JA07より前の古いカスーパーカブ、いわゆる鉄カブ。自動遠心クラッチをはじめ特長的な機構がたくさんあるんだけど、フロントのボトムリンクサスもそのひとつ。フロントブレーキだけで止まろうとするとピョコッっとフロントが浮き上がる、あれね、そんなボトムリンクサス、実は想像以上に優秀なサスなのよ。あと、ピョコッとさせない使い方も。というわけで今回はボトムリンクのお話。

カブのボトムリンクについて

ボトムリンクとは

ボトムリンク、より詳しく言うならリーディングリンク式ボトムリンクサスペンションというらしい。

画像: ボトムリンクとは

古いカブに採用されてた、特長的なフロントサスペンションで、アンチダイブ(リフト)が特長。

スーパーカブの印象的なポイントだけど、現代のテレスコピック式に慣れた感覚だと、違和感のある人も多いみたいで。でも、実は当時の路面状況や、普及し始めのオートバイという乗り物に対しての間口を広げた、凄いサスなのよ。

ボトムリンクといえばアンチダイブ

操作してて一番印象的なのがアンチダイブ。リフトといっても良いかも。
テレスコピック式のフォークだと、Fブレーキをかけたときにフォークが縮んで前下がりになるよね、あれがダイブ。
カブの場合は、フロントブレーキだけをかけた時はフォークが沈まない。これがアンチダイブ効果。むしろ前が上がる感じなのよね。

こういう感じ。

画像: カブのFブレーキを掛けた時のボトムリンクサスの動き www.youtube.com

カブのFブレーキを掛けた時のボトムリンクサスの動き

www.youtube.com

なんでリフトするかというとこんな感じ。

① Fブレーキをかける。ハブ内のドラムブレーキがホイールに押し付けられる。

②ドラムブレーキパネルは溝によってボトムリンクのアーム(スイングアーム)に接続されてるので、回転しようとするフロントホイールに引っ張られて、スイングアームがアクスルシャフトを中心軸としたフロントホイールの回転方向に移動。

③スイングアームが回転しようとする力によって、スイングアーム終端に接続されたフロントフォークが持ち上げられる。

図でいうと、こう。

画像: ボトムリンクといえばアンチダイブ

これがアンチダイブの理屈ね。

今どきの舗装路面だと、正直この特性が煩わしいときもあるんだけど、これはこれですごく当時の路面状況とかに会ってるシステムだったのよ。そのあたりはまたあとで詳しく。

ボトムリンクはリアのスイングアームと一緒?

ちなみに図を描いてて気づいたんだけど、この構造ってリアのスイングアームと同じ構造なのね。
アーム両端が各々車体とホイールに接続されてて、その間にサスペンションが接続されてる

画像: ボトムリンクはリアのスイングアームと一緒?

ボトムリンクではサスがほぼ中央付近に接続されてるけど、リアのスイングアームはホイール接続部(アクスル)とサスの接続部がかなり近い位置にある。
あと、車体接続部がリアの方がより車体中央に近い。なので同じような挙動とまではいかないかもしれないけど、現象自体は同じになるはず。

実際、古いカブオーナーならわかると思うけど、バックしながらフロントブレーキ掛けてもリフトしないのよ。

ということは、バックしながらリアブレーキかけたらリフトするんじゃないかって気がするよね。

実際にやってみたんだけど、バックしながらリアブレーキ掛けるのがムズくてよくわからなかった。ただ、頑張って勢いつけてやってみたら車体が浮く感触はあった、たぶん。

ボトムリンクのメリット

リーディングリンク式ボトムリンクサスペンションのメリットといえば、まずはコスト。今や主流のテレスコピック式にくらべて、製造コストが低かったらしい。

あとは前述したアンチダイブなんだけど、じゃあアンチダイブだと何が良いのかっていう話よね。
当時の開発経緯とかはわからないんだけど、どうやら走行時の快適性を狙ったものらしいなんて話は聞いたことがある。

この場合は、アンチダイブによりダイブ、つまりピッチングモーションを起こさないというのが、快適性につながってたんじゃないかな。

過去のスーパーカブの広告なんかでは、蕎麦屋の出前的なイメージを打ち出してたりもするように、荷運びの実用車としての側面が強かったはず。
特に左手でおかもち(出前箱)を持ちながら運転していた場合、ダイブする構造では都合が悪かったんじゃないかな。

C100は初期モデルのみアンチリフト付

実際、初期のC100はアンチリフト機構が搭載されてたけど、その後アンチリフト機構がオミットされてる。
アンチリフト機構については後で解説するね。

この記事にある1958年のC100は、アンチリフト機構付き。アンチリフト機構はフォークから出てるアームで判別できるよ。

1960年に稼働した鈴鹿工場の第一号車では、すでにアンチリフト機構は付いてない。

www.autoby.jp

その後のスーパーカブシリーズでは基本的にアンチリフト機構は採用されていない(※)。
コストの問題もあるとは思うけど、敢えてアンチダイブ性を活かしたと考えたくなる。
※1983年以降のスーパーカブ50スーパーカスタムはアンチリフト搭載。同車については後述。

と、いうのも当時の路面状況においてはアンチダイブが有効だったという可能性があるのよ。

当時は未舗装路が多かった

これは、元モトクロスアジアチャンピオンにして、現サスペンションエッヂ代表である鈴木友也さんに教えてもらった見識なんだけど、「C100デビュー当時は、舗装率が今より低く、不整地走行が多かったからじゃないか」という考え方。

実際、C100が発売された1958年には「道路整備緊急措置法」も制定されてるのよね。

じゃあどれくらい舗装率が低かったか調べてみよう。2020年における一般国道の舗装率が99.5%(※)で、こちらは国土交通省の数値だから間違いなさそう。
次に、1958年あたりの一般国道の舗装率をネットで調べてみると、1960年で28.8%(※)なんて数値が出てきた。
※いずれも簡易舗装を含む数値

これら数値を参考にすると、スーパーカブのデビュー時には、一般国道であっても7割近くは未舗装路だったと思われるのね。

ボトムリンクは不整地に強い

さて、自分の経験上だけど、カブで林道をトコトコ走るのって、普通のバイクよりもすごく楽に思えるのよ。

重心が低いとか、車中が軽いとかももちろんあるんだけど、未舗装路だと「あんまり効かなくてリフトするフロントサス」が、意外と気楽なのよ。
上手な人ならそんなこともないのかもだけど、未舗装路でダイブ(ピッチングモーション)を起こすとすると自分の場合すごく怖いのね。特に下り。だけど、カブの場合は下りで焦ってフロント掛けても、突っ張ってくれるから体が落ちる感覚にならない。なので、怖さでパニックを起こさず、割と余裕を持って対応できるのよ。あくまで自分の場合ね。

当時の未舗装路も、土の地面とか砂利だったりだろうから、似たような感じじゃないかな。しかもオカモチを保持しながらの片手運転だと、より効果は大きい気がする。

それともうひとつ、不整地を走ってるとギャップとか穴ぼこがあるじゃん。そういう場面で、フロントホイールが凄く軽く良く動いてくれるのよ。
思うにこれは、テレスコピックよりもバネ下重量が軽いからじゃないかな。

テレスコピックの場合は、フロントのバネ下重量って「Fホイール+ボトムケース」になるけど、カブつまりリーディングリンク式ボトムリンクの場合は「ホイール+ダンパーのシャフト」だけ。

さらにステムに向かってまっすぐ衝撃を受けるテレスコに対して、ボトムリンクはリンクの先端で衝撃を受けるので、外乱に対してバネ下をより軽く速く動かすことが出来てる気もする。

不整地でのフロントの動きはこんな感じ。

もっとホイールに近づいてみると、こう。

画像: 林道でのタイヤの動き www.youtube.com

林道でのタイヤの動き

www.youtube.com

大きなギャップに突っ込んだ経験はないけど、のんびりペースで細かく連続するギャップに対しては、テレスコピックより有利な気がする。少なくとも自分の場合は、ね。

つまり自分みたいにヘタクソでも、未舗装路を安定して走行するのが容易な設計になってる気がする。
少なくとも経験上は、そう。実際、カブで林道いっても、とことこ走る分にはすごく楽だし。

アンチリフト付ボトムリンクについて

さて、お次はテキスト内でもちょこちょこでてきたアンチリフト。C100初期型とかについてたやつね。

ボトムリンクのアンチダイブを抑制するアンチリフト

アンチリフトといえばスーパーカブ50スーパーカスタム。カスタム系なのでライトは四角い。
右側のフォークに取り付けられたアーム、これがアンチリフト機構ね。ブレーキパネルの上部につながってるやつ。

通常のカブだと、スイングアーム(ボトムリンクのアーム)がブレーキパネルに対して溝で固定されてる。でもスーパーカスタムの場合は、スイングアームとその上にあるブレーキトルクリンクによって、ブレーキパネルとフォークが接続されてる。

なのでフロントブレーキを掛けると、「ブレーキトルクリンク(アンチリフト機構のアーム部分)」によって「ブレーキパネルの接続部」が進行方向斜め上に引っ張られる。その結果、アームに引っ張られてフォークが沈むって案配ね。

イメージ的にはスプリンガーフォークとかガーターフォークの動きに近いかも。

画像: ボトムリンクのアンチダイブを抑制するアンチリフト

C100の初期モデルもアンチリフト機構がついてたので、スーパーカブ50スーパーカスタムは、先祖帰りといっても良いのかも。

ボトムリンク(アンチリフト付)を採用したレーサーの一例

このアンチリフト付ボトムリンク、往年のレーサーにも採用されていたのよ。

まずはベンリィCB92スーパースポーツ。第2回全日本モーターサイクル・クラブマンレース(浅間高原)いわゆる浅間火山レースでも大活躍した名車。

画像: 1959年ベンリィCB92SS

1959年ベンリィCB92SS

こちらは市販レーサーモデルであるCR71

画像: CR71

CR71

ホンダがマン島TTレースに初挑戦した記念碑的モデルであるRC142もアンチダイブ付きリーディングリンク式ボトムリンクサスを採用してる。

画像1: ボトムリンク(アンチリフト付)を採用したレーサーの一例
画像2: ボトムリンク(アンチリフト付)を採用したレーサーの一例

ボトムリンクにはトレーリングリンク式も

ちなみに、ちょっと昔のスクーターとかにもボトムリンクは使われてたのよ。リードとか。
ただ、ボトムリンクとはいってもトレーリングリンク式

フロントフォークより前にアクスルシャフトがあるのがリーディング。
逆にフォークより後ろにアクスルシャフトがあるのがトレーリングね。

スーパーカブのリーディング式とは構造が逆なら挙動も逆。
つまり、フロントのみを掛けた時にダイブする。乗ったことある人によると、「かなり激しくダイブする」そうな。

アップでみるとこんな感じ。一番左がフロントフォークで、真ん中の太い棒がサス。で、アクスルシャフトはアームの一番右。キャリパーはサポート介してフロントフォークに接続。スーパーカブとまるっと逆なのね。

画像: cuby.ocnk.net
cuby.ocnk.net

ちなみにこれは「ジャイロキャノピーのブレーキ強化するためにNSR50やリード(AF20系)のパーツを使ってディスク化した」もの。世の中にはまだまだ知らない世界がたくさんあるのね。詳細はコチラ

ボトムリンクの上手な使い方

さて、歴史もあればメリットも多いボトムリンクだけど、正直な話舗装路で普通に走ってるとアンチダイブが乗りにくいよね。

自分の場合なんだけど、まずボトムリンクの構造を間違って認識してせいで、余計に乗りにくかった。なにかっていうと支点の位置を勘違いしてた。
カブのフォークのデザインは非常に美しいんだけど、そのおかげでリンクの位置が認識しづらいのよね。

画像1: 自動遠心クラッチと並ぶ旧カブの特長的装備「ボトムリンク」。なにげに凄いこの機構について、構造や使いこなし、カブ以外にも採用していた名車など、調べてみた。〈若林浩志のスーパー・カブカブ・ダイアリーズ Vol.209〉
画像2: 自動遠心クラッチと並ぶ旧カブの特長的装備「ボトムリンク」。なにげに凄いこの機構について、構造や使いこなし、カブ以外にも採用していた名車など、調べてみた。〈若林浩志のスーパー・カブカブ・ダイアリーズ Vol.209〉

最初は左図のようにフォークの先端に支点があると思ってた。その右のボルトや出っ張りはデザインかな、と。
そのせいで「なんでFブレーキかけてサスがストロークしないのか?」と誤解してたのね。

でも実際には右図のように、フォークの後ろの出っ張った部分がフォーク先端。なので、フォークの形状としては黒い線みたいなイメージ。いやほんとよくできたデザインですよ。

本題であるボトムリンクでのブレーキの上手な使い方。
元モトクロスIAライダーの鈴木友也さんに教えてもらった時の話に尽きるんだけど、まずはこの動画見てみて。大丈夫、30秒しかないから。

画像: FブレーキとRブレーキの動きの違い www.youtube.com

FブレーキとRブレーキの動きの違い

www.youtube.com

フロントだけ掛けるとリフトしてるよね。
でも、リアを先に掛けると、その後にフロントを掛けてもリフトせずにダイブするのよ。

つまり「リアを先に掛ける」ことがボトムリンク使いこなしのポイント。
そう、これってテレスコでも同じなのよ。バイクの基本的操作がボトムリンクでも重要なのね。

ちなみに挙動だけじゃなく制動力に関しても全然違ってくるのよ。
まずはこの動画見てみて。大丈夫、28秒しかないから。

画像: Rブレーキなら急な坂でも止まります。 www.youtube.com

Rブレーキなら急な坂でも止まります。

www.youtube.com

だいぶ上の方で「不整地の下りであわててフロントを掛けてもリフトすることで怖さが少ない」って書いたけど、そもそもリアを先に掛ければ安全かつ制動力も十分に発揮されるのよ。

じゃあなんで、リアを先に掛けるとリフトしないかっていうと、たぶんこういうこと。

画像: ボトムリンクの上手な使い方

リアを先に掛けることで、「フォークを持ち上げる力」よりも「車体を沈める力」が大きくなるってことだと思う。

ちなみに鈴木友也さんによるカブライテクの元記事はこちら。友也さんのライテクはほんと目から鱗だから是非読んで欲しい。

この記事を作るにあたって鈴木友也さんとも色々やり取りしたけど、印象的だったのがこの言葉。

リアを先に使うというのはカブに限らずバイク操作の基本なんです。
バイクが一般に普及する大きな原動力となったスーパーカブですが、リアブレーキ操作が非常に重要な構造になっているのは、バイク操作の基本も普及させてきたのかもしれませんね

ボトムリンクに使われているブッシュの劣化に注意

さて、ボトムリンクのスーパーカブは決して新しいバイクではないので、ボトムリンクが劣化してる場合もあるのよ。

具体的には、ボトムリンクのリンクアームにはゴムブッシュが使われてる。で、こいつがゴムなんで当然いつかは劣化するわけ。劣化するとガタが出て、性能を発揮できなくなっちゃう。
ほっといても直らないのでブッシュ交換をオススメ。

ちなみに、目安としてフロントホイールを左右にゆすってガタがあるようだったら、ブッシュ交換すべき。

ボトムリンクを現代のアスファルトでも活用するならスタビリティスプリング

最後はボトムリンクサスの強化。

リアを使えばボトムリンクでもものすごく乗りやすくなる。でも、もっともっと使いやすくしたい人には、コレ。M&Fカビィのスタビリティースプリング。

これはバネだけ。

こっちはフロントサス一式。バネ交換は敷居が高いので、個人的にはこっちがオススメ。ダンパーって経年でキャビテーション起こして動作が悪くなるからね。

さてこのスタビリティースプリング。要するに強化バネ。とはいえ、カブ専門店のM&Fカビィさんが、長年の経験と蓄積から生み出しただけあって、単純にスプリングレートが高いだけじゃないらしい。不等ピッチのバランスも変えるなどノウハウがみっしり詰まってる模様。

なんでバネだけで乗りやすくなるかというと、フロント側の車体って、サスを縮ませようとする重力と、サスが伸びようとする力のバランスで立ってるのよ。なので、ここを強化することで基本姿勢がビシッとするって案配ね。

あと、ボトムリンク最大の弱点である「サスストロークの少なさ」という部分を、スプリング強化で補うって意味合いもアリ。

ひとことでいうと「普通に走っててふわふわしなくなる」って感じ。オススメよ。自分も長い事使ってるけど、めっちゃ乗りやすくなるよ。

まとめ

カブのボトムリンクってネガティブなイメージを持つ人もいるかもしれないけど、実は良い部分も凄くあるし、乗りこなしの楽しみもある、実に楽しいサス構造なのよ。
サスとしての容量はテレスコのがもちろん大きいんだけど、ボトムリンクも実に愛すべきサスよ。

レポート:若林浩志

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