進化し続けるイタリア生まれのスポーツネイキッド
誕生から20年以上に渡り、人気モデルとしてドゥカティを成長させてきたモンスターが、原点に立ち返って「ネイキッドスポーツバイク」をコンセプトにモデルチェンジ。元WGPライダー、八代俊二氏が緊急試乗リポートする。
今でこそスクランブラーやディアベルといったシンプルでスタイリッシュなモデルがドゥカティの顔のように思われている節があるが、元々ドゥカティはSS(スーパースポーツ)や851や888といったスーパーバイク系ロードスポーツバイクが走り屋から圧倒的な支持を集める、極めてマニアックなバイクブランドであり、そのドゥカティを世界中でメジャーブランドに押し上げるきっかけを作ったのは1993年にリリースされたモンスターだったのだ。1993年にネイキッドスポーツというコンセプトを打ち出してリリースされたモンスターはそれまでロードスポーツバイク専業というイメージが強かったドゥカティのブランドイメージに幅を持たせることに成功したばかりでなく、その好調な販売により同社の屋台骨を支える存在となっていった。
デビュー当初、モンスターはSS900に搭載されていた空冷2バルブエンジンをベースに9 0 0㏄からスタートしたが、空冷エンジンを搭載するモデルをMシリーズとし、翌年からM600、M750を展開、日本には免許制度を考慮してM400も導入された。空冷エンジンで好評を博したモンスターシリーズは、2001年から水冷4バルブエンジンを搭載するS4シリーズを展開、一気にスポーツ性を高めていくことになる。それまでトレリスフレームに両持ちスイングアーム、左右2本出しのマフラーといった極めてオーソドックスなスタイリングを貫いてきたモンスターシリーズだったが、2004年に水冷4バルブエンジンを搭載するモデルをS4Rに改名すると、スイングアームをスーパーバイク世界選手権を席巻した916系と同じ片持ちタイプに変更、排気系もサイレンサー2本を右側に集約し高い位置にマウントするスタイリッシュなレイアウトに変更し、スポーツイメージを全面に押し出していくことになる。
翌2005年にはS4Rのデザインを踏襲しながら空冷2バルブエンジンを搭載するS2Rがデ
ビュー。当初800㏄でスタートしたS2Rは2006年に1000㏄に排気量アップされ、空冷シリーズは696、796、1100/1100S、1100EVOと展開。さらに、先頃イタリア・ミラノで開催されたEICMA2016では、797が2017年モデルとして発表されている。
一方、2001年にS4でスタートした水冷4バルブエンジン搭載モデルは、2004年にS4R、2005年にS4Rテスタストレッタ、2006年にS4RSテストストレッタと展開。モデルチェンジの度に急激に高性能化するS4Rシリーズはスーパーバイクに匹敵するほどの動力性能を獲得、もはやネイキッドスポーツと呼べない領域に達しており2008年を最後にラインアップから消滅した。しかしながら、デザインを一新し、モンスター1200として2014年に再びラインアップに加わった。そして今回、2017年モデルとしてリリースされたモンスター1200Sの進化やいかに?
パフォーマンスに磨きをかけた「S」
新世代の怪物が実力を見せつける
ニューモンスター1200Sを前にして最初に感じたのは、何か普通に乗れそう、という安心感だった。1 1 0 0 E V O や従来型1 2 0 0 S はバイク全体がボリューミー過ぎて取っ付きにくかったが、ニュー1200Sは従来型より容量が1リットル減っただけとは思えないくらいスリムになったタンクと、尻上がりになったものの全幅が狭くなったシートの効果で気合いを入れなくても乗れそうだと思わせる優しさがあった。またシートは座面がフラットで前方が絞り込まれているので足をまっすぐ下方に下ろしやすく、足着きも悪くない。実際のところ、ニュー1200Sはとても取っ付きやすいのだ。
試乗車は欧州仕様の150馬力で、同じ欧州仕様で比較すると従来型から5馬力アップ、国内仕様
に置き換えると従来型は126馬力だったからニュー1200Sは130馬力オーバーが期待できる
だろう。同じ150馬力ということで比較するならば国内仕様の1200Rが最高出力150馬力だが、その特性は驚くほど異なる。ニュー1200Sの方が数段静かでレスポンスも遙かに穏やかなのだ。とはいえ、それは1200Sのレスポンスが鈍いとかかったるいとかいう話では勿論ない。1200Rが凶暴と言っても構わないくらいスロットルのオンオフに鋭く反応するのに対し、1200Sは鋭くはあるが滑らかに反応する。常に戦う気満々の闘犬と、必要とあらば力は出すが普段は大人しく構えている躾の行き届いた大型犬の様と言えば分かってもらえるだろうか。それくらいニュー1200Sは洗練されている。反発力は小さいが切れの良いクラッチレバーを握り、シフトペダルを踏み込む。これまでドゥカティに限らず高出力バイクは、シフトペダルを踏み込んだ瞬間にローギアが入るガツンという衝撃を明確に感じられたものだが、1200Sでは従来型に比べその衝撃が格段に小さくなっているように感じられた。
TFTカラー液晶にバー表示されるタコメーターを眺めながら半クラッチを当て、ゆっくりとスタートする。2500回転も回せば余裕でスタート可能だし、走り出してからも操作が軽いライド・バイ・ワイヤ方式スロットルの効果で繊細なスロットル操作が可能だし、手首の疲れも少なかった。ホテルを出発してからしばらくの間、交通量が多く、アップダウンが連続するモナコの市街地を走ることになったが、操作が軽いスロットルと滑らかに反応するテスタストレッタ°11エンジンの相乗効果でモナコでの低速走行はまったく苦にならなかった。市街地を抜け高速道路に乗ってからもニュー1200Sの快適さは変わらない。走り出して直ぐに感じたことでもあるのだが、排気音が静かで滑らかに回転するエンジンは2気筒のパルスは感じるのだが、昔の2気筒の様なドコドコ感は希薄だ。トクトクとお湯が溢れ出るようにトルクが溢れ、淀みなくクランクが回転しスピードが増していく。
求めたのは妥協のない走る楽しさ
トルクでドライブすると言えばBMWのフラットツインを思い出すが、車体が伸び上がりながらじわじわと均一な調子でスピードが増すBMWとは違うニュー1200Sの加速は、最終コーナーから直線へ出て加速する競走馬のような軽やかさ(あくまでもイメージにしか過ぎない)がある。吸気側にミクニ製オーバル・スロットル・ボディー、排気側に1200Rと同じデザインの大容量サイレンサーを装着したデュアルスパークエンジンから発生するツインパルスはこれまで私が経験したことのない上質なものだった。高速道路といえどもほとんど直線区間が存在しない山間部の高速道路では、通常(少なくとも日本の高速道路)よりも短距離、短時間で車速を上げなくてはならないが、4000〜7000回転程度回せば余裕で流れに乗ることが可能だし、それ以上回せば前方の車両がバックしてくるかのような加速力を得ることもできる。キャスター角23・3度、トレール86・5㎜という数値は通常のロードスポーツとして見ても少々直進安定性に?がつくものだが、実際にはレーンチェンジなどは幾分クイックに感じられたが高速走行時の直進安定性は極めて高く、私の心配はまったくの杞憂に終わった。空を飛ぶように高速道路を駆け抜けた後、メインステージの山岳路に入る。四輪ならば反対車線も含めた道幅全部を使わないと絶対に回りきれないほどのタイトターンが連続する登坂路を進む。ここで抜群の威力を発揮したのがニュー1200Sに新採用されたドゥカティ・クイックシフトだった。
今回ニュー1200Sに装着されたクイックシフトはシフトダウン時にもクラッチ操作が不要なタイプで、1299パニガーレSに採用されている物より素早く作動し、ギアの入りもスムーズに感じられた。ローギアに入るときのショックが減ったこと、チェンジペダルのストロークがソフトになりギアの入りが良くなったことを考え合わせるとドゥカティはクイックシフトを素早く確実に実行させる為にトランスミッションそのものの品質向上を図ったのではないかと思えてきた。当初、任意でクラッチ操作していたが暖機がしっかり済んでいれば走り始めから使えることが分かり、以降必要に迫られた時以外、クラッチを操作することはなくなった。ただしシフトダウン時はしっかりとスロットルを全閉にしなければならないし、私のようにシフトペダルに爪先を乗せる癖があるライダーはクイックシフターの誤作動を招かないように左足がシフトペダルに触れないように努めなければならない。しかし見方を変えると、それらを守りさえすれば近年飛躍的に高出力化したバイクを、快適かつ思いのままに楽しめるということでもある。最新の電子制御を纏ったニュー1200Sはドゥカティが目指した「スポーツ・ネイキッド・バイク」への回帰どころか、そのレベルを新次元に引き上げたと言っても過言ではないだろう。(文・八代俊二)