まとめ:オートバイ編集部
ホンダの未来
当時、話を伺った方々(社名及び肩書も当時)
本田技研工業株式会社 中村良夫 取締役 / 株式会社 本田技術研究所 渡辺嘉徳 主任研究員
ロータリーエンジンは2輪用にはメリットはない
現在のレベルでは(排出ガス問題について)4ストロークの方が有利であるということはいえます。HC(ハイドロカーボン)は2ストロークの方が多く出すということであって、将来さらに排出ガス規制が強まったとき、どちらが有利かということについては、やはり一概にはいえないようですね。
国内については、現在のところ750ccで一線を引いていますので、それ以上のマシンの、出現の可能性はないと思います。これは私(中村)個人の意見として聞いていただきたいのですが、オートバイにとって、ロータリー(エンジン)にする技術的必然性があまりないです。ロータリーの場合、排気量の小さいエンジンほど、技術的に難しい問題を抱えているといわれています。
例えば耐久性の点であるとか、燃費の点についてです。一部のマーケットはあるでしょうけど、オートバイの主流をロータリーが占めるということは、まずありえないと思います。オートバイの世界の主流を占めていくのはレシプロでしょう。
ヨーロッパなどでは、再びホンダがGPに復帰するなど噂されていますが、そういうことは決してありません。トライアルのTL125については、特殊な用途を持ったマシンだと思いますが、それなりに手応えはあったと思っています。バイアルス・パークは、地方のディーラーと協力して、少しずつ増やしていこうと考えています。
ヤマハの未来
当時、話を伺った方々(社名及び肩書も当時)
ヤマハ発動機株式会社 内藤 浩 取締役 / 田中大介 第二技術部部長
性能の追求から、大きく流れが変わろうとしている時代
日本に限りますと、ロード車では大排気量車と小排気量車に2分される傾向にあると思います。そして2分化の傾向は、将来的にも続くと思われます。
今年注目されたモノクロスサスペンションですが、オートバイのメカニズムは日夜変わり続けています。性能の追求から、ここに来て排出ガスや騒音などの公害問題、あるいは安全問題という見地から、流れが大きく変わろうとしています。また変わらなければいけないと思います。
トライアルという競技は日本人に向いていると思います。陸上競技に例えれば、ロードレースやモトクロスはトラック競技、対してトライアルは棒高跳びのようなフィールド競技ではないでしょうか? こうした精神的なスポーツは、我々日本人に向いていると思われます。
(ロータリーエンジンのメリットは?)新しいフィーリングが生まれるのではないだろうかということです。従来のレシプロエンジンとは、大いに異なるフィーリングを持つマシンになるはずです。(その開発は)順調に進んでいます。ただ現在はロータリーバイクの歴史が始まったばかりだということですね。冷却の問題であるとか、コンパクトにしなければならないという制約があるわけです。現在ヤマハは、ヤンマーと共同で設立した新会社、日本ロータリーエンジン(株)から、完成エンジンの供給を受けるという形になっています。
スズキの未来
当時、話を伺った方(社名及び肩書も当時)
鈴木自動車工業株式会社 清水正尚 取締役 第二技術部部長
4ストローク開発については考えておりません
オートバイの環境は厳しいといえます。今までの多気筒化、大型化、そして多様拡大といった時代から、安全対策、公害対策の時代に入るのではないでしょうか。
オートバイの本質は、軽快で機動性あふれるところにあると考えられます。今後は必要最低限のものだけを装備した、より人間工学に立脚した方向でオートバイの本質を追求していくべきだと思います。
オートマチックについても、安全対策の点から有効な面もありますし、モトクロッサーにも取り入れられても良いように思いますが…。一刻も気をそらせてはならないとき、シフトするために神経をそらせ、バランスを乱すということもあります。
モーターショーにRX5の呼称で発表いたしましたが、外観的にも変わらずに生産に入ります。ロータリー車は振動といった点でも有利ですし、シリーズ化を図りたいと思っています。
現在まで2ストロークメーカーのスズキとしてきましたし、ロータリーエンジンも構造的には2ストロークエンジンの延長と考えられます。したがってこれからも、2ストロークとロータリーエンジンの二本立てで行きたいと思います。4ストロークエンジン開発については考えておりません。騒音、排気ガスといった問題についても、現在の研究の進み方からみて2ストロークとロータリーで充分カバーできると考えています。
カワサキの未来
当時、話を伺った方々(社名及び肩書も当時)
川崎重工株式会社 単車事業部 高橋鉄郎 技術部長
/ 江川 洸 技術部研究開発班課長 / 川崎芳夫 技術部研究開発班課長 / 村上暢夫 技術部研究開発班課長
/ 山田忠重 技術部研究開発班係長
トライアルモデルは大きな市場があるような気がします
ストリートモデルはエンジン特性から見て、4ストロークが主流になるでしょう。排出ガス対策も2ストロークに比べて、やりやすいですからね。オフロードモデルは、やはり性能面から見て2ストロークが生き残ると思います。近い将来のオフロードの分野では、トライアルのカテゴリーに入るマシンが人気を得るでしょうね。
ユーザーの希望というよりも公害問題、特に排出ガスの面で、COは2ストロークと変わりないが、HCは4ストロークが有利ですから、主力となるロードモデルは4ストロークでいきたいと考えるわけです。公害・安全対策のレギュレーションにより、規制されることにより変化していく、ということですね。
(ロータリーエンジンについて)もちろん研究はしています。ただ、レシプロに変わるメリットみたいなものを出せなかったらつまらないので、そのあたりを注意しています。営業サイドから見ても、国内外でZシリーズの人気が高いときに、あえて他に目を向けさせなくてもいいんじゃないかと判断しています。マイルドでスムーズな乗り味が特に必要とされる状況があるならともかく、現在はロータリーの開発は決して急ぎません。
トライアルモデルはモトクロッサーやロードレーサーなどに比べて誰でも乗れるし、大きなマーケットがあるような気がします。トライアルファンも多くなると思います。
まとめ・2023年にこれを読んで思うこと
真剣に技術に向き合う開発者たちの志は今も昔も変わらず
戦後から急速に発展した日本の2輪産業は、1960年代のうちに質・量ともに世界のトップに上り詰めた。そして1970年代に入ると、日本の4大メーカーはナナハン(750cc)のメジャー化、暴走族や交通事故増の社会問題化、そしてオイルショックなどの難問群に直面することになる。ロータリー(バンケル)エンジンや、新しいモータースポーツとしてトライアルに注目が集まったのも、1970年代前半のことであった。
当時の技術者の人たちはそんな難しい変革期に、次の時代の「正解」を求めて様々なことを考え、近い未来の展望を描いていたことが、これら談話の要約からはうかがえる。ほぼ展望どおりになったこと、または別の結果になったこともあるが、当時の人々からすれば「未来人」にあたる私たちが、それを軽く論じるのは慎むべきだろう。
まとめ:オートバイ編集部