アジア選手権日本大会が行われた週末、イタリア・ムジェロサーキットではMotoGPが行なわれました。
昨年のムジェロ大会といえば、アンドレア・ドビツィオーゾ(ドゥカティ)が「人生最高の日」だった、とのちに語っていたレースで、初めてイタリア人がイタリアGPで、イタリアのメーカーのマシンで勝つという、感動のオールイタリアンな1日でした。
メーカーにとってもライダーにとっても、ホームGPで優勝するってことは、こんなにすごいことなんだなぁ、って思ったものです。
しかし、ここムジェロでのレースは、実はヤマハが強いんですよね。02年のMotoGP期以降、まずはバレンティーノ・ロッシが02/03/04/05/06/07/08年と7連勝、09年のケーシー・ストーナー(当時ドゥカティ)、10年のダニ・ペドロサ(当時もちろんホンダ)をはさんで、ホルヘ・ロレンソ(当時ヤマハ)が11/12/13年と3連勝、14年には開幕10連勝を達成したマルク・マルケスが獲りますが、15/16年にまたロレンソが連勝、そこから昨年のドビツィオーゾ+ドゥカティの優勝だったんです。
つまり、02年からの17回のムジェロGPで、ヤマハが12回勝ってる、ってことです。もちろん、ロッシもロレンソも、ここムジェロには絶対的な自信を持っているでしょう。
公式予選は、そのロッシが獲りました。ロッシがポールポジションを獲るのは16年の日本GP以来で、これがキャリア65回目、ムジェロのコースレコードとなるタイムでのポールポジションでした。ちなみにロッシ39歳106日、最高峰クラスのポールシッターとしては74年マン島TTのジャック・フィンドレー(当時スズキ)に次ぐ最年長なんだそうです。Che spettacolo!
「いつも予選では苦しんでたから素晴らしいね、びっくりだよ。フロントローにつけたらいい、と思ったらポールポジションだもん。決勝はもっとキツくなるだろうけど、ポールは久しぶり、大事なことだし、すごくいい気分だよ」(ロッシ)
フロントローは、ロレンソをはさんで、予選3番手にマーベリック・ビニャーレス(モビスターヤマハ)。フロントローに、奇しくもムジェロに強いヤマハ2台と、ムジェロが得意なライダーが並びました。去年のポールもビニャーレスだったしね。
決勝レースは、ロレンソがホールショット! 2列目6番手スタートのマルク・マルケス(レプソルホンダ)が2番手あたりまで浮上するんですが、でもすぐにダニロ・ペトルッチ(プラマック・ドゥカティ)と接触し失速。ロレンソ→ロッシ→マルケス→アンドレア・イアンノーネ(スズキ・エクスター)→ドビツィオーゾ→アレックス・リンス(スズキ・エクスター)→カル・クラッチロウ(LCRホンダ)といったオーダーでオープニングラップに入っていきます。
そのクラッチロウの相方、日本代表の中上貴晶(LCRホンダIDEMITSU)はどこかというと、2コーナーで転んだダニ・ペドロサ(レプソルホンダ)に後方から当たられて、巻き込まれ転倒。再スタートしますが、そのままピットに入ります。でもなかなかボックスに入らないな、と思ったら、チームに「損傷個所を修復して走り続けたい」ってアピールしていたんですね。周遅れになっても、ノーポイントレースなのは確実でも、少しでも走りたかった――その気持ち、イイぞタカ!
このレース、序盤の転倒が多かったのも特徴で、次にスコット・レディング(アプリリア)、次にカレル・アブラハム(アンヘルニエト・ドゥカティ)、さらに次にはジャック・ミラー(プラマック・ドウカティ)、トーマス・ルティ(マークVDSホンダ)と、次々に転倒者が続出。路面温度が高いとき特有の序盤ですね。路面温度が高い→ハードタイヤで→序盤グリップしない→転倒、ってやつです。
トップグループはロレンソが引っ張り、マルケスがロッシをかわして4番手にイアンノーネ、少し離れてドビツィオーゾ、リンス、ダニロ・ペトルッチ(プラマック・ドゥカティ)。けれどロレンソはリアにソフトタイヤを履いていたので、路面温度が50°オーバーまで上がっていた時間帯ですから、このスタートも長くは……と考えた人も多かったでしょう。
5周目には、なんとマルケスが転倒。でも、下りの右コーナー進入でフロントを切れ込ませ、もう完全にマシン右サイドが接地してるっていうのに、しばらく路面を滑りながら、なんとか立て直そうとしていたのがスゴかった! ハンドルをイン側に切って路面にぶつけて、右ヒジで起こそうとしていました。あれ、グラベルじゃなく、もう少し広く舗装路面ランオフエリアがあったら、きっと立て直してたような気がします。いや、あんな転び方、初めて見ました!
レースはそのまま、ロレンソを追うマルケスがいなくなった(最後尾から再スタート)ことで、ロレンソは逃げ、7周目には後方からドビツィオーゾが2番手に浮上! ロッシはその後、後方からアタックしてくるイアンノーネ、ペトルッチ、リンスとポジション争いをすることになります。この集団が3番手争いですからね、この集団のトップに立てば表彰台に上がれるとなれば、そりゃぁヒートアップするでしょう。
でも、こうやってガチャガチャとバトルしていたら、トップのドゥカティ2台はやすやすと逃げてしまうもので、2番手と3番手の間隔は、7周目に0秒3だったものが、11周目には1秒1、12周目には2秒8、15周目には4秒3まで広がってしまいます。
そしてトップ争いも、快調にトップを走るロレンソがまったくペースを落とさないのに対し、ドビツィオーゾはラスト6周くらいからペースダウン。ちなみにタイヤ選択は、ロレンソが前ミディアム/後ソフトなのに対して、ドビツィオーゾは前ハード/後ソフト、ロッシは前ハード/後ミディアム、イアンノーネとリンス、ペトルッチが前ミディアム/後ソフトの組み合わせ。ハードだから序盤のペースは上がらないけど長持ちする、ソフトだから序盤トバせるけど長持ちしない、って定説は、レースペースとかポジション取り、展開にも大きく左右されるんですね。
結局、レースはロレンソが逃げ切ってドゥカティ移籍後初優勝! ロレンソ最後の優勝は(現時点で)ヤマハ最後のレースとなった16年最終戦バレンシアGPで、以来24レースぶりの優勝。もちろんロレンソがここまで優勝から遠ざかったことはありません。
ロレンソ、17年は最高位がマレーシアの2位、他にヘレスとアラゴンで3位表彰台に立っていますから、シーズン尻上がり、2年目の18年こそは最初から行くかも――という声も多かったんですが、今年は開幕戦でブレーキトラブルから転倒→アルゼンチンは15位→アメリカズは11位→ヘレスは多重クラッシュでノーポイント→ル・マンでようやく6位って出だしで、序盤5レースを終わってランキング14位ですからね!
あまり感情の起伏を表に出さないロレンソですが、チェッカーを受けた後はクールダウンラップで、マシン上で大騒ぎしていましたよね。あれ、泣いてたんだぜ、きっと(笑)。ヘルメットのシールド開けた表情が、目が潤んで見えましたもん。
中の人も、それ見てジーンとしてしまいました。あぁ、ホルヘとうとう勝ったかぁ、しかもイタリアでドゥカティ1-2フィニッシュだもんな、うれしかろうなぁ、と。ロッシがポール獲って3位表彰台、そしてロレンソが1年半ぶりの優勝と、ふたりのベテランが復活しましたね。
ですが、これ言っていいのかわかりませんが、ムジェロ入りする前には「ロレンソ、ドゥカティは今年限り」なんて話もパドックに出回っていました。ペドロサもどうとか、イアンノーネもどうとか、このロレンソの噂がホントなら、ライダー、チームスタッフ、ジジ・ダリーニャもデビッド・タルドッツィもどんな気持ちだったんだという(笑)。パルクフェルメではジジと抱き合ってたロレンソですが、ちょっと冷めてたような……表彰台でも、こりゃぁジジにシャンパンぶっかけるんだろうなぁ、と思ったらそうでもなかったし……。
しかし、イタリアでドゥカティが勝ったとはいえ、去年みたいにイタリア人が勝ったわけじゃないし、わがヒーローのバレンティーノを抑えやがってとか、アンドレアが勝ってくれたらよかったのに、なんて感じで大観衆もちょっと冷めてたというか、痛しかゆしだったんでしょうな。久々に見た、ウィニングラップのロレンソランド建設儀式(グラベルにロレンソフラッグを突き刺すやつ)も、あんまり盛り上がってなかったし……。ムジェロのお客さん、平気でバレ以外のウィナーにブーイング飛ばす人たちだから(笑)。
これで、マルケスがノーポイント、ランキング2位にロッシが浮上。前戦フランスまでの、ランキングトップ、マルケスのポイントマージンは36から23ポイントに減りました。もちろん、ロレンソがこれで完全復活したわけじゃないし、コースによって成績が上がったり下がったりするでしょうし、ヤマハ勢は昨年から引きずってるペース上げられない症状が治まってはいない、そしてホンダはマルケスが、ムジェロで転んだとはいえ、絶好調。
シーズンは、そろそろ中盤戦に差し掛かります。
次回、カタルニアGPは6月17日が決勝です! この日は全日本ロードレースも菅生大会ですよ!
写真/Michelin motogp.com Honda Yamaha
文/中村浩史
■MotoGP 第4戦 スペインGP結果
①ホルヘ・ロレンソ ドゥカティ
②アンドレア・ドビツィオーゾ ドゥカティ
③バレティーノ・ロッシ ヤマハ
④アンドレア・イアンノーネ スズキ
⑤アレックス・リンス スズキ
⑥カル・クラッチロー ホンダ
⑦ダニロ・ペルッチ ドゥカティ
⑧マーベリック・ビニャーレス ヤマハ
⑨アルバロ・バウティスタ ドゥカティ
⑩ヨハン・ザルコ ヤマハ