オートバイの駆動系を支える重要な部品のひとつが「スプロケット」。純正スプロケットとは異なる華やかなカラーリングが受けて、今では人気のカスタムパーツとして認知されている。そこで今回はスプロケットの重要性について掘り下げてみた。
文:オートバイ編集部/写真:関野 温

サンスターのアフターパーツを販売する「国見コマース」

画像: 今回の取材にご協力いただいたのは国美コマース二輪AM事業部 部長マネージングディレクター・炭竈拓也 氏(写真右)、二輪AM事業部業務推進課 次長・菊池 純 氏。

今回の取材にご協力いただいたのは国美コマース二輪AM事業部 部長マネージングディレクター・炭竈拓也 氏(写真右)、二輪AM事業部業務推進課 次長・菊池 純 氏。

「サンスター」と聞くと多くの方が歯磨き粉をイメージするかもしれないが、バイク乗りの間では「スプロケット」を思い浮かべる人も多いだろう。実は歯磨き粉のサンスターとスプロケットのサンスターは同じブランドなのだ。

サンスターは1960年代に二輪用スプロケットの販売をスタート。1970年代に入ると、アメリカのハーレーダビッドソンが純正スプロケットとしてサンスター製を採用したことがきっかけで大量生産を開始した。今ではスズキ「ハヤブサ」にサンスター製スプロケットが純正採用されるなど、多くのバイクメーカーにスプロケットを提供している。

そして「国美コマース」は、今から25年以上前にサンスター製スプロケットとブレーキディスクのアフターマーケット商品のみを日本で販売する会社として創業された。2021年にはバイク用チェーンの販売を開始するなど、活動の幅を広げている。今回は二輪のアフターパーツを扱う国美コマースの方々にスプロケットの話を伺った。

画像: サンスターはスプロケットの他にブレーキディスクも生産している。最新モデルから旧車まで適合するスポーティなデザインが魅力だ。

サンスターはスプロケットの他にブレーキディスクも生産している。最新モデルから旧車まで適合するスポーティなデザインが魅力だ。

【Q&A】スプロケットに関する16の質問・疑問

Q.1 スプロケットはどんな素材でできてるの?

A.超軽量のアルミと耐久性に優れるスチールが主流

スプロケットの素材には、主に「アルミ」と「スチール」が使われているが、この二つは「重量」と「耐久性」が大きく異なる。とくにアルミの比重はスチールの約1/3の軽さしかないので、同じ形状のスプロケットをアルミとスチールで製作した場合、アルミはスチールの1/3の軽さになる。

つまり運動性能が飛躍的に向上するのだ。しかし、耐久性はアルミより、スチールの方が勝る。アルミの耐久性は約1万~2万kmなのに対し、スチールは約2万~4万km程度と倍以上も異なる。

画像: スチール製はアルミより耐久性に優れるが、アルミ製の方がデザイン性に優れ、ドレスアップ効果が高い。

スチール製はアルミより耐久性に優れるが、アルミ製の方がデザイン性に優れ、ドレスアップ効果が高い。


Q.2 前後スプロケットの呼び名を教えて

A.前後とも2パターンの名称で呼ばれることもある

エンジンのカウンターシャフトに装着されるスプロケットを「フロントスプロケット」、そしてリアホイールに装着されているのを「リアスプロケット」と呼ぶ。この他に、フロントスプロケットのことを「ドライブスプロケット」、リアスプロケットのことを「ドリブンスプロケット」と呼ぶこともある。

どちらも正解だが、一般的に「フロントスプロケット」「リアスプロケット」と呼ぶ方が誤解を招きにくい。

画像: 左側の小さい方がフロントスプロケット(ドライブスプロケット)で、右側の大きい方がリアスプロケット(ドリブンスプロケット)。

左側の小さい方がフロントスプロケット(ドライブスプロケット)で、右側の大きい方がリアスプロケット(ドリブンスプロケット)。


Q.3 なぜフロントスプロケットはスチールしかないの?

A.エンジン出力を受け止めるにはアルミでは不十分だから

エンジン出力の大小に関わらず、カウンターシャフトを通してダイレクトにパワーを受け止めるフロントスプロケットには強度が求められる。そしてこれを満たすことができる唯一の材質がスチールなのだ。

ちなみに、フロントとリアのスプロケットに使われるスチールはまったく異なる材質で、フロントスプロケットにはクロムモリブデン鋼、リアスプロケットにはスチール(S45C)が使われている。スチール製スプロケットは強度を増すために、必ず焼き入れをしてから出荷される。

画像: 焼き入れ方法は各社企業秘密で「何度の熱で何秒焼いてから、何秒間かけて冷やす」など、各メーカーが編み出した独自方法で行われる。これ次第で強度が大幅に変わってくるそうだ。

焼き入れ方法は各社企業秘密で「何度の熱で何秒焼いてから、何秒間かけて冷やす」など、各メーカーが編み出した独自方法で行われる。これ次第で強度が大幅に変わってくるそうだ。


Q.4 純正スプロケットはどんな素材を使っているの?

A.純正スプロケットはスチール製を使用する

新車に標準採用されるスプロケットは排気量に関わらず、コストの兼ね合いや耐久性などを考慮してスチール製が装着されている。モトクロスなどのコンペティションモデルにはアルミ製スプロケットが標準採用されることもあるが、公道を走るモデルには例えばリッタースーパースポーツでもスチール製が採用されている。

画像: Q.4 純正スプロケットはどんな素材を使っているの?

Q.5 スプロケットの寿命を教えて

A.スプロケットの寿命はチェーンのメンテナンス次第で変わる

チェーンとスプロケットはとても密接な関係にあるので、スプロケットの寿命を伸ばすにはチェーンのメンテナンスをこまめにすることが大事。具体的には掃除、注油、張り調整など。チェーンの状態が良ければスプロケットは長持ちするし、スプロケットの状態が悪ければチェーンの寿命も短くなる。

「昔のアルミスプロケットはすぐに削れて寿命が短かったけど、最近のアルミスプロケットは耐久性が高くなったね」という話をよく聞くが、これはアルミスプロケットの進化というよりは、チェーンの性能が飛躍的に進化したことが理由なのだ。

画像: ここまで摩耗したスプロケットは、走行中にいつ外れてもおかしくない。チェーンもかなりのダメージを受けている。

ここまで摩耗したスプロケットは、走行中にいつ外れてもおかしくない。チェーンもかなりのダメージを受けている。

画像: 上部のスプロケットはサイドまで削れて、下の新品と比べて厚みがまったく異なっているのがわかる。

上部のスプロケットはサイドまで削れて、下の新品と比べて厚みがまったく異なっているのがわかる。

画像: スプロケットの寿命を伸ばすには、こまめなチェーン清掃しかないので雨天走行後は必ずメンテしよう。

スプロケットの寿命を伸ばすには、こまめなチェーン清掃しかないので雨天走行後は必ずメンテしよう。


Q.6 レース車両はどんな素材のスプロケットを使っているの?

A.Moto2はアルミ製だが一部のMotoGPマシンはチタン製を使用

フロントスプロケットはすべてスチール製を使用するが、リアスプロケットはマシンの排気量によって素材は変わってくる。たとえば250ccクラスや600ccクラスのマシンならリアにアルミ製を使用することが多い。

JSBやST1000ccクラスになるとスチール製を使用するチームがほとんどだが、一部のチームはアルミ製を使っているそう。当然、鈴鹿8耐のような耐久レースはスチール製を使用する。一部のMotoGPマシンはリアにチタン製スプロケットを使っているチームもあるそうだ。

画像: 全日本のJSBチームの中にはアルミスプロケットを使っているチームもあるそうだ。

全日本のJSBチームの中にはアルミスプロケットを使っているチームもあるそうだ。


Q.7 スプロケットは丁数が合えば流用は可能なの?

A.スプロケットは車種専用で開発されている

同じ丁数のスプロケットでも、スプロケットに「ボス」という出っ張りがあるタイプもあれば、チェーンサイズが異なれば厚みも異なるので丁数が合っていればなんでも装着できるというのは間違い。基本的にスプロケットは車種専用品として開発されている。ただしスプロケットのなかには他メーカーのモデルにも使える汎用タイプもあるとのこと。

画像: 写真左側スプロケットの中央に飛び出ている筒のことをボスと呼ぶ。車種専用品を装着しないとチェーンラインも狂ってくる。スプロケット形状はモデルごとに異なるのだ。

写真左側スプロケットの中央に飛び出ている筒のことをボスと呼ぶ。車種専用品を装着しないとチェーンラインも狂ってくる。スプロケット形状はモデルごとに異なるのだ。


Q.8 なぜスプロケットの歯数を“丁”と呼ぶの?

A.英語の「Teeth」の頭文字「T」が由来らしい

一般的にスプロケットの歯数を示す表記として「丁(ちょう)」という漢字が使われる。これは英語のTeeth(歯)の頭文字「T」が漢字の丁に似ていることからこのように表現されるようになったという説が有力だという。当然アメリカでもTが使われている。まれに年配の方で丁ではなく「枚」と表現する方もいるそうだが、一般的ではない。

画像: スプロケットのケースには必ず車種名と丁数が記載されているので自分のバイクに適した商品を必ず買うようにしよう。

スプロケットのケースには必ず車種名と丁数が記載されているので自分のバイクに適した商品を必ず買うようにしよう。


【Short break】

Q.サンスターのNinja ZX-25R専用リアスプロケットは大径50丁でも軽い理由は?

A.大幅に肉抜きした斬新なデザイン。重量は純正品の1/3という軽さ!

250ccクラスで唯一の4気筒エンジンを搭載する、カワサキ「Ninja ZX-25R」。最高出力45馬力を1万5500rpmという高回転域で発生するエンジン特性ゆえに、リアスプロケットは加速を重視した50丁という大きな歯数が採用されている。サンスターは大きくて目立つリアスプロケットにデザイン性と性能を高い次元で両立させたZX-25R専用リアスプロケットを開発した。

素材は純正のスチール製ではなく、アルミを採用したことで約1/3の軽さを実現。表面にハードアルマイトを施し、大胆に肉抜きした形状とシャンパンゴールドが鮮やかさを演出している。税込価格は1万3750円。

カワサキ「Ninja ZX-25R」

画像: Q.8 なぜスプロケットの歯数を“丁”と呼ぶの?
画像: 左はサンスターのNinja ZX-25R専用スプロケット。アルミ製で重量は50丁で320g、右はアルミ製の44丁で440g。いかに肉抜きされているのかがわかる。

左はサンスターのNinja ZX-25R専用スプロケット。アルミ製で重量は50丁で320g、右はアルミ製の44丁で440g。いかに肉抜きされているのかがわかる。

画像: 写真はNinja ZX-25Rのスチール製純正スプロケット。純正品とはいえ、250㏄なのでかなり肉抜きされている。サンスターの専用品はこれの1/3の軽さでデザイン性も優れている。

写真はNinja ZX-25Rのスチール製純正スプロケット。純正品とはいえ、250㏄なのでかなり肉抜きされている。サンスターの専用品はこれの1/3の軽さでデザイン性も優れている。

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