悲鳴に包まれる場内!

「赤旗だ!」「セーフティカー入れよう」「ライダー大丈夫か!」「コース、オイルだらけ!」
時刻は19時28分。トップのレイがフィニッシュラインを通過し、次にレイがここを通り過ぎるのは2分10秒以上後で、つまりチェッカーが振られることを意味します。たとえば、あと30秒ほど早くフィニッシュラインを通過していたら、レースはもう1周続きますからね。これが正真正銘のラストラップです。

空撮でレイの走りを捕えるモニター。するとレイは、S字上り区間で、明らかにオイルに乗ったと思われるモーションで転倒、グラベルへ吹っ飛んでいってしまいました!
その直前、レイが2コーナーをクリアしたあたりで、TV解説の辻本聡さんが言っていました。
「ここS字区間、上りですからね、さっきオイルがまかれたあたりだし、ペース落としてほしいで……あーーーーーーー!」
解説の辻本さん、そして北川圭一さんは、S.E.R.T.のマシンがオイルを噴いた時
「すぐセーフティカー入れなきゃ!」と話していました。もしこの時、セーフティカーが介入していたら、ひょっとしたらレイは無事にチェッカーを受けていたかもしれません。

画像: 幻の表彰台となってしまいました ヤマハもホンダもTSRホンダも好勝負を見せてくれました

幻の表彰台となってしまいました ヤマハもホンダもTSRホンダも好勝負を見せてくれました

悲鳴に包まれる場内、TVコメンタリーブース、メディアセンター、そしてTVを見ていた数千、数万のファンたち。それと同時にコースには赤旗が提示され、レースは中断。このまま終了となりました。なんてレースだ! なんて結末だ! チェッカーフラッグが振られることもなく、2019年の鈴鹿8時間耐久レースが終わってしまいました!

さらに混乱は続きます。次々とピットに帰ってくるマシンたち。この時点では、リアルタイムモニターは、トップが#21YFR、2位に#33HRC、3位に#1TSRホンダ。「この時点では」#10KRTはピットに戻れていませんから、リタイヤ扱いになっています。レースが終了して5分以内にフィニッシュラインを通過しない(またはピット、パルクフェルメに戻らない)車両は順位認定から除外されてしまうからです。
え? 優勝はヤマハ? カワサキは? 赤旗提示だと、その1周前の順位が正式結果でしょ? いや、5分以内に戻ってこれなかったからリタイヤ扱いじゃない? そんな声も、あちこちから聞こえていました。

しばらくの混乱と協議の後、FIMのレース実行委員会はいったん「優勝はヤマハ、2位ホンダ、3位TSR」との結果を宣言。一度はこの結果で表彰式も行われます。表彰式は、本来どのレースも正しくは「暫定表彰式」と呼ばれているもので、参加チームの抗議やレース後車検の結果によって、表彰式の後に結果が覆るケースもまれにあるものです。これが19時50分ごろ。
20時10分には、レース結果が発表されます。これも正しくは「暫定結果」で、1位ヤマハ、2位ホンダ、3位TSRホンダ。
20時35分にはFIMレース実行委員会が#10KRTからの「暫定結果に対する抗議」を受理。サーキットでは表彰式後の記者会見が行われる時間帯ですが、記者会見はなかなか始まらず、表彰式に登壇した各チームのライダーもいったんピットへ戻ります。記者会見も、正式裁定が出てから、とアナウンスされますが、今大会はレース後車検が29日月曜日に予定されていたため、正式結果は29日まで出されません。ひとまず、カワサキの抗議を協議し、レース実行委員会が「暫定結果を更新」するのを待って、最新の「暫定順位」とし、その結果で記者会見を実施するのでしょう。

画像: 一度はレースを完走できず、規定周回数をクリアしたことで暫定51位だったカワサキレーシング 表彰式、記者会見をパスし、そのまま一度はホテルに戻り、急きょ呼び戻されての記者会見でした。

一度はレースを完走できず、規定周回数をクリアしたことで暫定51位だったカワサキレーシング 表彰式、記者会見をパスし、そのまま一度はホテルに戻り、急きょ呼び戻されての記者会見でした。

そして21時35分。FIMのレース実行委員会は暫定結果を変更。優勝は#10カワサキ、2位#21ヤマハ、3位#33ホンダの順となりました。
「レースは赤旗提示の時点で終了。#10KRTはレース終了後5分以内にピットに戻らなかったため、一時は順位認定から除外しましたが、#10KRTから抗議があり、協議したところ『レース後5分以内にピットに戻らなければならない』というルールは、EWC(=世界耐久選手権)ルールブックに明文化されておらず、ルールブックに規定されている『赤旗提示の場合は、そのひとつ前のフィニッシュライン時点での順位を正式結果とする』を適応。よって優勝は#10カワサキレーシングチームです」とはFIMセーフティオフィサーのポール・デュパークさん。これによって、カワサキ26年ぶりの鈴鹿8耐制覇が決定したのです。

もちろんこの結果に対して、他チーム、特に一度は5連覇達成が実現したヤマハは抗議する権利を持ちます。しかし、ヤマハは「カワサキの抗議で暫定結果が覆った経緯を聞きたい」との申し入れのみで抗議をせず、事情説明の後、ヤマハは「FIMの裁定を尊重し受け入れる」と表明。大混乱の鈴鹿8耐に、ようやくピリオドが打たれたのです。

レース後、FIMの正式声明には、暫定結果が変更された理由が記されていました。
「赤旗提示の規則を再度厳密に精査したところ、FIM世界耐久選手権ルール1.23.1に定められた赤旗中断時の規則を適用し『赤旗提示時の1周前(216周)の順位』を結果として採用する」とのこと。
ルールブックでは、レースが「終了」して5分以内にフィニッシュラインを通過しない(またはピット、パルクフェルメに戻らない)車両は順位認定から除外されてしまうことは明記されていますが、「赤旗中断」での終了については規定がなく、「赤旗中断」のルールを適用する――ということでしょう。

いずれにしろ、あのアクシデントがあるまでは、まぎれもなく優勝はカワサキでした。それは、戦っていたライダー、チーム員すべてが実感していることでしょう。ヤマハの5連覇を願っていたファンは、言いたい所もあるでしょうけれど、ヤマハが「FIMの裁定を尊重し、受け入れる」という素晴らしくフェアでスポーツマンシップにのっとった声明を出しています。ここは飲み込みましょう! 2019年の鈴鹿8耐を制したのは、#10「カワサキレーシングチームSUZUKA8H」です。

S.E.R.T.のマシンがオイルを噴いてからのレース進行について、批判が続出しています。曰く、赤旗を出すのが遅い、オイル旗は出たのか、セーフティカーはなぜ介入しなかったのか……などなど。この批判の矛先が鈴鹿サーキットやモビリティランドにも向いていますが、これはお門違い。EWC世界耐久選手権の一戦である鈴鹿8耐は、FIMが主催・運営し、FIMが大会審査するもので、鈴鹿サーキットはその場所を提供、競技役員を供出しているだけです。赤旗やセーフティカー介入の判断はFIMレースディレクション、セーフティオフィスが決定し、その理由については一切の抗議質問が認められていません。どうしてあそこでセーフティカーを入れないの!と質問しても、回答は出てこないわけです。

いずれにしろラスト30分、ちょうどコースに雨が落ちてくるころまで、上位3チームが接近し、ロウズが高橋を逆転する19時15分後ごろには、トップ3がほとんど15秒以内にひしめいていた超激戦でした。終わり方に少しスッキリしないものは残りましたが、令和最初の、2019年の鈴鹿8耐は、ものすごい激闘だったと記憶しておきましょう。

画像: 2年連続、このふたりで鈴鹿8耐に臨んだレイ&ハスラム ら、来年も来ていただけるんでしょうか…

2年連続、このふたりで鈴鹿8耐に臨んだレイ&ハスラム ら、来年も来ていただけるんでしょうか…

□2019-20 世界耐久選手権 最終戦
鈴鹿8時間耐久ロードレース
観客:10万9000人(4日間合計)

1:カワサキレーシングチームSUZUKA8H 216周
2:ヤマハファクトリーレーシング
3:レッドブルホンダ
4:F.C.C.TSRホンダFRANCE 215周
5:ヨシムラスズキMOTULレーシング
6:YARTヤマハ 214周
7:MuSASHi RT ハルクプロHonda 213周
8:S-PULSE ドリームレーシング 211周
9:KYBモリワキレーシング
10:ホンダDREAM RT桜井ホンダ

写真提供/Kawasaki YAMAHA 写真・文責/中村ひろふみ

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