2月8日、MotoGPの2019年初テストであるマレーシア・セパンの走行が終わりました。コチラ<https://www.autoby.jp/_ct/17249590>でお伝えしているように、3日間総合ではダニロ・ペトルッチ(ドゥカティ)がトップタイムを獲ったわけですが、この時期のテストで重要なのは、タイムだけじゃなくいかにテスト項目をこなすか、ってこと。
特に、シーズン中のエンジン開発が禁じられている現在のレギュレーションでは、シーズン開幕前に、2019年シーズンを1年通して使っていくエンジンスペックを決めておかなきゃいけません。つまり、アレ試して、コレ試して、こっちで走ってみて、あっちで走ってみて――と忙しい。タイムアタックより大事なことがたくさん、ってわけです。
スズキのファクトリーチームであるTeamスズキECSTARは、2019年からMotoGPルーキーのジョアン・ミル(21・スペイン)が加入し、これが3年目のシーズンとなるアレックス・リンス(23・スペイン)との2人体制。ライダー2人の年齢を合わせると、ヤマハサテライトチームに続いて2番手に若いチームは、充実のセパンテストを済ませてきた、といいます。
オールエリアで進化した19年型GSX-RR
アレックス・リンス(AR)「3日間で今までにないくらい、ものすごく周回してきたよ。やることたくさん、でもテスト項目も消化できたし、いいテストができたと思う。2019年型は、エンジンも車体も、エレクトロニクスも変更されて、総合的にレベルアップした感じだったね」
これがスズキ3年目となるリンス、どうしたってまだ若手ライダーだと思っていたら、後輩ライダーができましたからね。すっかりもうエースライダーの風格です。
AR「3日間のうち、初日と2日目は2番手、3日目は12番手だったけど、今の時期は順位はそう重要じゃないんだ。僕はユーズドタイヤで周回するようなテストで、1分59秒前半のタイムでコンスタントに周回できたから、すごく手ごたえがあった。次のカタールテストでは、アクラポビッチの新しいマフラーが届くから、それで2019年の最終仕様を決められる感じだね。すごく充実した内容だった」
実際、リンスは初日に61周、2日目に61周、そして最終日に75周を走って、合計197周。これは、ヤマハファクトリーチームのマーベリック・ビニャーレスに次ぐ、2番目の最多周回数です。ちなみに4番目の最多周回は、チームメイトのジョアン・ミルでした。
AR「19年モデルは、エンジン、車体、エレクトロニクス、エアロダイナミクスと、オールエリアで進化している。去年のシーズン終了後のテストで乗った仕様よりもエンジンに力があって、今回のテストで3種類のスペックから1種類を選んだんだ。もう少しトップスピードが欲しいけど、僕が強化したかったブレーキングスタビリティが強くなって、コーナリングスピードも速いまま。オーストラリアやアルゼンチンのような、ハイスピードコーナーがあるコースで強いよね。あと、開幕戦のカタールも、ストレートが長いイメージがあるけど、最終セクションが右→右→右、ってコーナーでスピードを稼ぐから、いい結果が出せると思うんだ。あとはミサノ、セパン、ヘレス……あ、もてぎも大好きだなぁ」
リンスは昨年、最高位が2位。5度表彰台に上がり優勝まですぐそこ、なランキング5位のトップライダーになった。もちろん、今年最大の目標は初優勝、それもリアルな目標になってきた。
AR「テストの結果を見てもわかるように、ライバルはたくさん。それも拮抗しているよね。その中でも、スズキのマシンの強みを生かして、早く初優勝を実現できたらいいね。開幕戦のカタールで優勝できるよう、全力で頑張るよ。ジョアンも加入して、チームのムードがすごくいいからね」
瞬間的に速いよりコンスタントに強いライダーに
リンスが「すごく才能のあるライダー」と評する、新しいチームメイトがジョアン・ミル。昨年はMoto2クラスでランキング6位。2017年のMoto3チャンピオンだ。
ジョアン・ミル(JM)「まずはMotoGPのバイクに慣れるように、ひたすら周回してきたよ! Moto2と比べて、体力的にも厳しいと思っていたから、この冬の間みっちりトレーニングしてきたんだ。少し体も大きくなって、筋肉もつけてきたけど、それでもセパンの3日間は疲れたなー」
ミルの3日間、最終的な総合順位は15番手。しかしリンスの項でも書いたように、この順位は問題じゃない。15番手ながら、ベストラップは2分を切っての1分59秒486。リンスまで、あとわずか0秒3! もちろん、このギャップが大きいか、小さいかは本人がいちばんよく知っている。
JM「タイムは59秒に入ったけど、まだまだマシンに慣れなきゃいけないと思う。とにかくMotoGPマシンはね、ビッグパワーは気持ちいいんだけど、カーボンブレーキは暖めなきゃ効いてくれないし(笑)、トラクションコントロールのセットもすごく複雑。軽いし小さいし、よく止まる、それにエレクトロニクスがあって、勉強することばっかりだよ」
それでも、同じくMotoGPクラスにデビューするライバルのひとりであるフランチェスコ・バニャイア(ドゥカティ)が最終日に2番手タイムを出して話題をさらったことは気にしているみたい。しかし、これもミルに言わせれば、テスト特有の現象なのだそう。
JM「ペコ(注:バニャイアのニックネーム)のタイムは素晴らしいけどさ、1周だけソフトタイヤでいいタイムを出して、そのままテストを切り上げるような走行を僕はしなかったんだ。それより僕は、ユーズドタイヤでタイムががくんと落ちないように走り込みをして、最後の最後だけソフトタイヤでタイムアタックしてみたんだ」
結果、1分59秒486をマークしたミルだが、この周回でもミスがあったのだという。
JM「最終コーナーでオーバーランしちゃった。あれがなかったら0秒3は良かったはずだから、あとでタイムシート見てみたら、アレックス(リンス)とかマルク(マルケス)、バレンティーノ(ロッシ)と同じくらいの位置にいられたはずなんだよね。悔しいなぁ(笑)。でも、内容がまだまだだから」
21歳のスペイン人ライダー、しかもMoto3チャンピオンともなれば、もっとイケイケのライダーだと思っていたのに、ミルの印象はずいぶんと違っていた。
JM「少しずつね、ステップアップしてMotoGPマシンに慣れて、成績を出したいと思ってるんだ。だから、今回のセパンの3日間は、いいところからスタートしていい位置で終わることができた、内容の濃いテストになったと思う。タイムを出すより、とにかく走りこまないとね! Moto3からMoto2に上がった時もそうだったし、それはMoto2からMotoGPに上がった今年だって変わらないよ。1分59秒なんて、自分でも上出来だと思う」
注目のルーキーのひとりであり、いきなりファクトリーチームに加入した唯一のMoto2ライダーであるミル。2019年は、どんな目標で戦うのだろう。
JM「勉強の年だろうし、それでも勉強だけじゃなくてチャレンジもしたい。もちろん、成績を出すには時間もかかるし、1周だけいいタイムを出したり、1回だけポールポジションを獲ったり、1勝だけする、っていうライダーにはなりたくないな。ミスもあるけど、そのたびに強くなる、そんなライダーになりたい」
1997年生まれ、21歳のミル、実は子どもの頃のアイドルがバレンティーノ・ロッシだったのだという、。ちなみにロッシがGP125で初タイトルを獲った年に生まれているのだ!
JM「そのバレンティーノと一緒に走るなんてスゴいよね! それより、世界のトップライダーたちと同じ世界で走れることにワクワクしてるんだ。シーズン中盤にはすっかりバイクにも慣れて、初優勝した場所であり、そしてMoto3タイトルを決めたオーストリアで結果を残したいね!」
GSX-RRのGP2勝目が見えた!?
21歳と23歳という若いチームであるTeamスズキECSTAR。けれど、そこには若さゆえのムチャさはなく、勢いがあって、なおかつ慎重なチームだってムードが充分に伝わって来た。3日間のセパンテストが終わってすぐ、マレーシア発の最終便に乗り、日本に着いて都内入りしてすぐのインタビューだったというのに、ライダーふたりとも、すごく楽しそうに話してくれたのが印象的だった。
スズキGSX-RRがMotoGPに参戦して5年目、2019年はスズキGSX-Rにとっての2017年イギリスGP以来の2勝目が現実のものになりそうな気がするインタビューでした。
写真/依田 麗 SUZUKI 文責/中村浩史