズキやカワサキといった日本勢、そして中国のNIU、米国のポラリス、台湾のキムコなどがSBMCに加わり、参画企業数が4から21へ増加。2023年にはSBMCの交換式バッテリーのプロトタイプが登場し、ペースはゆっくりなものの、共通規格策定の歩みが進んでいることをうかがわせました。一方、プロトタイプ公開時にKTMはコアメンバーを外れてレギュラーメンバーに降格し、代わりに仏のバッテリーメーカーであるフォーシー パワーが新しいコアメンバーになるという動きもありました。

2023年公表のSBMC交換式バッテリーのプロトタイプ。残念ながら、公開されたプロトタイプのスペックについては明らかにされることはありませんでした。

www.sb-mc.net

SBMCのメンバー構成が大きく変化し、どうも雲行きがあやしくなったと感じさせられるようになったのは2024年以降でした。英のトライアンフ、KTMと協力関係にある中国のCFモト、そして中国のNIUがSBMCを去ったのです。さらに中国のセグウェイ - ナインボット、チャーターメンバーかつコアメンバーだったホンダとヤマハ、そしてカワサキの名がSBMCメンバーのリストから消えました・・・。

画像: 2025年5月1日時点の、SBMC公式サイトに掲載されたメンバーの一覧。年初には日本勢では唯一スズキの名が残っていましたが、他の日本メーカー同様スズキも今は撤退済みです。なおかつて政府、研究機関、学術機関などが該当するアソシエイツメンバー(最下段のアイコン群が該当)として、SBMCに加わっていたJAMA(一般社団法人日本自動車工業会)の名前もなくなっております。 www.sb-mc.net

2025年5月1日時点の、SBMC公式サイトに掲載されたメンバーの一覧。年初には日本勢では唯一スズキの名が残っていましたが、他の日本メーカー同様スズキも今は撤退済みです。なおかつて政府、研究機関、学術機関などが該当するアソシエイツメンバー(最下段のアイコン群が該当)として、SBMCに加わっていたJAMA(一般社団法人日本自動車工業会)の名前もなくなっております。

www.sb-mc.net

交換式バッテリー戦国時代が終わるのは、2030年代のことになるのでしょうか?

SBMCからも脱退した各企業からも公式なステートメントが出ていないため、SBMC構成メンバーの様変わりについては理由が不明です。ゆえに以下はあくまで推察になりますが、日本勢が撤退したのはSBMCの「歩みの遅さ」はとても看過できないものだった・・・のかもしれません。

国内コンソーシアムであるGachacoにも、基本仕様が採用されている「Honda Mobile Power Pack e:」(以下HMPPe:)関連技術を作ったホンダは、2050年に関わるすべての製品と企業活動全体を通じてカーボンニュートラルを実現するという目標を掲げ、2040年代には全2輪製品のカーボンニュートラル達成、そして2030年までにグローバルで電動モデル30機種投入・・・という計画を立てています。

画像: 2025年発売予定として昨秋公開された、ホンダ初のスポーツモデルの2輪EVである「EV Fun Concept」。交換式の「Honda Mobile Power Pack e:(モバイルパワーパックイー)」ではなく、車体固定式バッテリーを採用する初のホンダ製2輪EVでもあります。 global.honda

2025年発売予定として昨秋公開された、ホンダ初のスポーツモデルの2輪EVである「EV Fun Concept」。交換式の「Honda Mobile Power Pack e:(モバイルパワーパックイー)」ではなく、車体固定式バッテリーを採用する初のホンダ製2輪EVでもあります。

global.honda

「2030年までにグローバルで電動モデル30機種投入」という目標の30機種の内訳の、大きな部分を占めるのはスポーツモデルよりも安価であろう、コミューターの電動スクーターでしょう。電動スクーターの中には車体固定式バッテリーを採用するモデルもあるでしょうが、ほとんどは交換式バッテリーを使うことが予想されます。

HMPPe:という交換式バッテリーを持っているホンダにとって、SBMCの交換式バッテリーの規格がなかなか決まらないことは、電動スクーターや小型電動モーターサイクルを開発することの障害になっていたはずです。2024年を電動2輪車のグローバル展開元年、2026年までを市場参入期、そして2026年以降を事業拡大期と位置付けているホンダにとっては、昨年の時点でこれ以上待てないというのが本音だったのではないでしょうか(これも、あくまで推察です)。

現時点でSBMCメンバーとして残っている2輪メーカーはピアッジオ、KTM、そしてキムコの3社のみですが、はたして将来登場するであろうSBMCの交換式バッテリーをこれら3メーカーが使うことになるのでしょうか? HMPPe:を持つホンダ同様、キムコはアイオネックスをすでに実用化しており、台湾で多くの交換ステーションを運用しています。やはり独自路線を進む!とキムコが判断し、SBMCを去るというシナリオは十分ありえるでしょう。

SBMCが設立当初描いた「統一規格」という理想は、チャーターメンバーのホンダやヤマハが抜け、そのほか多くのメジャーメーカーも抜けてしまった今、瓦解してしまったといえるでしょう。しばらくは現状同様、交換式バッテリーの覇権争いが各勢力の間で繰り広げられ、一番多くのユーザーの支持を集めたブランドがデファクトスタンダードとなり、結果として統一が果たされる流れになるのかもしれません。

それが早くて2030年代、遅くても2040年代の出来事になるのかどうかは、今後の電池技術の発展や不透明な世界経済情勢などから予想が難しいですが、その日のおとずれまで世界の交換式バッテリーを使う2輪EVユーザーたちは、各勢力の思惑に振り回されて、どの製品を選べば良いのか悩まされることになるのは・・・確実でしょう。

文:宮﨑健太郎(ロレンス編集部)

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