ワークスイーターたちの戦い
TeamHRC→カワサキレーシングチーム(KRT)→ヨシムラSERTの順で決着した2022年の鈴鹿8時間耐久ロードレース。HRCが214周、KRTが213周、ヨシムラSERTが212周と、HRCが全車ラップ遅れとしての圧勝でしたが、4位以下の戦いもすごかった!
自戒を込めて、レース取材記事の悪い癖で、ついつい優勝争い、表彰台争いばっかりに終始しがちなので、後日談シリーズで、表彰台争いをガン無視したレポートをお送りします。表彰台に上ったトップチームは、ほぼワークスチームですから、そこを食ってやる、って思いでレースをするチームのことを「ワークスイーター」って言うんです。ジャイアントキリングですね。
2022年 鈴鹿8時間耐久ロードレースの結果は以下のとおりですが、今回は4位争いのことを。
1 TeamHRC 214周
2 KRT Suzuka8H 213周
3 ヨシムラSERT Motul 212周
4 S-PULSE DREAM レーシング ITEC 210周
5 TOHOレーシング 210周
6 ホンダドリームRT桜井ホンダ 210周
7 YARTヤマハオフィシャルチームEWC 209周
8 Team ATJ with日本郵便 208周
9 TEAM KODAMA 208周
10 F.C.C.TSRホンダフランス 208周
レースは、開始すぐにTSRホンダ、HRC、ヨシムラSERT、KRT、YARTらワークスチームとEWCトップチームによる5台でのトップ集団が形成されて行きました。このあとお話の展開の便宜上、上記の5チームをひっくるめて「フロント5」と表記しますね。
ここに食らいついたのが、オープニングラップをTSR→KRT→HRCに次ぐ4番手で終えた#73 SDGホンダレーシング、5番手で終えた#17 AstemoホンダドリームSIレーシング。
しかし既報のとおり、2周目のスプーンでAstemoホンダの作本輝介が転倒し、そのまま滑っていったマシンがSDGホンダの浦本修充に激突。日本勢のトップ2チームが、開始5分で戦線離脱してしまいました。
かわって上位に進出したのが、予選19番手スタートながら好スタートを切って、2周目には7番手に、10周目には5番手に浮上した#104 TOHOレーシング。清成龍一/國川浩道/國峰啄磨のトリオで、スタートライダーは國峰。國峰は全日本選手権ST1000のライダーで、先の菅生大会でST1000クラス初優勝を飾った24歳が、高橋巧、レオン・ハスラム、グレッグ・ブラック、ジョシュ・フックに食らいついて5番手を走ったんです。
このTOHOレーシングの後方につけたのが#95 エスパルスドリームレーシング。エスパルスは、今シーズン全日本ロードレースにフル参戦しているチームではありませんが、ベテラン生形秀之を中心に、スズキMotoGPマシンのテストライダーである津田拓也が合流し、3人目には今シーズン、フランスに移住して、フランスOGモータースポーツに加入、世界耐久選手権レギュラーライダーである渥美心です。
エスパルスのスタートライダーは津田。ほんの数年前にはヨシムラのエースだったライダーですからね、この位置も納得です。
さらにこのグループに加わったのは#25 ホンダ颯風会鈴鹿レーシングチーム。鈴鹿レーシングは、全日本ロードレースでも台風の目になっている亀井雄大がスタートライダーで、トップ10トライアル進出の予選8番手スタートから、つねにトップ10の位置を走っていました。
この後方に、#50 チームコダマ、#72 桜井ホンダ、#40 チームATJ、それにSSTクラスの#806 NCXXレーシングがつけています。
レースは1時間を経過し、トップグループで真っ先にピットストップに入ったのは27周目の#7 YARTヤマハで、その直前のポジションは①HRC ②KRT ③YART ④ヨシムラSERT ⑤TSRホンダ これがフロント5ですね。
そして⑥鈴鹿レーシング ⑦TOHOレーシング ⑧チームATJ ⑨NCXXレーシング ⑩BMWモトラッドというオーダー。本来ならここにAstemoホンダ、SDGホンダが入っていたはずなんですけど、この両チームは必死にマシン修復を続けています。
30周を超えたあたりでは、フロント5の後方に#95 エスパルス→#104 TOHOレーシング→#25 鈴鹿レーシング→#37 BMWモトラッド #806 NCXXレーシング→#72 桜井ホンダといったオーダーが続きます。しかし、やはり上位チームに鈴鹿の女神がいたずらするもので、50周目前、2回目のライダー交代をあと数周に控えたタイミングで、#25 鈴鹿レーシングの田所隼が1コーナーで激しく転倒。マシンはタテ回転してグラベルを飛び出し、スポンジバリア上に落下。これで鈴鹿レーシングも先頭集団から脱落することになります。
50周を終えた頃には、フロント5の一角、#5 TSRホンダにトラブルが発生し、ピットストップに長時間がかかってしまいます。TSRが19番手まで落ちた52周目には、フロント4がHRC→KRT→YART→ヨシムラというオーダーで、その後方に#37 BMWモトラッド→#40 ATJ→#104 TOHO→#95 エスパルス→#72 桜井ホンダといった順。#40 ATJホンダは、エースライダー岩田悟がレース前の新型コロナウィルス検査で陽性反応が出てしまって出走停止、小山知良/高橋裕紀に、急きょ伊藤和輝を呼び寄せての急造チームなのにこの位置! スゴい!
#5 TSRホンダが後方からの追い上げを強いられている時、TSRを欠く100周目のフロント4の順位はHRC→KRT→YART→ヨシムラ。その後方に#104 TOHO→#95 エスパルス→#50 TEAMコダマ→#72 桜井ホンダ→#40 ATJという順位で、この時間帯は#50 TEAMコダマの躍進が目立ちました。
TEAMコダマは、全日本ロードレースに参戦している児玉勇太が18年に設立、運営を始めたプライベートチームで、九州・宮崎からレースのたびに大遠征。この鈴鹿8耐のために、ペアとして長尾健史&健吾兄弟を呼び寄せての参戦。正直、この位置を走っているの、スゴい!
桜井ホンダは、これも全日本ロードレースでJSB1000クラスを引っ掻き回している濱原颯道のチームを母体に、日浦大治朗/國井勇輝を呼び寄せてチームを結成。複数のライダーが1台のマシンをシェアする鈴鹿8耐では、ライダーの体格差が問題になることは多いもので、全日本きっての大型ライダー濱原はペア選びに苦労するだろうなぁと思いきや、あとふたり大型ライダーを揃えてきました。逆転の発想! 濱原、2019年には伊藤真一/作本輝介とのチームで10位入賞を果たした実績がありますからね。ソードー&コースケの体格差はなかなでした。
その後レースが折り返しの頃には、フロント4の後方は#95 エスパルス、#104 TOHO、#72 桜井ホンダ、#40 ATJ、#50 TEAMコダマの5チームがポジション争いをします。特にエスパルスとTOHOの争いが僅差で、このポジションはまだまだ上位チームに何があるかわからない時間帯で、ワンミスですぐに表彰台争いができる位置ってことです。
150周あたりの時点では、TOHOがエスパルスを抑えて5番手を死守。エスパルスが生形、TOHOが國峰、桜井ホンダが濱原、コダマが児玉、ATJが高橋のスティントあたりで順位が固定し始め、183周目にエスパルス津田が、國峰から清成にライダーチェンジしたTOHOを逆転して5番手へ、桜井ホンダの日浦が6番手、TOHOが7番手へ。
TSRに続いてYARTも先頭集団から脱落
するとレースは残り1時間ほどになり、189周目に3番手を走っていた#7 YARTが#74 アケノスピードを巻き込んで転倒。これでフロント5はついに、TSR脱落でフロント4に、そこからYARTが脱落してフロント3となり、HRC→KRT→ヨシムラの順でフィニッシュ。
4位争いは、エスパルス渥美が50秒近い差でTOHO清成に競り勝ち、鈴鹿8耐初出場の桜井ホンダ國井がTOHOの30秒差、YARTを抑え切って6位入賞を果たしました。
7位のYARTをはさんで、ATJ→TEAMコダマ→TSRホンダ→ホンダASIAまでが同一周回。ホンダASIAからTSRまでが約1分、TSRからTEAMコダマまでは約4秒、TEAMコダマからATJまでは約18秒という僅差でした。
鈴鹿8耐の歴史の中で、数チームのワークスチームの中から、必ずアクシデントやトラブルで脱落するチームはあって、プライベーターがいきなり上位入賞をする、っていうのもよくあること。今回は、TSRやYARTが脱落し、エスパルス、TOHOレーシング、桜井ホンダ、ATJ日本郵便、TEAMコダマの「プライベート5」が上位進出を果たしたレースになりました。
この「プライベート5」は、ほぼキット車的なマシンで、バイクショップや自身のチームを母体に戦うという体制で、この鈴鹿8耐を戦っているんです。
レース結果以外で順位をつけるのはナンセンスだってわかっていますが、エスパルスの4位はものすごいことだし、TOHOレーシング/桜井ホンダ/ATJ日本郵便はホンダ系有力プライベートチームだけに、この結果も納得、TEAMコダマの9位入賞こそビッグサプライズじゃないでしょうか!
次回はSSTクラスの戦いにスポットを当ててみます!
写真/木立 治 後藤 純 中村浩史 文責/中村浩史