バイクに少しでも詳しい人なら必ず重要視しているタイヤの空気圧設定。好みや考えによって、大きく主張が変わるテーマともいえるでしょう。この記事では、ベテランテスター・太田安治氏が長年の経験のなかで、分かったことや体感してきたことを綴っていきます。空気圧に関して「どうしたらいいのか分からない」という方もぜひご覧ください!
以下、文:太田安治

空気圧の単位の移り変わり

画像: ▲ホンダ・CB400SFの空気圧ラベル。

▲ホンダ・CB400SFの空気圧ラベル。

オートバイのチェーンカバーやスイングアームあたりには数字が書かれた地味なラベル(ステッカー)が貼られています。これは車両メーカーが指定するタイヤ空気圧の値です。

日本国内での空気圧単位は長らくkgf(キログラムフォース)/cm2でしたが、1999年に新計量法が策定されてからはkPa(キロパスカル)が使われるようになりました。1kgf/cm2は98.0665kPaなので、kgf表記を100倍すればほぼkPaの数値になります。「2.5kgf/cm2」なら「約250kPa」ということです。このほかにアメリカでは『PSi』、ヨーロッパでは『bar』表記も使われています。

画像: ▲BMW・F850GSの空気圧ラベル。一人乗りと荷物積載時やタンデムで異なる数値が指定されています。数値の左側はkgf表記、右側はPSI表記。

▲BMW・F850GSの空気圧ラベル。一人乗りと荷物積載時やタンデムで異なる数値が指定されています。数値の左側はkgf表記、右側はPSI表記。

指定空気圧とは

車両メーカー、タイヤメーカーは「公道走行においては必ず車両指定の空気圧を守ってください」とアナウンスしています。

空気圧についてはSNSや動画で採り上げられることも多く、「メーカーが決めているのだから指定値が絶対に正しい」というものから、「指定値より高くした方がハンドリングが軽くなり、燃費も上がる」とか「指定値より低くするとグリップが上がって乗り心地も良くなる」まで、さまざまな意見があり、どれを信じればいいのか悩む人も多いでしょう。

空気圧ラベルには新車時に装着されているタイヤ(OEMタイヤ)のサイズと指定空気圧が記されています。これはタイヤの性能と安全性を保証するための数値です。例えば1000ccクラスのロードスポーツの後輪に使われることが多い190/50ZR17というサイズでは、290kPaの空気圧を与えることで最高速度270キロ超の高速耐久性と365kgまでの負荷荷重容量を許容するということです。

画像: ▲まずは指定空気圧のフィーリングを体で覚えること。しっかりした空気圧計を使うことが重要です。

▲まずは指定空気圧のフィーリングを体で覚えること。しっかりした空気圧計を使うことが重要です。

指定空気圧を遵守するべきか否か|太田安治の私見

画像: ▲カワサキ・ニンジャ1000でミシュラン「パワー5」をテストしたときのヒトコマ。 www.autoby.jp

▲カワサキ・ニンジャ1000でミシュラン「パワー5」をテストしたときのヒトコマ。

www.autoby.jp

さて、ここからは過去40年間に国内外の多くのタイヤをテストし、発表会、試乗会でタイヤメーカーの技術者やテストライダーから「本音」も聞いている僕の私見です。

数年前になりますが、空気圧を指定値、指定値+50%、指定値-50%と極端に変えて公道ツーリングペースで比較テストしました。

+50%では明らかにハンドリングが軽くなるものの、グリップ感が下がり、衝撃吸収性が落ちて乗り心地も悪化。燃費はほとんど変わりません。峠道をツーリングペースで約30km走行後にトレッド面を触るとセンター部分だけが異常に発熱していたので、耐摩耗性には悪影響があるでしょう。

逆に-50%では乗り心地が良くなるどころか、路面に粘り付くような重いハンドリングで直進性も悪化。まともに走れないどころか、タイヤのビードがリムから外れて転倒してしまうのではないかとヒヤヒヤしました。

画像: ▲空気圧は路面温度や走行状態によって刻々と変化するもの。適正値を探るためには内圧と内部温度をリアルタイム表示してくれるTPMS(タイヤ空気圧監視システム)が大いに役立ちます。

▲空気圧は路面温度や走行状態によって刻々と変化するもの。適正値を探るためには内圧と内部温度をリアルタイム表示してくれるTPMS(タイヤ空気圧監視システム)が大いに役立ちます。

僕は自分のオートバイに空気圧モニターを付けていて、内圧による乗り心地やグリップ力、旋回性の変化や、冷間(走行前のタイヤが冷えているとき)と温間(走行によってタイヤが暖まったとき)で内圧がどう変化するかもチェックしているのですが、こうしたテストや経験を踏まえた僕の見解は、

1.指定値は言い換えればJATMA(日本自動車タイヤ協会)規格に即した最大値
2.ライダーが不満を感じないなら指定値を守ればいい
3.タイヤ本来の性能を発揮するのは指定値ではなく適正値
4.適正値はタイヤ銘柄と車種、使用環境によって異なる

というものです。

1000cc以上の大型ロードスポーツモデルでは、多くが「前輪250kPa・後輪290kPa」という指定です。しかしスーパースポーツモデルのヤマハYZF-R1は車重201kgで、ライダーが体重70kgなら計271kg。対してグランドツアラーのBMW・K1600GTは車重約350kgで、体重70kgのライダーがタンデムすれば計490kg。さらにツーリングで二人分の荷物を積めばあと30kgは増えます。これほど総重量の差があるのに、両車のタイヤサイズと規格は同じです。さらに指定空気圧も同じということに疑問を持ちませんか?

「指定値は最大値」と記したのはこれが理由です。つまり重量車にタンデム+荷物満載で連続超高速走行といった、日本での現実的な走行環境とは異なる過酷な条件下でもタイヤの安全性を担保するための値であり、「そのタイヤが本来持っている快適性やコーナリング性能を活かす適正な数値ではない」と捉えているからです。

参考までに僕が公道での適正値を探る方法を記しておきます。

まず指定値で前後タイヤそれぞれのフィーリングを確認します。主なチェックポイントは直進性、衝撃吸収性、フルブレーキ時とコーナリング初期の手応え、深くバンクしている際のグリップ感と定常円旋回での安定性、バンク中にフロントブレーキを掛けたときの挙動です。

次に指定値より30%ほど下げます。例えばリアタイヤの指定値が290kPaなら200kPa程度に合わせるのです。走行によってタイヤが暖まると内圧は徐々に上がるので、「これくらいがいい」の時にTPMSに表示されている数値を読み取ります。

仮に「240kPaくらいがいい感じ」としましょう。走行による内圧上昇はある程度のところで止まるので、これも仮に270kPaまで上がって落ち着いたとすれば、冷間200kPaが温間270kPaまで上がったのですから、その差は約30%。温間240kPaに落ち着けたいなら、冷間185kPaに調整しておけばいいことになります。

この計算が物理学的に正しいのかどうかは知りません(興味のある人は『シャルルの法則』で検索してください)が、僕はこの方法で冷間の適正値を求めています。

自分のニンジャ1000で12種類以上のタイヤを装着テストした経験から言うと、僕なりの適正値は『温間で指定値と同等か、少し低い数値』になることがほとんどでした。

もちろんこの値はタイヤ銘柄によって変わります。大雑把にいうと冷間で前輪で±0から-15%、後輪で-15%から-35%の間です。付け加えておくと、日本ブランドのタイヤよりもヨーロッパブランドのタイヤのほうが適正値は低めになる傾向があります。

ただしこれは車重約230kgのニンジャ1000、一人乗り、積載荷物は10kg程度、市街地と公道を快適に流すペース、という条件でのこと。もっと車重がある車種、荷物満載やタンデム走行ではマイナス幅が小さくなります。ちなみに現在のタイヤで指定値より高くしてメリットを感じたことは一度もありません。

画像: ▲ニンジャ1000でダンロップ「スポーツマックス ロードスマート4」をテストしたときのヒトコマ。 www.autoby.jp

▲ニンジャ1000でダンロップ「スポーツマックス ロードスマート4」をテストしたときのヒトコマ。

www.autoby.jp

まずは指定値でのフィーリングを体で覚え、乗り心地が硬い、接地感が薄いと感じたら、上記の範囲内で調整してみるのもオートバイを楽しむ一つの方法ではないでしょうか。注意すべきは指定値は冷間時(外気温)の内圧ということです。走行直後や太陽を浴びて暖まっている状態で指定値に合わせると、冷間時は指定値より低くなります。季節の変わり目に急にハンドルリングや乗り心地が変わったように感じたら、空気圧をチェックしてください。

また、夏場と冬場では外気温、路面温度ともに大きな差があるので、僕は夏場は適正値よりやや低め、冬場はやや高めにしています。

ライダーの体重によってサスペンションの設定を変えたり、体格や好みによってレバーやペダルの位置を調整することと同じように、空気圧の調整はオートバイを乗りやすくする一つの手段です。

公道を常識的なペースで走る限り、上記の調整範囲内なら現実的な危険性はなく、違法でもありません。メリットを感じなければ指定値に戻せばいいだけです。

空気圧の管理はタイヤという超重要パーツに対する関心と理解を深め、快適なライディングに繋がる、というのが僕の見解です。

文:太田安治

画像: 「公道でのタイヤの空気圧」について考える【5000台のバイクに試乗したテスター太田の雑学コラム】

太田安治(おおた やすはる)

1957年、東京都生まれ。元ロードレース国際A級ライダーで、全日本ロードレースチーム監督、自動車専門学校講師、オートバイ用品開発などの活動と並行し、45年に渡って月刊『オートバイ』誌をメインにインプレッションや性能テストなどを担当。試乗したオートバイは5000台を超える。現在の愛車はBMW「S 1000 R」ほか。

画像: 精度? 値段? 梅本まどか「バイク用エアゲージ」を選ぶ!【梅本3択 vol.1】 youtu.be

精度? 値段? 梅本まどか「バイク用エアゲージ」を選ぶ!【梅本3択 vol.1】

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