文:宮﨑健太郎(ロレンス編集部)
※この記事は「ロレンス」で2023年2月18日に公開されたものを一部編集し転載しています。
日本ではまったくポピュラーではないですが、世界的に人気の競技です
本邦ではフラットトラックの競技というと、アメリカで人気のダートトラックをイメージする人が多いと思います。しかしワールドワイドな視点からすれば、世界で一番ポピュラーなのは「スピードウェイ」になります。
スピードウェイの発祥には(それぞれの国の愛国心の発露もあり?)諸説ありますが、FIM(国際モーターサイクリズム連盟)は1923年の12月15日、豪州のニューサウスウェールズ州での大会が初と定義しており、2023年を100周年のシーズンとしてキャンペーンを展開しています。
スピードウェイの源流は戦前のアメリカで発祥し、豪州、そして英国に伝播していきました。つまりアメリカ流ダートトラックと英国流スピードウェイは同源だったわけですが、後に異なる競技車両の形態、そして異なるライディングスタイルに分化していったのは、とても興味深いところです。
スピードウェイ文化は英国から欧州各国にも伝わり、ポーランドやソ連(現在のロシア)、チェコスロバキアなどの東欧旧共産圏、そしてデンマークやスウェーデンなど北欧諸国で、最も人気のあるスポーツのひとつにまで成長しました。
そして1960年からは、国別対抗戦のスピードウェイ ワールド チーム カップがスタート(2001年からはスピードウェイ ワールド カップ、2018〜2022年はスピードウェイ オブ ネイションズ)。英国、スウェーデン、ポーランド、デンマークなどの主要リーグを運営するスピードウェイ大国のほかにも、世界の24カ国でスピードウェイの大会が定期的に開催されています。
ちなみに日本ではスピードウェイが定着することはありませんでしたが、スピードウェイのコンセプトをベースとする、公営ギャンブルの「オートレース」という独特の文化へ発展していったのは、多くの知るところでしょう。
スピードウェイ大国のひとつ、デンマークで始まる新時代への挑戦
スピードウェイ ワールド チーム カップ時代の40年間で最多の11個の金メダル、そして21世紀に入ってからのスピードウェイ ワールド カップで4個の金メダルを獲得しているデンマークは、スピードウェイ オブ ネイションズでは銅メダル3個にとどまっているものの、世界のスピードウェイ強豪国と目されている国に変わりありません。
デンマークには現在最上級の「ダンスク スピードウェイ リーガ」のほか、様々なレベルのスピードウェイの選手権が数多く運営されています。アンダー21、8〜18歳のユースリーグ、そして3〜10歳のマイクロリーグと、あらゆる若い年齢層のためのリーグがあるというのは、スピードウェイ文化大国デンマークの裾野の広さのあらわれでしょう。
FIMは2022年、最高峰のSGPの下位クラスとしてSGP2(アンダー21)、SGP3(4ストローク250cc単気筒車を使用)を設けました。これらは将来のSGPスターライダーを養成するカテゴリー、という位置付けになりますが、2023年度からはさらに下位のユースカテゴリーとなるSGP4をスタートさせることを決めました(4ストローク190cc単気筒車を使用)。
世界のスピードウェイのユースリーグでは、スカンジナビア半島では2ストローク85cc単気筒車、そのほかは4ストローク125cc単気筒車が使われることが多いのですが、この190cc単気筒が世界のユースリーグの「標準車」にして、SGPを頂点とするピラミッドシステムの最も広い土台を形成することが、FIMの青写真なのでしょう。
このFIMの動きを受けてDMUは、デンマーク国内のユースリーグにこれまで使われてきた2ストローク85cc車のほか、SGP4用4ストローク190cc車の参加を認めました。そしてさらにDMUは、デンマークの高性能電動ドライブトレインなどを開発する企業、「E-レーシング」が製作している電動スピードウェイマシンのユースリーグ参戦についても同時に認可したのです!
DMUは2022年中にSGP4用190cc車のテストを行っており、2ストローク85cc車に比べ低回転域でのトルクが大きくなってエンジンが扱いやすく、スピードウェイ競技で走らせやすくなったことを確認したと述べています。また2ストロークが環境問題の観点から問題視されていることもあり、85cc車を直ちに廃止することはしないものの、次第にユースリーグにおける4ストローク化を進めていくことをDMUは考えていると推察されます。
そして電動車の参加を認めることは、4ストローク車の導入以上に環境対策的に優れていると言えます。また静粛性に優れていること、出力やその特性を調整しやすいこと、そしてガソリン車よりも取り扱いが簡単な電動車は、今までスピードウェイ文化と縁がなかった人々を、この競技に向かわせる効果を期待することができます。
FIM規格のSGP4用4ストローク190cc、そしてE-レーシングの電動スピードウェイ車の動力性能はどれくらいのものか未公表なのでわかりませんが、2ストローク85cc車に搭載されるモトクロッサー用エンジンの最高出力が30ps前後であることから想像するに、電動スピードウェイ車はその数値と同等の出力を有しているのかもしれません。
一方、ゾンシン製と仮定すると最高出力12kWなので、SGP4用4ストローク190ccはアルコール燃料を使うなどかなりチューンしないと、2ストローク85cc車には最高出力では対抗できないと思えますが・・・。また電動車は低回転域で大トルクを発生するモーター特性と、クラッチ操作不要というのが大きなアドバンテージであり、このことは短い周回数・走行距離ゆえにスタートがかなり重要なスピードウェイでは、かなりの武器になるのではないかと思われます。
こちらの動画は、E-レーシングのテスト車両の試走シーンをおさめたものですが、基本全開で爆音というイメージのスピードウェイの走行シーンからすると、拍子抜けするくらいに静かなので、とても不思議な気持ちになります。はたして2023年シーズン、デンマークのユースリーグでE-レーシングの電動スピードウェイマシンがどれだけ活躍するのか・・・注目したいです!
文:宮﨑健太郎(ロレンス編集部)