V4は乗り手が使える「幅」が広いトルク特性
新型の「F」はサスペンション設定が煮詰められている

実は今回の試乗のちょっと前、3月に鈴鹿サーキットで開催された「2017 モータースポーツファン感謝デー」で、1997年型の鈴鹿8耐仕様のRVFに乗ったんですよ。20年前の古いレーシングマシンではありますけど、「やっぱりV4は良いな」と思いましたね。V型4気筒はトルクの出方がフラットなので、乗りやすい。直4は比較的ピーキーになりやすいですが、V4は乗り手が使える「幅」が広いトルク特性とも言えますね。

レースでもずっとV4に乗っていたので、V4には思い入れがあります。最初に乗ったのは87年の400㏄だったかな? 研究所の中でTTーF3仕様のRVFでしたね。そして88年にTTーF1仕様のRVF750で出場したのが、僕の初めての鈴鹿8耐でした。全日本と世界ロードレースGPで乗った、NSR500もV4ですね。まぁ2ストと4ストは別物ですけど(笑)。個人的にV4の乗り味が好きなこともあって、今でもV4と聞くと、心踊るものがありますね。

画像: V4は乗り手が使える「幅」が広いトルク特性 新型の「F」はサスペンション設定が煮詰められている

高回転域まで使って走れば、さらに魅力は広がっていく!

VFR800Fには、この連載でもマイナーチェンジ前のモデルに試乗しましたが、今回乗った新型は、基本的にはそのときに受けた印象から大きく変わってはいないです。でも確実に先代より熟成されている、という印象ですね。

先代モデルを試乗したときの話ですが、試乗前は自分が個人的に所有していたVFR1200Fのようなツアラーバイクだと、VFR800Fのことをイメージしていました。しかし実際に乗ってみたら、スーパーバイクレースのホモロゲーションモデルだった、RC45(RVF、94年発売)に通じる高回転域でのエンジンフィーリングの良さを感じました。スタイリング全体の印象からツアラーと思ってしまいがちですけど、VFR800Fは実はツアラーではなくスーパースポーツなんだな、と思いました。

街中で走っているときはゴツゴツした印象で、その良さがわかりにくい足まわりが、高速道路で使う速度域になるとちょうど良い作動感になるところも、マイナーチェンジ前のVFR800Fと一緒でしたね。でも新型は少し幅ができたというか、ちょっとコンフォート寄りにもなってますね。ペースアップすると動きが良くなる、スーパースポーツっぽい硬めのサスペンション設定は新型VFR800Fも同じですが、マイナーチェンジでこの辺りのセッティングを煮詰めたのでしょう。

あとVFR800Fは、新色のカラーリングが良いですね。マフラー、エンジンカバー類、ホイールの色と、車体色の銀のコントラストが、スーパースポーツ的なキャラクターに合っていて、気に入りました。

画像: 「大人のスポーツバイク」というコンセプトを踏襲するVFR800F。各種端末電源用のアクセサリーソケットなど、スポーツツアラーとしての装備を充実させた。

「大人のスポーツバイク」というコンセプトを踏襲するVFR800F。各種端末電源用のアクセサリーソケットなど、スポーツツアラーとしての装備を充実させた。

ウインドプロテクション性能は超優秀、一般道を長い距離走るならベストな選択!

VFR800Xは、マイナーチェンジ前のモデルで北海道ツーリングをしたことがあるのですが、新型はだいぶ良くなった印象があります。まずサスペンションが細かくチューニングされたのか、乗り心地がかなり向上しましたね。

試乗を始めてからしばらくは、フロントブレーキをパッとかけたとき、フロントサスペンションのブレーキダイブが大きい印象を受けましたが、リアのイニシャルアジャスターを締め込んで調整してみたら、最初から少しフロント側に荷重がかかるようになったので、それからはブレーキダイブのことはあまり気にならなくなりましたね。乗り心地を良くするためにフロントサスペンションを柔らかめにしたので、ブレーキダイブが大きく感じるようになったのでしょう。この辺りのバランスは難しいところでありますが、乗り心地が良くなったことのメリットのほうが大きいと思いましたね。

画像: 「クロスオーバーデザイン」のVFR800Xは、新たに5段階調整式のアジャスタブルスクリーンを採用。800Fとともに、ETC車載器とグリップヒーターを標準装備しており、「旅バイク」としての性能を向上させている。

「クロスオーバーデザイン」のVFR800Xは、新たに5段階調整式のアジャスタブルスクリーンを採用。800Fとともに、ETC車載器とグリップヒーターを標準装備しており、「旅バイク」としての性能を向上させている。

素晴らしいと思ったのは、ウインドプロテクション性能ですね。VFR800Xのスクリーンはそんなに大きくはないですが、形状などを良く研究しているのでしょうね。以前所有していたツアラーのVFR1200Fよりも良かったです。ホンダで一番ウインドプロテクションが良い、GL1800の次くらいに良いんじゃないかな? 調整可能なので、スクリーンの位置を高くしたり低くしたりして試してみました。ライダーの座高によって印象は変わるかもしれませんが、スクリーンの内側への風の巻き込みも少ないし、肩に当たる風までも防いでくれます。首にかかる風圧の負担も少ないので、高速道路をメインにしたツーリングにはVFR800Xはとても良いと思いますよ。

これはVFR800Xに限った話ではないですが、ホンダのグリップヒーターはよくできてますね。ヒーター付きのグリップであることを意識しないくらい、ヒーターの効き方が自然で絶妙です。今回の試乗は3月でまだ寒い時期でしたが、もし取材のあとこのまま、VFR800Xで夜の高速道路を走って、東京から仙台市の自宅まで帰れと言われても、躊躇なく乗って帰りますね(笑)。それくらい、VFR800Xのウインドプロテクション性能と純正グリップヒーターの組み合わせは素晴らしいです。

ライディングポジションはアップライトなので、街乗り走行も非常に楽ですね。タンデムについてはリアシートが高い位置にあるので、乗る人によっては後ろに乗った人の重さでふらつきを感じることもあるかもしれません。その点では車高が低く、重心の低い800Fのほうがタンデムしやすいと感じる人もいるでしょうけど、タンデム走行のしやすさ自体は、800Fも800Xも同じくらいやりやすいと言えますね。

旧型の800Xで北海道をツーリングしたときは、一般道を長い距離走るならアフリカツインが一番良いかな、と思いましたが、今回新型800Xに乗ってみて、直列2気筒のアフリカツインよりもV4を搭載する800Xのほうが個人的なエンジンへの好みもあって、その条件ではベストかなと考えが変わりました。800Xもアフリカツインもワインディングを「攻められる」バイクですが、やはりフロントタイヤが21インチのアフリカツインと17インチの800Xでは、アスファルトの上を走る分には、800Xのほうが多くの人はとっつきやすいと思いました。

後で資料を見て気付いたのですが、800Xも800Fも、別売りのオプション設定でクイックシフターが用意されているのですね。今回の試乗で2台とも、クイックシフターがあると、ツーリングがより楽になるだろうな、と思っていました。自分がオーナーになったら、クイックシフターはぜひ付けたいです。

800Xと800Fでは、ウインドプロテクションをはじめ様々な要素を考慮すると、ツーリングに使うには800Xのほうが向いていると思いました。高速道路だけじゃなくワインディング走行も楽しむツーリングで、ハイペースで走りたい人には800Fも良いと思いますが……。このあたりはツーリングに何を求めるかで、800Xと800F、どちらを選ぶかは変わってきますけどね。

共通エンジン、共通マフラーだが味付けは違う! 個人的には800Xのエンジンフィーリングが好き!

800F、800Xともに、ブレーキの制動力はスーパースポーツほど強烈に効くタイプではないですが、エンジンの出力に見合った設定だと感じましたね。人によって意見は様々みたいですけど、僕はサーキットをタイムアタックするのであれば別ですが、公道用のバイクにはABSは絶対付いていたほうが良いと思いますね。同様にトラクションコントロールも、安全を考えればあったほうが良いですね。

画像: 伊藤さんに2台の乗りこなし術を伝授(?)される沙織ちゃん。「乗りやすさでは800Xが800Fより上でしたが、乗りこなしてみたい、と思ったのは800Fですね」とは本人の弁。

伊藤さんに2台の乗りこなし術を伝授(?)される沙織ちゃん。「乗りやすさでは800Xが800Fより上でしたが、乗りこなしてみたい、と思ったのは800Fですね」とは本人の弁。

今回のマイナーチェンジでは、VFR800Fも800Xもマフラーが旧型の3室内部構造から、2室内部構造に変更されていますけど、800Xのほうは音がVツインぽくなったというか、旧型からだいぶ変わったのが印象に残りましたね。800FのほうはV4らしさを感じさせるサウンドで、旧型からそんなに変わっていない感じでした。800Fと800X、同じV4エンジンと同じマフラーを使っていながら、随分違うのだなと不思議に思ってしまいましたね。

VFR800Fと800Xのスペック表の数値を比べてみると、最高出力、最大トルク、2次減速比、タイヤサイズなどのスペックは共通ですが、それぞれのフィーリングの違いにも驚かされましたね。先ほども触れましたが、800Fはスーパースポーツ的なエンジンフィーリングで高回転域になるとパワー感が際立ちます。VTECの切り替わるタイミングは、旧型の800F同様あまり乗り手に伝わらないのですが、低速域と高速域の力感が明確に違いますね。一方800Xは、800FよりもVTECの切り替わりがよく分かる感じでしたね。また全体的には800Fより800Xのほうが、エンジンがスムースかつパワフルな印象を受けました。

800Fと800Xは、V4エンジンやマフラーなどのハードウェアは共通ですが、それぞれのモデルのキャラクターに合わせて、PGMーFI(フューエルインジェクション)のセッティングを変えているのでしょうね。今回の試乗で高速道路や一般道で2台を乗り比べしてみて、僕は800Xのエンジンフィーリングの良さが気に入ったので、800Fのシャシーにも800X仕様のエンジンを積んでも良いかも、と思ってしまいました。出力的には、800Fも800Xも800㏄ならばこれくらいかなという、公道用スポーツモデルにはちょうど良いパワーですね。リッタースーパースポーツのようにパワーを持て余すことがない。個人的にはバイクには、馬力はいくら合っても良いと思うタイプですけど(笑)。

VFR1200Fほど重くなく、CBR650Fよりも出力とトルクに余裕がある。VFR800Xと800Fが採用する「800㏄」という排気量は、スポーツモデルにちょうど良いバランスを狙っての選択なのかなと、今回の試乗を通して思いました。

画像: タンデムライダーの沙織ちゃんによると、シート形状の違いから800Xのほうが800Fよりも快適だったとのこと。

タンデムライダーの沙織ちゃんによると、シート形状の違いから800Xのほうが800Fよりも快適だったとのこと。

スポーツ走行を満喫するためのポジション! HONDA VFR800F

画像: ライディングポジションはコンパクトで、ツーリングにもスポーツ走行にも向いている設定と言えますね。スーパースポーツと比べてハンドル位置はそんなに低くないですが、燃料タンクの上に伏せようと思えば伏せることができる、良い高さだと思います。

ライディングポジションはコンパクトで、ツーリングにもスポーツ走行にも向いている設定と言えますね。スーパースポーツと比べてハンドル位置はそんなに低くないですが、燃料タンクの上に伏せようと思えば伏せることができる、良い高さだと思います。

画像: 新色の「デジタルシルバーメタリック」は、スーパースポーツ的なキャラクターを持つ800Fに似合っていると思いました。外装の銀、フレームなどの黒、そしてホイールなどの金という、カラーコーディネートが良いですね。

新色の「デジタルシルバーメタリック」は、スーパースポーツ的なキャラクターを持つ800Fに似合っていると思いました。外装の銀、フレームなどの黒、そしてホイールなどの金という、カラーコーディネートが良いですね。

画像: 左右の端まで伸びるX字デザインの、LED式ヘッドライトは、スポーツバイクらしいカッコよさを上手く演出しているな、と思いました。VFR800Fは今回のマイナーチェンジで、全体にスタイリングが良くなりましたね。

左右の端まで伸びるX字デザインの、LED式ヘッドライトは、スポーツバイクらしいカッコよさを上手く演出しているな、と思いました。VFR800Fは今回のマイナーチェンジで、全体にスタイリングが良くなりましたね。

長距離ツーリングに最適化されている! HONDA VFR800X

画像: ハンドル位置が高いので、当然のことですがVFR800Xは800Fよりもライディングポジションはアップライトなので、長距離ツーリングでも疲れなくていいですね。街乗りでも視線が高く、多くの人は800Fよりも先が見やすく感じると思いますよ。

ハンドル位置が高いので、当然のことですがVFR800Xは800Fよりもライディングポジションはアップライトなので、長距離ツーリングでも疲れなくていいですね。街乗りでも視線が高く、多くの人は800Fよりも先が見やすく感じると思いますよ。

画像: フロントサスペンションのセッティングが旧型より柔らかめになったことが、乗り心地の良さに効いてます。半面ブレーキダイブは大きくなってしまいましたが、乗り心地の良さのほうが大事なので、新型のセッティングのほうが良いと僕は思いましたね。

フロントサスペンションのセッティングが旧型より柔らかめになったことが、乗り心地の良さに効いてます。半面ブレーキダイブは大きくなってしまいましたが、乗り心地の良さのほうが大事なので、新型のセッティングのほうが良いと僕は思いましたね。

画像: 新採用された、5段階の調整が可能なウインドスクリーンのプロテクション効果は素晴らしいです。手動で調整する方式なのですがとても扱いやすく、その工夫された設計が見事ですね。VFR800Xのツーリングバイクとしての魅力を高める装備です。

新採用された、5段階の調整が可能なウインドスクリーンのプロテクション効果は素晴らしいです。手動で調整する方式なのですがとても扱いやすく、その工夫された設計が見事ですね。VFR800Xのツーリングバイクとしての魅力を高める装備です。

(まとめ/宮崎健太郎 モデル/大関沙織)

伊藤真一さんの試乗レポートは、オートバイ誌で連載中!

オートバイ 2017年5月号 [雑誌]

モーターマガジン社 (2017-04-01)

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