Racing AUTOBYのFacebookに、きのうニュースを上げました。
「TECH3、ヤマハと決別」――そう、ヤマハMotoGPのサテライトチームであるテック3が、2018年シーズンいっぱいでヤマハとのパートナーシップを解消し、19年シーズンからは新しいパートナーとMotoGP/Moto2活動を続ける、というニュースでした。
思い切りドライに言うと、レーシングチームを運営しているいち企業が、使用機材を変更しただけです。近年では、Teamグレシーニが使用機材をホンダRC213VからアプリリアRS-GPに変更したし、Moto2ではAJOモータースポーツが17年シーズンにカレックスからKTMフレームに変更。それと同じことです。
しかし、AJOのケースはちょっと違います。AJOでは、16年、ヨハン・ザルコがカレックスフレームでMoto2チャンピオンを獲得しています。それで翌年、いきなりKTMフレーム使うのかぁ、と当時は驚くだけでしたけど、Moto3ではKTMのファクトリーチームを運営していますから、さもありなん、ですね。つまり、KTMがAJOにMoto2チーム運営をオファーして、このペアリングが実現した、というケースです。
けれど、TECH3とヤマハが袂を分かつとはねぇ……。もちろん、グレシーニとHONDAのつながりも深かったですからね。ありえない話ではないんです。
けれど、今回のTECH3とヤマハの件は、キナ臭い噂ばかりが飛び交います。
実は、かのバレンティーノ・ロッシが、自身のチーム「VR46」(=現在はMoto3とMoto2に参戦中)をMotoGPクラスに昇格させる野望を持っていて、そこがヤマハのサテライトチームになるから、TECH3がはじき出されたのだ、とかなんとか。
実はこれにもいろいろ伏線があって、TECH3のマネージャー、エルベ・ポンシャラルさんが、昨年あたりからインタビューで「そのようなこと」を漏らしているのです。
「ウチはサテライトチームだから、バレが自分のチームで活動するとなったら、すぐにはじき出されてしまう。それはしょうがないさ」とかなんとか、ね。これは、TECH3が置かれている、なかなか厳しい立場も関係しているんです。それは後述しますね。
もちろん、MotoGPのパドックからバレンティーノがいなくなることは、グランプリにとって信じられないほど大きな損失ですから、興行主のDORNAとしては、なんとしてもそれを避けたい。DORNAの責任者、カルメロ・エスペラータが矢面に立ってバレンティーノをケアしているようですから、バレンティーノが現役ライダーを引退しても、そのままチームとしてパドックに留まるのは確実のようです。本人はMotoGPを引退したらワールドスーパーバイクや鈴鹿8耐を走りたい、と常々言っていますが、なかなかバレンティーノほどの人気者、影響力の大きい人は、自分がやりたいこと、周りが許してくれないんでしょう。
TECH3は、19年シーズンからKTMと組むのではないか、と思っています。僕だけじゃなく、そう思っている人は多いでしょう。
KTMは19年シーズンにMotoGP3年目を迎えます。常々、MotoGP活動を5年/100レース計画で考えているというKTM、3年目にジャンプアップする環境を作りたい、という考えを持っていたのでしょう。そのためにはサテライトチームを持ちたい、その運営チームとしてTECH3に話を持ち掛けた、ってことでしょう。
当初、GP125/Moto3のコンストラクターだったKTMがMotoGP進出を計画し、そのためにMoto2クラスにも参入したのは有名な話です。それは、せっかくMoto3で見出した育てたタレントが、KTMの空白地帯であるMoto2にステップアップすると、ホンダやヤマハとなんらかの関係があるチームに行ってしまうから、です。そうすると、将来的にMotoGPクラスで、自前の選手を乗せられないからなんです。
ちなみに、現在KTMのMotoGPクラスを走っているのは、ブラッドリ・スミスと、ポル・エスパルガロ。なんてこった、ふたりとも2016年までTECH3に所属していたライダーです! となれば、このふたりからTECH3がどんなチームなのか、チーム代表のエルベ・ポンシャラルが信用に足るかを聞き出せるし、そのうえでKTMのサテライトを運営するチームとして声をかけた、と。
そう、TECH3の置かれている厳しい立場がここです。これまで、自分のチームの選手をヤマハファクトリーチームに昇格させてあげられなかったのを、エルベは気に病んでいたといわれています。ポルとブラッドリはもちろん、それ以前にはカル・クラッチロウ、アンドレア・ドビツィオーゾ、コーリン・エドワーズ、ベン・スピーズ、ジェームス・トーズランド、シルバン・ギュントーリ、そうそう、玉田誠もTECH3所属でした。のちにポルとブラッドリはKTMで、カルとアンドレアはドゥカティでファクトリーチーム入りしましたしね。
これが、もしTECH3がKTMサテライトチームを運営することになったら、ファクトリーチーム直系のチームとして活動できる、ということなんです。
たとえば19年に、現在Moto2クラスを戦っているミゲル・オリベイラとブラッド・ビンダーを所属させ、後にファクトリー入りさせる、というステップを踏ませられるのです。もちろん、MotoGPチームの参戦チーム総量規制の問題はありますが、これでKTMの考えるMoto3→Moto2→MotoGPという自前でのライダー育成が可能となるんです。
これがKTMの言う5年計画の真の姿なのかもしれません。つまり、ヤマハがVR46のために席を空けようとTECH3を切ったわけじゃなく、TECH3とヤマハがケンカ別れしたのでもなく、KTMがTECH3のチーム運営力を評価してオファーした、と。そういうことでしょう。
もうひとつ、僕はエルベさんと少しだけの知り合いですが、すんごいイイ人! 僕は、2000年の最終戦のオーストラリアGPをフィリップアイランドまで観戦に行ったんですが、そのGP250クラスで最終戦までチャンピオン争いをしていたのが、中野真矢とオリビエ・ジャック。このふたり、TECH3のライダー、つまりエルベさんにとってはワールドチャンピンを自分のチームのふたりが争っていた、って状況。たまたま土曜の予選の時かな、メデイアセンターの隣の席にエルベさんが座ってきて、初めて知り合ったのです。500クラスの走行セッションを見ながらお話してたんですね。
――日本人のジャーナリストかい? これ、プレゼントだよ。
なんか、TECH3のグッズかなんかもらったんじゃなかったかな。
「ありがとう。それと、シンヤがいつもお世話になってます」
――いやいや、シンヤと仕事ができて、本当にうれしいよ。あすの決勝レースは大変な状況になっちゃったけどね。
「エルベさん、オリビエは同じフランス人だもんね。どっちにも勝たせたい感じ?」
――もちろん、あしたはフェアにやるさ。でもシンヤが勝ってもオリビエが勝っても、最高にうれしいし、最高に悲しいだろうけど。
そして翌日の決勝レースでは、レースの99%をリードしていた中野を、フィニッシュラインの直前でだけかわしたオリビエが優勝。ワールドチャンピオンとなったのです。その瞬間、大喜びするスタッフたちの中に、「やっちまった!どうしよう…」って表情で頭を抱えるエルベさんがいました。この時から、毎年のように挨拶だけをかわすのですが、エルベさんの印象は少しも変っていません。チームスタッフもあんまり変わっていないし、つまりはそういう「絆が強い」チームなんです。
そのエルベさんがヤマハを離れる決断をしたというのは、相当にすごい決断だったんだろうなぁ、と思うのです。
それから、興味深い争いももうひとつ。現在TECH3は「モンスターヤマハTECH3」というチーム名、つまりエナジードリンクのモンスターエナジーにスポンサードを受けています。それに対してKTMは「レッドブルKTM」、つまりモンスターエナジーの天敵であるエナジードリンクブランド、レッドブルが丸抱え。うがった見方をすれば、レッドブルがライバルブランドを追い落とすために裏で動いた――なんてね。「モンスターヤマハTECH3」がなくなって、果たして「レッドブルKTM TECH3」が誕生するのでしょうか。
言うまでもなく、以上のことは「TECH3とヤマハがパートナースシップを解消」という事実をもとにした、完全な空想、仮定の話。――信じるか信じないかは、あなた次第です。
主要ライダーの契約が続々と切れる18年。こんな話がたびたび起こるんでしょうか。キナくさい話じゃなければ、こんなストーブリーグもなかなか面白い!