2022年の第3四半期(7月〜9月)よりスタートが予定されている、電動バイクを使った新しいオフロードレースシリーズ「FIM E-エクスプローラー ワールドカップ」の3番目の公式マニュファクチャラーとして、オランダのEMXパワートレインが加わることが決まりました! 先に公式マニュファクチャラーとなったM-TEC(無限)やEM(エレクトリックモーション)に比べると、知名度は低い(失礼)同社ですが、一体どのようなバックグラウンドを持つメーカーなのか、皆さんはご存知でしょうか?
文:宮﨑健太郎(ロレンス編集部)
※この記事は「ロレンス」で2022年2月3日に公開されたものを転載しています。

ヤマハモーターヨーロッパN.V.と、ロイヤルダッチモーターサイクリスト協会(KNMV)が支援する、オランダ発の電動モトクロッサープロジェクト!!

今年に入って、「FIM E-エクスプローラー ワールドカップ」の公式マニュファクチャラー決定の報が続々と届いていますが、3番目にその名前があがったオランダの「EMXパワートレイン」は2018年にドームス・プロイェクテンB.V.社とELEOテクノロジーズ社(当時はスパイクテクノロジーズ社)の技術コラボレーションとして、その歴史をスタートさせています。

ドームス・プロイェクテンB.V.のエルマー・ドームスは電気・機械工学の専門家であるとともに、モトクロスのライダー兼トレーナーという人物です。彼は数年前、欧州をはじめ各地域でモトクロスを取り巻く環境(騒音や排ガスの問題)に大きな変化が起きており、既存のICE(内燃機関)車では対応しきれないと考えるようになり、競技用電動モトクロッサーのアイデアを生み出しました。

時を同じくして、モータースポーツの"持続可能性"調査を行なっていた、オランダのロイヤルダッチモーターサイクリスト協会(KNMV)のパトリス・アッセンデルフトは、ドームスのプロジェクトに着目しました。

パトリス・アッセンデルフト(KNMVディレクター)
「私はモトクロスの大ファンであり、ガソリンの匂いやエンジンの音も大好きです。ですから、私たちは従来の内燃機関をあきらめるつもりはありませんが、将来の可能性にも目を向けなければなりません。特に、サーキットでの走行が制限されるようになれば、将来への備えが必要です。有害物質を排出せず、騒音もない電動モトクロスマシンは、モトクロスの練習を容易にしてくれるのです」

そしてKNMVとともに、ヤマハ発動機のグループ企業であるヤマハモーターヨーロッパN.V.もドームスのプロジェクトを支援。Covid-19パンデミックの影響でスケジュールは遅延しましたが、2021年5月にはプロトタイプ車の最初のトラックテストを実施。着実に技術を蓄積し、前進を続けています。

画像: 2020年3月の開発の一場面。車体はヤマハの4ストローク250ccモトクロッサー、「YZ250F」のものを使用。パフォーマンスを大きく左右する部品であるバッテリーは、スパイク・テクノロジーズ社(現ELEOテクノロジーズ社)が開発を担当。ドームス・プロイェクテンB.V.は駆動系と重量配分などの設定を担当しています。 www.emx-powertrain.com

2020年3月の開発の一場面。車体はヤマハの4ストローク250ccモトクロッサー、「YZ250F」のものを使用。パフォーマンスを大きく左右する部品であるバッテリーは、スパイク・テクノロジーズ社(現ELEOテクノロジーズ社)が開発を担当。ドームス・プロイェクテンB.V.は駆動系と重量配分などの設定を担当しています。

www.emx-powertrain.com
画像: 2021年10月にオランダで行われた、電動モトクロッサー「EMX-PRO」走行テストの様子。 www.emx-powertrain.com

2021年10月にオランダで行われた、電動モトクロッサー「EMX-PRO」走行テストの様子。

www.emx-powertrain.com

彼らが開発のターゲットに掲げているのは、若手からベテランまで広いユーザー層を持つICE250ccクラスのモトクロッサーに対抗可能な電動モトクロッサーを生み出すことです。また電動モトクロッサー最大の利点のひとつ・・・電力をコンピュータ制御できるという特性を活かすことも、開発のテーマになっています。

つまり、彼らの作品「EMX-PRO」はICE125cc以下のレベルに電力を調整することで、ビギナーに適したマシンに仕立てることも、プロライダー向けのフルパワー仕様にすることも、簡単にできるわけです。またICE車のように、戦闘力を維持するためエアフィルター、クランク、ピストンなどのパーツの頻繁なメンテナンス・交換を必要としない点も、電動モトクロッサーならではの利点であると、プロジェクトのリーダーであるE.ドームスは主張しています。

画像: 【動画】Heavy Sand Track Test EMX-PRO 2021 www.youtube.com

【動画】Heavy Sand Track Test EMX-PRO 2021

www.youtube.com

EMX-PROはバッテリーに、交換式を採用しています!

EMX-PROの詳細なスペックは明らかにされていませんが、ELEOテクノロジーズ社が開発するバッテリーは簡単に交換できる仕様になっています。モトクロス競技では2ヒート制を採用することが一般的ですが、EMX-PRO用交換式バッテリーはヒート1とヒート2の間にバッテリー交換を行うことを想定しているわけです(外部充電器を使っての、プラグイン充電も可能です)。

画像: ヤマハYZ250Fのアルミ製バイラテラルフレームに搭載されるバッテリーとモーターは、オリジナルのICE搭載時と変わらぬ重量配分になるようにレイアウトされています。モーターは液冷式で、バッテリーも冷却システムを採用。高負荷がかかるサンドコースでも、安定したパワーを提供できるよう配慮されているそうです。なお多くの電動モトクロッサー同様に変速機は搭載しない仕様で、トルク伝達、フライホイール効果、エンジンブレーキなどのマッピングは、ハンドルバー左側のスイッチ操作により自由に設定することが可能です。 www.emx-powertrain.com

ヤマハYZ250Fのアルミ製バイラテラルフレームに搭載されるバッテリーとモーターは、オリジナルのICE搭載時と変わらぬ重量配分になるようにレイアウトされています。モーターは液冷式で、バッテリーも冷却システムを採用。高負荷がかかるサンドコースでも、安定したパワーを提供できるよう配慮されているそうです。なお多くの電動モトクロッサー同様に変速機は搭載しない仕様で、トルク伝達、フライホイール効果、エンジンブレーキなどのマッピングは、ハンドルバー左側のスイッチ操作により自由に設定することが可能です。

www.emx-powertrain.com
画像: 世界のモトクロス競技で活躍するヤマハYZF250Fの車体を使っていることは、EMX-PROの走りのポテンシャルを保証するひとつの担保になっていると言えるでしょう。 www.fimexplorer.com

世界のモトクロス競技で活躍するヤマハYZF250Fの車体を使っていることは、EMX-PROの走りのポテンシャルを保証するひとつの担保になっていると言えるでしょう。

www.fimexplorer.com

バレンティン・ギヨネ(E-エクスプローラー創設者兼CEO)
「EMXパワートレインは、2021年夏にFIM E-エクスプローラー ワールドカップのシリーズを立ち上げる際、我々の呼びかけに応えてくれた最初のOEMのひとつです。(中略)エルマー(・ドームス)は電動パワートレイン開発において誰もが羨むほどの実績と、モトクロスにおける数十年もの実績を持っています。EMXパワートレインとのパートナーシップの成果を見るのはとても興味深いことで、このシリーズがどのように技術をさらに前進させることができるのか、とても楽しみにしています」

エルマール・ドームス(EMXパワートレイン創設者)
「FIM E-エクスプローラー ワールドカップは、EMXパワートレインにとって素晴らしい電動プラットフォームであると同時に、電動ダートバイクの認知度を上げ、その可能性を強調するものです。私たちは、電動モーターレースを未来に推進するという同じゴールを目指しながら、定評あるブランドや独創的なパイオニアたちと、タイトルを競い合うことを楽しみにしています」

今年からスタートするFIM E-エクスプローラー ワールドカップですが、EMXパワートレインに続いて公式マニュファクチャラーに名乗りを上げるのはどのメーカーになるのでしょうか? そのニュースをお伝えすることを、楽しみに待ちたいです!

文:宮﨑健太郎(ロレンス編集部)

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