『AKIRA』の金田のバイクを彷彿とさせる「クエーサー」は、1970年代イギリス発の全天候型バイクです。スズキ「GS850G」のシャフトドライブエンジンや低重心姿勢を採用し、二輪の概念を打ち破ろうとしました。生産30台未満ながら強い爪痕を残した夢の逸品です。

まとめ:ヨ(webオートバイ編集部)
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バイクはなぜ馬のように跨らなければならないのか?

日本製バイクを素材としたコンプリートカスタムは数多く存在するものの、クエーサーの名を知る方は少ないのではないでしょうか。1970年代のイギリスで生まれた小規模なファクトリーながら、そのオリジナリティとパフォーマンスは知る人ぞ知る逸品。商業的な成功こそ収めませんでしたが、バイク界に残した爪痕はあまりにも大きなもの。ここでは、スズキGS850 Gのコンポーネントを移植した全天候型バイクをもとに足跡をたどってみましょう。

画像: 1970年代半ばに生まれたクエーサーは、ふたりの奇才による意欲作で、バイクの常識をいろいろと覆しています。

1970年代半ばに生まれたクエーサーは、ふたりの奇才による意欲作で、バイクの常識をいろいろと覆しています。

そもそもは工業デザイナーのマルコム・ニューウェルと、エンジニアのケン・リーマンのふたりが「バイクはなぜ馬のように跨らなければならないのか?」と、二輪車の歴史に挑戦状を叩きつけたのがはじまりです。なお、クエーサーというのは、マルコムの命名で準恒星状天体、すなわり「宇宙で最も明るく、強大なエネルギー」をイメージしたとされています。

彼らの開発哲学となったのは、バイクのネガをつぶそうという野望でした。つまり、雨風にさらされる、重心が高い、転倒時のリスク等へのソリューションであり、言うまでもなくバイクを根幹から再構築するという大いなる挑戦だったのです。

画像: ワイパー付きのフロントスクリーンや、全天候型キャノピーなど、未来を先取りしたかのようなスタイリング。

ワイパー付きのフロントスクリーンや、全天候型キャノピーなど、未来を先取りしたかのようなスタイリング。

馬力2倍のバイクのエンジンを搭載して作り直す

開発期間1年ほどで、走行可能な試作車ができあがってみると、マンガ好きなら真っ先に「金田のバイク」を思い浮かべる未来チックなマシンでした。クルマにほど近いバケットシートをはじめ、ワイパーを装備したキャビンなど、バイクの世界をはるかに飛び越えたものだったのです。

横から見ればお分かりの通り、ライダーはバケットシートに深く腰掛け、足を前方に伸ばして操作(フィートフォワード)します。これにより、低重心化、優れた空力特性、そして大型の屋根による全天候性(ヒーターまで完備)を実現。快適性と安全性の見事な融合だと、当時のメディアには称賛されたのでした。

画像: バケットシート呼ぶのがふさわしく、フィートフォワードなポジションとあわせて独特な乗り味を生み出しています。

バケットシート呼ぶのがふさわしく、フィートフォワードなポジションとあわせて独特な乗り味を生み出しています。

画像: ハンドルこそバイク風味ですが、クエーサーのコーナリングは体重移動ではなく、ハンドルで曲げるものと伝えられています。

ハンドルこそバイク風味ですが、クエーサーのコーナリングは体重移動ではなく、ハンドルで曲げるものと伝えられています。

1976年の発売当初は、イギリスのリライアント・ロビンという3輪自動車のエンジンを流用しており、21台だけがリリースされました。が、リライアントが倒産したことによって、クエーサーは新たなエンジンを探す羽目に。そこで、経緯のほどは不明ながら、白羽の矢が立ったのがスズキGS850 Gの4気筒エンジンだったのです。リライアントが40馬力程度だったのに対し、GSは76~80馬力となりシャシーの強化までなされることになったのでした。

画像: スズキGS850 Gのエンジンとシャフトドライブを移植。およそ80馬力の出力は、300kg近い車重にも十分な性能とされました。

スズキGS850 Gのエンジンとシャフトドライブを移植。およそ80馬力の出力は、300kg近い車重にも十分な性能とされました。

意欲的すぎるクエーサーのパッケージは、ホイールベース2286mmというクルマ並みの数字です。これはライダーのポジションと重心設定によるものですが、さらにはフロントサスペンションにアールズフォークを応用したリーディングリンク式を採用していることも一因と呼べそうです。フローティングブレーキと連動させた機械式のアンチダイブ機構は、クエーサー独自の設計で、ブレーキ時に発生する慣性力(前にのめり込む力)と、リンクの反作用が相殺し合うという優れもの。また、GSのシャフトドライブもマルコムらが採用に踏み切ったポイントとされ、信頼性の高さがアピールされています。

画像: アールズフォークはステアとサスペンションを別系統にした設計で、その思想はハブセンターステアリングにも通じています。

アールズフォークはステアとサスペンションを別系統にした設計で、その思想はハブセンターステアリングにも通じています。

画像: リアの10インチホイールは、GSのハブだけを切り取って、別のクルマのホイールに付け替えるという手の込んだ作り方。

リアの10インチホイールは、GSのハブだけを切り取って、別のクルマのホイールに付け替えるという手の込んだ作り方。

50年前に技術を模索した確かな足跡

ここまで読むとクエーサーはいいことづくめな印象ですが、実際のインプレを探るとやはり先駆だけあって多少のネガもあるようです。たとえば、体重移動でのコーナリングができないとか、ポジションの都合から低速時や停車時の取り回しの悪さ、あるいはフロントスクリーンにできてしまう死角など、一定の条件下では恐怖感さえ覚えてしまいそう。もっとも、それらはいずれも「慣れてしまえばどうということはない」ものかもしれません。動画で走行シーンをチェックしてみると、それはそれで痛快な様子。宇宙の強大なエネルギーまではいかなくとも、バイク好きなら快哉の笑みを浮かべること間違いありません。

画像: おそらく後付けのデジタルメーターが速度計と思われるので、メーターまわりは非オリジナルと考えた方がよさそうです。

おそらく後付けのデジタルメーターが速度計と思われるので、メーターまわりは非オリジナルと考えた方がよさそうです。

そんなクエーサーの総生産台数は多く見積もっても30台に満たないもの。ご紹介しているサンプルにしても、同じモデルはこのほかに1台あるかないかという珍品です。それゆえ、オークションに出品されることも滅多になく、約300万円という指し値も高いのか安いのか判然としません。ただ、分かっているのはメカ好きなふたりがド根性で作り上げた画期的なマシンには、奇想天外な夢がてんこ盛りということ。少なくとも、おかしなバイクだね、と笑い飛ばせる存在ではなさそうです。

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