ペドロサ、その後の行動は……

MotoGP第4戦ヘレスから日が経ちました。ヘレスではオフィシャル事後テストが行なわれ、決勝レースで2位を獲得したヨハン・ザルコ(テック3ヤマハ)がトップタイムをマーク。以下、カル・クラッチロウ(LCRホンダ)をはさんで、ダニ・ペドロサ(レプソルホンダ)が3番手タイムをマークしました。
決勝ではアンラッキーな接触で転倒してしまったペドロサ、マシンからハイサイドを食らって落下した衝撃で「右側のお尻が痛い」と、このテスト参加は様子を見てから、と言っていましたが、無事に参加、しかも3番手タイムとはよかった。
そのヘレス、アフターレースのお話です。前回のエントリでも上げた決勝レース、ホルヘ・ロレンソ(ドヵカテイ)と接触してハイサイドを食らい、転倒リタイヤしてしまったペドロサですが、あの「事件」について、レース後にレースディレクションに出向いたようです。呼び出された、というより出向いた、というニュアンスでしたね。

画像: 写真=motogp.com ロレンソと衝突、ハイサイドで投げ出されるペドロサです

写真=motogp.com ロレンソと衝突、ハイサイドで投げ出されるペドロサです

レースディレクションっていうのは、MotoGPのレース運営委員会みたいな部署です。レース運営のスケジュール管理、レース中の運営なんかをコントロールします。しかし、ライダーへのペナルティに関しては、MotoGPスチュワードの管轄。だから、下のコメントでペドロサの言う「レースディレクション」は、MotoGPスチュワードのことを指すと思われます。スチュワードは、直訳すると「執事」とか「給仕さん」。世話役や幹事、って意味もありますね。

そのペドロサ、レース後のコメントですが、コメント後半部分に、その時の様子を語っています。

「レースは残念だったけど、もっと悲しくて失望したのは、レースディレクションが今回のことをきちんと理解していなくて、コース上で起こったことをどう裁定していいか、わかってなかったこと。今回のことを、彼らがどう判断するか知りたくて、レース後に話しに行ったんです。今回のことは、たくさんの人が見ていて、たとえば他のライダーも目撃しているよね。そこで、僕はレースディレクションに、どういう判断か、聞いてみたんです。
―― 僕は正しいライン(イン側)にいた?
「Yes」
―― アウト側にいる他のライダー(この場合はロレンソ)はミスした後に戻ってきて、正しいラインに戻っていいの?
「Yes」
―― じゃぁこんなケースでは、イン側の人とアウト側の人、どっちが正しい? イン側?
だれが悪いのか、間違っていたのか、僕にはわからない。ディレクションはすでに裁定を下していて、もし僕がそれに同意しなかったら、もちろんそうじゃないけど、もしホルヘを責めていいなら、アピールしていいの?ってこと。僕はホルヘを責めるようなことはしたくなかった。ホルヘにペナルティを与えたいわけじゃないからね。ディレクションに、コース上で起こったことを、きちんと理解していてほしいだけなんです」

無念さがにじみ出るようなコメントですね。もちろん、これはペドロサが、レース直後にレプソルホンダの広報担当者に、この日のレースのコメント、として語ったものだから、幾分のバイアスがかかってるかもしれませんが、言いたいこと、わかります。
きっと本音は「ホルヘ、なにやってんねん!」と怒鳴り散らかしたかったでしょうが、グッとこらえて、もう少し視野を広く「みんな安全にレースできるようにしようよ」って言っているわけです。
ちなみにペドロサと当たった後、ロレンソはチームメイトのアンドレア・ドビツィオーゾにも当たって、ドビツィオーゾを転倒させちゃってますが、ドビは転んだあと、ホルヘに向かっていきましたからね。「なにやってんだよー!」みたいなニュアンスでした。

そのロレンソは「今回、転倒した3人は、チャンピオンシップでもっともクリーンな3人。その3人が巻き込まれたことはアンラッキーだから、僕はもうこれ以上なにか、誰が悪いとか、話すことはないよ」と言っていますが、3人転んだ、というのが今回の事実で、誰かが間違ったことをしたんだけれど、それが誰かとは、人によって違うでしょう。
ロレンソは「後ろから来る方が前に気を配らないと」
ペドロサは「僕のラインにロレンソが舞い戻って来た」
ドビツィオーゾは「ふたりが悪い。でもペドロサはオーバースピードだった」とかね。

画像: ドゥカティにとっては、ふたりとも転倒という、さんざんなレースとなりました

ドゥカティにとっては、ふたりとも転倒という、さんざんなレースとなりました

ちなみに第2戦アルゼンチンGPでも、ペドロサは、今回のようなハードヒットじゃなかったにせよ、レース序盤にヨハン・ザルコに接触され、ハイサイドでスッ飛ばされて右手首を負傷。関節内骨折でスペインに帰国し、手術しています。その時のペドロサのコメントは、もっと言葉少なでした。

「レースに関しては話すことはあんまりないよ。このウィーク、いい仕事をして、走りもよかった。でも、レースは1周目に終わっちゃった。レースディレクションは出場ライダーの安全を管理しないとね。いまは右手首が痛いだけだよ、バルセロナで検査してもらうよ」

画像: 接触したっていうよりインに入られてラインを外して、濡れたとこに乗っちゃってハイサイド!に見えたアルゼンチンのペドロサ

接触したっていうよりインに入られてラインを外して、濡れたとこに乗っちゃってハイサイド!に見えたアルゼンチンのペドロサ

ここまでアンラッキーに見舞われたペドロサ。アルゼンチンの転倒も次レースを欠場することもなく、ヘレスの転倒も事後テストで3番手タイムをマークするほどですから、そう大きなケガではなかったかもしれませんが、この2レースでペドロサが失ったものは、自らのコンディションと同時に、レースポイントも、です。アルゼンチンは1周目だから結果の予想は難しいけど、ヘレスは2位争いの最中での終盤の転倒でしたから、勝手な予想をすると、表彰台に乗る可能性も高かった。この2レースで20~30ポイントはロスしているんじゃないでしょうか。

そしてロッシも……

そしてアルゼンチンと言えば、マルク・マルケス(レプソルホンダ)とバレンティーノ・ロッシ(モビスターヤマハ)もアクシデントの主役になってしまいました。
あのレースでは、スタートディレイの時にエンジンストップ、押しがけでエンジン再スタートに成功したマルケスが、グリッド内を逆走してスタートポジションについたことでピットロードのライドスルーペナルティを課せられて、後方からぐんぐん追い上げていたさなか、残り7周、ロッシに接触してしまったんです。
ロッシははじき出され、濡れたグリーンにフロントタイヤを取られて転倒、マルケスは生還してレースを完走することになりました。その後、ライドスルーペナルティ相当ということで、レース結果30秒加算でマルケスはノーポイント、転倒からマシンを起こして再スタートしたロッシもノーポイントという結果に終わったのでした。

画像: マルケスが言うには「フロントがロックして、レバーをリリースしたら当たってしまった」と それ理由になってないんですけどw

マルケスが言うには「フロントがロックして、レバーをリリースしたら当たってしまった」と それ理由になってないんですけどw

画像: 「謝ろうとしたらロッシが転んでたんです」 いや、だから…

「謝ろうとしたらロッシが転んでたんです」 いや、だから…

画像: 「バレだってこれまでそうしてきたじゃない。じゃぁザルコやペトルッチはどうなのよ」って…

「バレだってこれまでそうしてきたじゃない。じゃぁザルコやペトルッチはどうなのよ」って…

画像: これがアルゼンチン序盤、ペトルッチがアレイシにイッたシーン アレイシ、この後マルケスにもイカれます

これがアルゼンチン序盤、ペトルッチがアレイシにイッたシーン アレイシ、この後マルケスにもイカれます

「マルケスは自分勝手な振る舞いで、このスポーツを危険なものにしている。もう、彼と走るのは怖いよ」とレース後にまくしたてたロッシですが、その後にレースディレクションとミーティングがあって、怒りの矛を収めました。
「レースのこと、いろいろ言いたいことはあるけど、考えは変わらない。でも、僕はもう未来を向いていくよ」って。時間が経つとね、こうなっちゃう。あれこれ言ってもしょうがないしな、マルケスのこと責めたって、僕のポイントが戻ってくるわけじゃないんだし――そう考えを変えたのかもしれませんね。

もちろん、レースディレクションの決定は尊重しなければいけませんが、スタート手順違反→アレイシにブツけて→ロッシを転ばせたライダーへのペナルティとしては、ライドスルー→順位ひとつ落とせ→もう1回ライドスルー、って内容はちょっと軽かったんじゃないの、と中の人は思います。重いものなら、次戦は出場停止。または、チャンピオンシップポイントからいくらか引いときますよ、とか、そういうペナルティがあってもいいんじゃないかな、と思いますが、歴史上それはあんまりありません。なぜなら、多国籍のライダーが国を渡ってレースをしているわけですから、ライダーにとってのホームGPを欠場するのはよろしくない、という考えもあるのかもしれません。

事実マルケスはMoto2クラスを走っていた2011年、オーストラリアでラタパー・ウィライローに高速で衝突して負傷を負わせ、2012年にはカタールでトマス・ルティを押し出し、カタルニアGPでポル・エスパルガロに接触して転倒させ、60秒加算ペナルティで3位表彰台を剥奪されています。このカタルニアの一件は、当時MotoGPクラスを走るライダーからも賛否両論がありましたね。エスパルガロが無理やりインに入ったんだろ、マルクは悪くない、とロッシもマルケス擁護派でした。総じていうと、マルケスは事実として、接触が多いライダーです。ただ、もちろん故意じゃないし、マルケスだけ他のライダーと感覚が違ってる、ようにも思えるんですよね。
「前のライダーに追いついた→すぐ抜く」がマルケスなら、その他大勢のライダーは「前のライダーに追いついた→さてどこで抜いてやろうか」が普通でしょうから。ここは、1クッション置くというより、より労力少なく、危険じゃないところで抜く、って考えがあるからなんだと思います。

ヘレスでは、ロレンソがペドロサに接触はしたけれど、後方確認不十分だったとはいえレーシングアクシデント(=レース中のしょうがないアクシデント、おとがめなしの意味ですね)かなぁ、と思ったけれど、アルゼンチンでは後方からスッ飛んできてロッシにどーん!のマルケスが100%悪かったように見えました。それでレース結果にタイム加算されたとはいえ、その前にアレイシ・エスパルガロ(アプリリア)とも接触、スタート手順のペナルティもあったから、もっと段階的に重くなるペナルティを課してもよかったんじゃないかな、と中の人は思うわけです。ほんと、1レースに3回のペナルティはないわー(笑)

事実ヘレスでも、Moto3クラスのアーロン・カネット(エストレージャガリシア)が多重クラッシュの原因になったことで、Moto2クラスのルカ・マリーニ(SKYレーシングVR46)がホルヘ・ナバーロ(フェデラルオイルグレシーニMoto2)と接触したことでペナルティ(次戦グリッド降格)を受けています。ふたりとも、ロングストレートエンドの同じ6コーナーで、カネットはブレーキングミスで何台かを巻き込んで、マリーニはみんながアウトから入ったところにインをついてナバーロのリアタイヤに接触したことで転倒させてしまいました。これでペナルティなら、今回のロレンソはどうや、と。アルゼンチンのマルケスの走りはどないや、とそういうことです。

もうひとつ思うのは、転ばされた方の救済ですよね。まだシーズン序盤だから、そうクローズアップはされませんが、たとえばペドロサがアルゼンチンとヘレスで転倒に巻き込まれなくて、あと30ポイント持っていたとします。これがシーズン終盤なら、5ポイント10ポイントを争っている中、30ポイントはデカいよ~!

モータースポーツ、特にロードレースは接触があって当たり前のスポーツではあります。ぶつかんないように走ればいいだろ、なんて通用しないよね。アグレッシブさと乱暴さは紙一重だし、フェアな走りと消極的ってのも紙一重。だから、選手同士の信頼関係が一番大事なはずなんだけどね……。

そんなこんなでも、MotoGPは続いていきます。次戦5月20日に決勝が行われるフランスGP、平穏無事に終わってほしいです!

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